順番
〔いねぇなぁ……〕
楓よ、悪態をつきながら社の石段を登って来るのは止めよ……
まぁ、気持ちは分からんでもないんじゃが。
湊、景、凪。それぞれの組が一体ずつの闇を捉えることができた。
皆、幸先は良かったのじゃが、そのまま誰も二体目には出会えぬまま、自然と社へと集まってきた。
どうやら昼を迎えたようじゃ。
「ミナト、携帯どうにかしろよー。集まるタイミングわかんねーじゃん」
「んー、滅多に使わないからなーって。ごめんねー」
「どうせさー、ココ来れば阿吽が教えてくれるからなー」
「そうだけどさぁ…」
皆が揃ったのを見計らってか、景が連絡手段について話し出した。
うーむ、ワシも湊に携帯を持ち歩いて欲しいんじゃが……壊した理由がワシじゃから、何にも言えん。
景に同調する結の刺すような視線は、甘んじて受けよう。
「そんなことよりさ。楓の考えだと、砂浜の闇と合わせて、最低でもあと1体はいるんだよね?」
〔おう。アイツに邪気モグラを渡したら、“三郎”と名を呼んでたからな〕
腕を組み胸を張った状態で、湊の質問に答える楓。
……何じゃ? 帯びておる邪気の性質が変わってきておらんか?
“三郎、無事じゃったか……”
“てっきり食われてしまったかと”
うむ。ワシも楓が吸収したもんだと思うとった。
“浜辺に残した妾も無事なのじゃな”
楓の無礼から始まったようなもんじゃが、楓により繋ぎ止められたかのう。
「ボクとカエデが捕まえたのが“四郎”って獏でー」
凪が景へ続きを促すように視線を送った。
“死郎じゃぞ”と闇がこぼしおったが、聞いた限り違いが分からん。
「オレたちが“一郎”。鳥だったよ」
“梟じゃ! 夜の森の中なら、おヌシらなんぞにっ!”
……うむ。限定的じゃが、その状況なら捉えるのは困難じゃったかも知れぬ。
「僕たちは犬みたいな形した“五郎”」
ワシも間近で見たが、あの鋭い見た目には意匠の拘りを感じた。単純に“犬”とはせぬじゃろう。
“犬じゃ”
犬じゃった。
「じゃあ順番的に、あとは“二郎”が残ってんのかな?」
うむ。
誰かが三十郎や五十郎なんぞ捕まえておろうものなら、迷わずあの二人に助けを乞うとる。
「私もそう考えます。保険を掛けて体を分けたのでしょうから、獣だけを逃すとは考えにくいです」
闇に造られた獣たちは、楓や景が推測した通り、闇の仕組んだ命令をこなすようじゃ。
また、闇は獣たちに命令をして運んでもらっておるのじゃろう。
〔おい、白犬。俺らンとこの闇は邪気を吸いすぎた。俺や結と変わらねぇ姿に変わりやがったし、俺や凪の目じゃ追えねぇ速さで動きやがった。覚えといてくれ〕
「ぐ、ぐむぅ〜?」
……ワシは唸るしかなかった。
後から小出しで情報を出してくるの、やめてもらっても良いかのう?
楓も今と比べれば不安定な“禍”を名乗る時期があり、凪との繋がりが強まるに連れて変化を続けておる。
結も景との繋がりが結ばれるまでは姿を持たぬ時期があった。
そんなおぬしらと違い、闇が闇だけで姿を持った?
何にも繋がらずに?
いや、知らぬうちに何かと繋がった……?
何と?
{クハッ! 無い頭を揃えて口から漏れる音、なかなかに愉悦じゃ。おぉ、その不快感、甘露甘露! ほれ、もっと――もがー!?}
{妾が得にもならぬ事を教える義理もなかろうよ? クッハハハハ!}
{妾よ、やたら邪気を食んだ状態で捕縛されたのじゃな? 少々分けてくれぬか?}
{何じゃ妾よ、やけに虐められたのじゃな? 童ども、ぼーっとせず石を近づけぬか!}
{もががっ、ぶはっ! 苦い邪気で口を塞ぐな阿呆っ!! あっ妾、妾も欲しいぞ! 妾も〜!}
やかましい。
―――
子供たちはそれぞれ、自分の家へと昼食に戻ることにしたのじゃが……
「そんな爆弾みたいなもん、ここに置いて行かぬか!」
子供たちそれぞれが闇を封じた石を持ち帰ろうとするので、思わず止めた。何を考えとるんじゃ……
〔馬鹿か? こんなもん揃えて置いとけねぇだろ〕
「アタシらが封じたんだから、何かあっても何とかできるって」
「これ揃うと、どうなると思う?」
「“日本中のみんなー、心に巣食う邪気を妾に分けておくれー”」
「ははは、揃ったらって話、どこいったんだよ」
{それ良いのう?}
「「うわ…」」
あーもう、好き勝手話しおって……収拾つかぬぞ。
「阿形。社と家との往来で、残る闇に出会ってしまったら?」
……そうじゃなぁ。
話半分に聞き流しておったが、揃った闇が集結すれば、たとえ境内であっても対処が難しくなるやもしれん。
個別で封じたのじゃから、万が一が起きても、もう一度封じることはできるかもしれん。
「……じゃがのう。もしその石の効果が失われてしもうたら? 落として壊れでもすれば、封じる術がなくなれば……最悪はそ奴らを――」
{ふん。……案ずるでない。たとえ石から出れたとしても、逃げようなどとは思わぬ}
{浜辺に残した妾の意向、無為にはせぬ。というか、物騒な話の持って行き方しおって……}
{そもそも……いや、良い。浜辺の妾とおヌシらの約束が違えておらぬのじゃ。ならば二郎と居る妾以外の妾らは、静かにすると約束してやる}
わらわらわらら……んんっ、残る闇はあと1体。
違う、そこじゃ無いのう。そこもじゃが………
闇の失言から、皆の間の抜けたような顔が覗いたが、すぐに安心の顔へ変わった。
まぁ、終着点が見えるだけで心の持ちようは大きく違うからのう。
{妾ぁ……}
{……あっ?}
{どうしたんじゃ? のう、もう少し邪気欲しいのう……ちらちら?}
そのまま、ゆっくりしとれ。
―――
湊の持つお守りに繋がっておるワシと分け身の耳に、湊と一緒に食事をとる宇美と英彦の言葉が届いた。
「湊。今日の夜は景くんの家でご飯食べるから、遅くならんようにしてよ? あ、英彦さん。博明さんたちも来らすんでしょ?」
「うん……昭一からは、そう聞いとる」
「うふふふ。湊、みどりさんも来らすから、晩御飯は絶対美味しいよー?」
「うはぁ〜、やったぁ! ナギくんたちも呼んでる?」
「そこは大丈夫。国治さんからも伝えてもらっとるよ」
「んふ〜」
魚釣り名人の名がまた聞こえたのう。
また賑やかな夜になりそうじゃが、闇の件が残っておるのが気がかりじゃな。
国治……主様を祀る社で、半ば引退しておった宇美《権禰宜》と繋がり、国治の姉の子供である凪とも繋がりができておった。
その宮司が、今朝はいつになくチラチラと見える位置で動いておったが、何かを予見しておるのかも知れぬな。




