↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
108/118

確認


 ワシは時折意識を社へ戻し、町を観察しておる。

 湊のお守りにワシの分け身がつく前は社と湊を同時に観ておったが、今は社での活動をより強固に行えておる。


 田畑の広がる地帯に邪気の気配を確認。早速見つけおったな?

 結を探すのは難しいが、この町の中ならば、主様のお守りを感じるのは容易い。こちらは景と結、あちら(分け身)の吽形が当たっておるのか。


 孤立林のあたりでは邪気の気配が大量…これは闇《くらがり》の分身だけでなく、伏せておった邪気も姿を現したのかもしれぬ…こっちに赴いたのは凪と楓のようじゃし、弱い邪気に物量で押されても流せそうじゃが…闇《くらがり》に取り込まれたら困るのでは?

 状況次第では加勢に行かねばなるまい。


――


「阿形、どんな感じ?」


『うむ。こちら側なら景や凪の行動範囲とは被らぬようじゃ』


 こうやって、ワシは景や凪の邪魔をせぬように、また、いざとなれば加勢に行けるようにと、社と此方とで目を光らせておる。


「ねー、阿形。吽形みたいに、気で網を作ったりできないの?」


 湊がいつもより張り気味の声で我らに問いかける。

 

 周囲に人がおったら変人扱いじゃぞ? …と最初は思うたが、声を出す際はイヤホンに指を当てたりしとる。携帯での通話を装っての意思疎通じゃな。

 漏れ聞こえる会話が自分に関係なければ、わざわざ確認しにくるような者もおるまい。


〔む? できなくはないが、吽形ほど小慣れておらぬからのう…糸より綱、網より柵に寄ってしまうかもしれぬ。しなやかさに欠け、いささか鋭利で過剰なものとなるが、良いか?〕


 ワシも湊に合わせて張り気味の声量で返事する。

 こちらの声は普通の人間には聞こえぬので問題なかろう。


「あ、ちょうどいいかも。その固い気をたくさん準備して! トラクターみたいにそれを引っ張って走り回ったら、モグラみたいに潜ってる邪気も全部浄化できるよ!」


『なるほど! 湊くん、それは良いですね! さぁ、阿形、早速取り掛かりましょう! 本当に良い!』


 吽形の棒読みが過ぎる…


 む、かかった!

 抜け道のように踏み固められた土の先、雑木林の入り口に揺らぐ邪気を感じた!


{良いわけあるかー!! 人の心を持たぬのかおヌシわっ! 妾の愛する馬鹿どもでも、先ずは会話から始めるんじゃぞ! ――うぎゃーー!?}


 分け身のワシがワザとらしく気を練り上げる様を見せつけ、闇《くらがり》がそれに目を奪われておる隙に、神速で駆け寄った湊が石を押し付けた。


{ぎ、ぎ…おのれっ、謀《たばか》りおったなっ! 五郎っ!}


 石に引かれる力に抵抗する闇が、何かの名を呼んだ…仲間がおるのか?


「えっ? わわわっ!?」


 闇の後方から鋭く研ぎ澄まされた獣の様な邪気が湊に向けて駆けてきたが、ワシと吽形が湊から離れることなぞある訳なかろうよ?


 吽形が湊を守るように気で包み、ワシが湊の足元から数本の気の槍を生やした。が、五郎と呼ばれた獣は闇を咥えて逃走を試みておった様じゃ。

 ならば、と退路を断つように獣の周囲にも槍を生やすと……諦めた様にその動きを止めた。


 獣はそのまま、槍の間を通り歩み寄る湊へと向いたまま、差し出された石を抵抗せず受け入れた。潔(いさぎよ)し、じゃな。


{…ちくしょうめが…}


 それに引き換えこやつは…


 五郎と呼ばれた獣と、抵抗を諦めた闇の分身が、結構な勢いで石へと取り込まれてゆく。

 楓が邪気を取り込む様と似てはおるが、闇《くらがり》のは英彦(湊の祖父)の豪快に啜るウドンの様に…なんというか、飛び散っておる。


 されど、我らもやっと1体目を確保じゃ。怪しいところを見かける度に同じことを繰り返し…これ何度目じゃ?


『吽形の台詞回しが拙いままなのがのう……そのせいで気付かれたのもあるのではないか?』


『そんなことありません! どれも会心の演技と自負いたします!』


 演じる自分を客観的に見るのは、吽形でも無理か…


{なっ、あれが演技じゃと…? おのれっ、妾は本気で身の危険を感じたと言うのに…演技じゃと…}


 吽形の件、問題なかった。


 ならばここまでの道順で取りこぼしは無いと思うておこう。

 …しかし、封じられた後も、闇《くらがり》は会話ができるのじゃな。


―――


 闇《くらがり》が石より声を発する様を見て、我らはしばし動きを止めた。


 闇を封じて持ち歩くことになると、これまでの戦術は使えぬと気付いたからじゃ。

 浄化するというのが脅しと気付かれるじゃろうし、別の闇へ石の中から助言されることもあろう。


 まぁ、この辺りは闇に聞こえぬように、社で吽形と話し合うておく。


『闇《くらがり》よ。おぬしの方から攻撃してくるものと思うて行動しておるんじゃが、そのような気配は無かったのう?』


{あん? 妾に言うておるのか? これまで目立たず邪気を集めてきたのに、今更実績のない攻めなどせぬだろうよ}


「確かに?」


 闇《くらがり》と名乗ったのは浜辺の者で、しかもこやつらが抜け出した後の話じゃったな。

 こやつの話を真に受けると隙が生まれそうじゃが、納得いく回答でもある。


『最終的には、おぬしらがおった浜辺で一つに戻ってもらう。どうすれば素直に集まるかを聞かせてもらえぬか?』


「あっ、でも、もし次に逃げたら……ごめんね?」


{なに、何がじゃ! なんじゃさっきからこの童《わっぱ》はっ! 妾に不穏な行間を読ますなっ! 保護者は何を教えとるんじゃ!}


『逃げねば良いだけじゃ…』


 ワシは状況を想像するのを止め、説明するのも諦めた。


{おヌシも何処を見て話とる!? 絶対逃げぬわっ! …なんなんじゃ物騒な…}


 安心せよ、逃げねば良いんじゃよ…


この世界の狛犬

・直接宿る依代からは、ある程度離れることができる。(例:阿形ならば、宿った狛犬像から境内。阿形の分け身ならば、宿ったお守りから2、3m)

・神社の狛犬像を起点に、湊の持つお守りや勾玉(まがたま)へ意識を繋いでいる場合、そこから離れることはできない。

・最近は、阿形が自身の分け身が宿るお守りへ、吽形は勾玉へと意識を繋いでいる。


結(この世界の一般的な付喪神)

・基本的に依代となる石から遠く離れることはできない。

・基本的に石に籠っており、霊体を晒して活動するには僅かながら気を必要とする。(気の流れを作る糸で周囲から継続して気を集めている)

・石への刺激は結に返る。そのため石の物理破損には常々《つねづね》恐怖を感じている。


楓(この世界の邪気の果て(禍))

・集積された邪気や穢れ、澱みの結果から禍として生まれ、凪にそのままの姿で共に生きることを願われたため、活動する際に邪気を必要とする。

・凪と一体化する形となったため、お互いが同じ力を望む場合は効率・効果の高い結果を生む。

・凪と一体化する形となったため、一方の極端な感情は、もう一方の感情や流れる邪気を引っ張る。


闇(この世界の邪気の果て(禍))

・楓が凪に必要とされ、名付けされる前の状態に近いが、ここに至る過程も、今の在り方も大きく異なる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。