次の一手
「吽形。次の一手、おぬしに任せても良いか?」
闇の分身を封じた後、言葉数の減っていた阿形から提案がありました。
考えあってのことだと承知しておりますが、とりあえず…
「阿形。…何も浮かばなかったのですか?」
何も言わずカクンと開いた阿形の口から牙が覗いています。
私のそれが軽口とわかったのか、すぐに真面目な顔になりましたが。
「ワシは湊やおぬしだけでなく、景や凪らも見守り、必要あれば手助けする位置へと回る」
えぇ、良いですとも。
あなたが湊くんを守るために造った無数の双頭の槍。
地中・地上の両方から襲われても遮れる攻防一体の技…私、魅入られました。
あなたがそこに回るなら、どこかで披露するかもしれない私の技、ぜひ見届けていただければと思います。
「阿形。とても良い配置かと思うのですが、手助けが必要な時は…どの様に?」
湊くんには瞬時に伝える術がありますが、湊くんからは景くん、凪くんに繋がっておりませんよ?
…阿形、なんですかその顔…
「今は湊が携帯を持っておらんのよな……誰ぞ危うくなった際には、湊に伝えて走り回ってもらうしか…」
…人はこれを見切り発車と言うのでしょう?
「阿形。逆に湊くんが助けを必要とした場合はどうなさるのですか?」
…さっきより凄い顔になりましたね。
「矢文…ワシが気でこさえた矢文を、えい、と飛ばせばどうじゃ!」
ついに出来なさそうな事を言い出しましたよ?
先ほどの魅力的なあなたは何処へ行ってしまったのか……
いえ、先日も気を飛ばし、私に巣食う邪気を祓ってくださいましたね。
さらにあの練度の槍を瞬時に造れるのであれば、文も……気で文字をどうやって書くんですか? ましてや…
「…気の文を…百歩譲って、読める文字を書けたとしましょう。…楓にそれを広げさせるのは酷では?」
阿形が考え出したのか、ゆっくりと首を傾け始めました…
焼けた石を拾い上げる様な苦悶の表情をする楓が浮かびましたが、彼はそんな事しませんね。
“少しは考えろ”とか悪態をついて文に触れないまま、それでも緊急だと悟って独自で調査、救助へ向かうでしょう。
あっ、阿形の首を傾げる角度がだんだん深く…ちょっと待ってください…
それが結や私の分け身の元へ飛んできたのであれば、やはり緊急を悟ってくれそうです。
景くんと凪くんは連絡を取れますし、最悪、私たちからの連絡と判断して社へと戻って来てもらえれば詳細を伝えることができますから、なんとかなりそうです。
「いえ、阿形。矢文…矢を飛ばすのは良い案かと」
「じゃろう!」
なので、怪しい角度の首を戻してください…見てて不安になります。
「絶対に当てないでくださいよ? 特に楓に」
冗談抜きで大惨事ですよ?
「うむ。突風に乗った気や邪気に曲げられぬよう、それなりの気を練った矢をこさえる予定じゃ」
あまり凄いのを作ると私たちに敵対されたと勘違いされませんかね?
まぁ、その辺は長けたあなたです。安心して任せましょう。
では…
「…そちらに気を取られて、見守りが疎かになっては意味がありませんよ?」
「あー喧しい! 早う湊を守ることに専念せぬか!」
…湊くんは守るというより、抑える必要のある人物ですよ?
それを声には出しませんでしたが、それが通じたのか苦笑いし合って会話を終了しました。
―――
『さて、湊くん。次の一手、試してみませんか?』
「試そう! あー、吽形、なんか嬉しそう」
『そうですか? ふふ…そうかもしれません』
やんわりと許可を得ましたので、ゆっくりと仕込みを開始しました。
さて、誰が最初にこれに気づいてくれますかね?
{…あれじゃな、おヌシら“さいこぱす”とか言うヤツじゃろ? 幼気な妾を脅して閉じ込め、そのような笑顔で次の妾を探す…おー、怖や怖や}
最古…? 聞き慣れない横文字は流させていただきます。
「んふふふ、…なんかごめんね?」
{…もう良いわ…おヌシを責めても負の感情を出さぬし、妙な行間で一方的に妾が恐怖で締め付けられるだけじゃ…}
「そんな自分の感情って集めないの? ちさんちしょう、だっけ?」
{何をいうとるんじゃこやつは…}
お守りの加護はあるとは思います。ですが、それを抜きにしても湊くんに悪意は効きにくいと思っています。
それが“心の強さ”、と簡単に言って良いのかはわかりません。




