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十人十色


「よっし! 結、吽形、次行こう! 捕まえたのって俺たちが一番なんじゃない?」


 闇《くらがり》の分身を封じた石を手にしたケイが、やたら機嫌よく次を急ぐ。

 出会った頃のヤンチャさとは違う……なんだろこれ。


 すっごい笑顔を見せられて思わず引っ張られそうになったけど、ダメ、ちょっと落ち着こ。


「ね、ケイ。アタシ、あのちっこい森(放置ビニールハウス)も気になるんだよね」


{…}


「ん? 闇《くらがり》は捕まえたんだから、もう罠は動かないんじゃないの?」


 どうだろ? アタシにそれは分かんない。

 ほら、闇、どうなんだよ? そんな視線を石に封じた闇に向けたけど無視された。


 …あーね。

 アタシは続けてケイの胸元にあるお守り(吽形の分け身)へと視線を移した。


「だってさ? さっきまで煩かった闇が、この話を始めてから急に静かになったんだよ?」


『えぇ、怪しいですね。今の景くんの在り方も含めて』


「え? えぇ? オレもなの!?」


 “闇があそこに何か隠してる”って意味で吽形に視線を送ったら、ケイが巻き込まれたでござる。

 なんでだよ?


「あっ、もしかしてケイって隙を突かれた? マスク(お守り)してんのに?」


『結。表現に気をつけてください。主様への無礼は見過ごせませんよ?』


 うわ怖《こわ》っ、すいませんでした。

 でもそれ(お守り)は主様(大国主)じゃないだろ…


 でも、そっか。確かにケイって目の前で邪気浴びてたもんなぁ…


「…あー、オレ、さっきので潜り込まれたんか。すっげ、お守りも抜けてくんの?」


「多分ね。マスクしてても、風邪引く時は引くだろう?」


「あーね」


『結っ! 景くん!』


「「ごめんなさい」」


 ケイに分かりやすく例えようと思って…ごめん。


―――


「なんかさ、妙に勝ちに拘《こだわ》っちゃってさ…急がなきゃって気持ちというか、ミナトやナギに見せつけたいというか…全く思ってなかった訳じゃないけど、こんなさらけ出したの見られると恥ずかしい…」


 口を尖らせて言い訳をするケイは、いつものように可愛かった。

 片手間でちっこい森(放置ビニールハウス)の後片付けをしてると、闇が傍《かたわ》らで“そこにはもう何も無い”とかなんとか騒いでるけど、アタシはケイで忙しいから細かいことは吽形に任せる。


 …あれ? 糸が、なんかに触れたと思ったら、逃げられるようにすり抜けた。

 最初の罠は紐に引っかかったみたいに触れ続けていられたから、今の感覚は違和感がすごい。


 あ、吽形が反応した。どこ見てんの? 木の枝…あの辺か。


{ぬぁーー! クソめがっ!! 妾の尻尾に傾ける耳も持たぬのかっ! 一郎、一旦逃げるぞっ!}


 あー、伏せて(隠れて)たのね。

 これってアタシら2体目になるのか?


 あっ、飛んだっ! …飛ぶのか!?


『あちらからは“尻尾”と聞こえましたね。…では、封じたこちらは囮《おとり》でしたか』


 トカゲかな?

 んじゃ、こっちに封じたのは分身の分身? これ合わせて1体かぁ。紛らわし。


{妾だけで満足しておけば良いものをっ! しかし、空を飛ぶ一郎の背に乗る妾…おヌシらには手の届かぬ尊い存在を、崇めるように見上げ続けることを許そう! クハーハハハ!}


 石に封じた闇から煽るような声が漏れてくる。


 浜辺の闇もそうだったけど、そこはかとなく不安が伝わってくるんだよね…

 一郎って呼ばれた鳥? ちょっとずつ周囲の気に削られて…なんかもう可哀想だし。


「なぁ、闇? 飛んで行ったヤツさ、あのまま消えちゃう前に戻って来てもらって良い?」


『あなたを封じた石に、自身の分身が刻んだ想いを感じ取れると思います。危害を加えないという約束を違《たが》えたりはしませんよ?』


{…}


「ちょっ、早くしないと消えちゃうって! 闇!」


 ケイと吽形が必死に説得してるのに、闇が首を縦に振らない。

 今にも叫ぶような、でもそれを抑えるような感じ……覚悟決めすぎてない?

 思えば、アタシらって軽いノリで勝負してる感じになってる。なんかダメな気がしてきた…


{…わ、妾の声、あそこまで届かんと思うんじゃが…?}


 連絡手段が無いだけかよ…


―――


 アタシの伸ばした糸で丁寧に囲んだ鳥の邪気(一郎)を誘導するように引き寄せた。

 闇はその首の後ろに匿われてた。


{妾よ、今は共に此処に伏せて休むとせぬか?}


{ぬぬぬ…妾とあろうものが日和《ひより》おって…しかし…やむを得ぬか…}


 先に石へ封印した闇(尻尾)と、邪気の鳥(一郎)に乗って逃げようとした闇が合意した。…のかな?


「…んじゃ、いい?」


 鳥の邪気と一緒にいた闇は返事を返さなかった。


 ケイが間を置いてゆっくりと押し付ける石に、アタシがケイに出会った頃の優しさを感じた。


 …ちょっと嫉妬した。


―――


 闇を1セット石へ封じたあと、アタシたちは次を求めて進み出した。


『おや? 景くんに巣食っていた邪気、もう見当たりませんね?』


 自転車を漕ぐケイが、目だけ少し大きく広げた後に、笑顔を見せた。


「闇が無事に石に入ってくれた時にさ、すごい安心したんだ。こうやってみんなと楽しめるなら、一番とかそんなの別にいらないなって考えてた。はははっ!」


{…}


 闇がケイに忍ばせた邪気を回収したのか、それともケイが自分で発散できたのか分かんない。


 でも。でもね、ケイ? アタシ……


 一番は狙うけど?


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