狛犬談議
世の中は連休へと入るようじゃ。
そろそろ湊の都合を見て、集めた気をこの土地に流さねば。
気で満ちたこの町を見せれば、帰郷した者たちも戻って来る気になるのではなかろうか?
もちろん、新しく来る者たちの目にも魅力的に映ってくれれば、これ以上のことはない。
湊と吽形のお陰で、主様との縁を深めるまでの”参る石”を定められそうじゃしのう。
しかし、吽形が言うそれは…なんというか、ワシの知るものとは少しだけ違う気がするんじゃが…
―――
「町を良く知る宇美さんから得た情報ですが、その町の人々が匙を投げた件でもあります…そんな難問へ、私たちがどう関わっていくかを考えましょう」
なんじゃ?その眉間に指を当てる仕草は?
「先ずは、”海水浴客を呼べる環境を整える”、ですね」
「これは湊も真っ先に挙げておったな。以前、砂浜に気を流しておるが、全体には至っておらぬ。また、海には常に流れがあり、気も流れ出やすい。砂浜は良いが、海に関しては今の我らだけでは難しいのう」
「次に、”客足が増える時期だけでも、バスや電車の本数を増やしてもらう”」
「これは線路や道として見れば、気の導線でもあり、最終的には外へ流れてしまう場所でもある。うまく流れを引き込み、町の中を循環して出ていくように持っていきたいのう。何にせよ、バスや電車自体は、観光客や住民が増えた後に人が動かす部分じゃな」
「その次に、”商店街の飲食店へと人を引き込む”」
「町としては突然人手は増えぬじゃろうから、暫くは町の者で助け合うことになるじゃろう。先日、依代越しに見たが、屋根のある通りや袋小路もある。人が増えれば、それだけ濁りやすくなろう。都度、浄化などの対応が必要になろう。しかしこれは、道より先に整えておくべきじゃと思うぞ?」
「さらにその次、”細々と継続している宿、休業、閉業してしまった温泉宿の再開、復興”、です」
「山や丘、窪地、水が絡み、場所による対応を必要とするじゃろう…ここは時間がかかりそうじゃな」
「そう言えば、温泉宿のあった辺り。昔から何か…燻るものを感じていたのですよね…」
あるのう。
主様の御威光は、繋がりが細くなった今でも、隅々へと届いておるはずじゃが…
なれば、主様の意向で遺されておるのかも知れぬ。今はこれ以上深掘りすまい。
「…しかし、宿に繋がれば、夏だけでなく、四季を楽しめると思うのじゃ。秋は紅葉を楽しみながら、冬は雪を見ながら湯に浸かり、この土地の新鮮な魚や山菜を楽しめるのであろう?それを楽しめる余裕のある者たちならば礼節もあり、きっと参拝にも繋がってくれよう。宿が整えば季節を問わぬ客足へと繋がり、商店街も交通の便も夏だけでないものとなろう」
「…そんなに上手く行くとは思いませんが、現実味を帯びてきたと思います」
とはいえ、結局のところ…この土地に満遍なく気を補填していかねばならぬ、とワシは至ってしまった。
必要と思われる参る石の節目を全て網羅しても、目標に到達できるほど甘くないのはわかる。
「湊くんへと提案した”お祭り”。我ながら、お互いに良い目標になると、軽い気持ちで挙げたのですが…」
なんじゃ?
「私たちの目標である、主様と社との縁を深めた――その先に在るものだと思いました」
「我らの願いの、先に在るもの、かの?」
「はい」
「良いな。本当に、良い目標じゃ」
―――
社の入り口。
我らは鳥居の前で礼を行い、石段を登り出す子供を二人確認した。
「ミナト、なんか…石段登るの早くない?」
「んっふっふ、ケイ君が遅くなったんだよ」
湊は日々、石段の昇降を繰り返しておるしのう。
そりゃあ足腰も強くなるじゃろうよ。
しかし、湊に負けず劣らずの日焼けしたこの少年は…?




