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こんな時に限って


 ガキらが砂浜から出ようと歩き出した時、闇《くらがり》の気配が朧げになるのが分かった。


 じゃ、まぁ、今しかねぇか。


 凪に一言伝えて、闇《くらがり》のところに戻ってもらうことにした。

 結と阿吽からも後ろ髪引かれる仕草が感じられるが、ま、お前らにゃこんなことできねぇだろ?


〔おぅ。悪いな……忘れてたわ〕


{何じゃ、まだ…}


 凪と一緒に両手を突き出して、掌を闇《くらがり》に向けた。


 こいつが作り上げた壁は、開けられた穴から徐々に霧散を続けて、会話を終える前には無くなっていた。

 壁と体を保つ程度の邪気以外は、逃した分身に持って行かせたんだろ。

 余裕を見せて強がっちゃいたが……今の姿を見るに、ガキらの石に何か刻んだトコで限界迎えちまったようだ。


{……}


 怒るでも、悲しむでもない……そんな感情が伝わってきやがる。


 おら、預かってた邪気モグラ、返しとくわ。

 あちこち見せてもらったが、勉強になったぜ。


 俺らの合わせた掌からこぼれ落ちた、全く意思の疎通が図れなかったハズのソレは、まるで飼い主に再会したかのように闇《くらがり》の元へと飛び込んだ。


{三郎!?}


 三郎? 自分に名前つけてなかったのに、こっちにはつけてんのか?

 闇《くらがり》が伏せたばかりの弱々しい状態から、わずかに邪気を漏らした。


〔そのまま居なくなられちゃ寝覚めも悪ぃんでな。っつーか、凪に返すように言われて仕方なくだ〕

「それ、邪気集め専用なんでしょー? この石に込めてくれた力くらいは返せたらって。楓がー」


 あーくそ、余計な言葉足すなよ。

 闇《くらがり》も調子狂うな…邪気モグラを愛おしそうに抱きやがって…


{…なんか三郎が苦くなっとるんじゃが…}


 苦いってなんだ?

 そのまんま返したつもりなんだが…?


「あー、それ食べれないカビ」

〔凪、その表現はやめようか?〕


 食えねぇのは闇《くらがり》側の邪気だろう、常識的に考えて…

 いや、どっちも食えねぇよ。


―――


 阿吽の居る社から海や町を見渡せるが、商店街は見えねぇ。

 隠れ里のような孤立林があって、視界を遮ってるからだ。


「ついたー」


〔おう。サンキュー、凪〕


 俺がこの地に生まれたなら、凪に出会ってなけりゃココに隠れる。…探す側に身を置くと、これ以上ないくらいに分かりやすい場所だな…


「相手が森に隠れた場合、かーさんなら火をつけて炙り出すってー」


〔そっちの案は物騒すぎて採用できねぇよ!〕


 瑞穂は凪の話す仮想敵に対して常に極端な案を出して驚かせ、その後に現実的な案を出してくれた。

 極端な方は納得はいくが…周囲への影響っつーか、いろんなとこへの配慮が無視された、人の心とかねぇのかよってくらい酷(ひで)ぇヤツが多かった。


「だよなー。あとは何だっけ? じんかいせんじゅつ?」


 おう。人海戦術。


〔多くの人間を使って…ココなら周りを囲って中心に進んでく感じだろうな〕

 

 俺の言葉を聞いた凪が両手を空へ掲げて開いた。

 邪気を扱う際の流れ、だいぶ慣れてきたんだな。

 俺も合わせるように…体に蓄えている邪気を放出するために、凪と同じ構えをとった。


〔凪。今回は単純な命令を刻む。配置されたら中央へ真っ直ぐ進んで、合流したら俺ん中に戻ってくる。お前の拳くらい小(ちっ)せぇので十分だが、数は必要だ。100個ほどイメージしてくれ〕


 闇《くらがり》の邪気モグラ(三郎)。あれの劣化版だな。


「おー。戻ってこないのがあったら、そこに居るんだなー?」


〔おう、とりあえずな。俺のじゃない邪気の類に遭遇したら炸裂して足止めするオマケ付きだ〕


「動く爆竹みたいだなー」


 言葉で聞くとちょっと怖ぇな。俺が使う側でよかったよ。

 凪の軽口を聞きながら、この林を囲うように邪気(動く爆竹)を飛ばした。


 そのまま炸裂せずに捕まえて持って帰りゃ楽だが、んな邪気のサイズも消費もデカくなりそうなのをホイホイ幾つも作れねぇ。


 そうこう考えている間に林のあちこちで炸裂する俺の邪気を感じた。

 多いな? しかもえらく広範囲に散って…あ、これよぉ…


 凪が何か言いたげな顔で俺を見てる。同じ事考えてんだろうが…


〔…聞かせてくれ〕


「これさー、闇《くらがり》以外の…伏せてた邪気に触れても炸裂するー?」


〔するぜ!〕


 気持ちを前向きに持っていこう。

 親指を立てて感情とは逆の声を出した。


「闇《くらがり》の分身にあたって炸裂してたらさー、他は自分以外の邪気だって気づいて…それ吸収しに行かない?」


〔行くかもなっ!〕


 俺は親指を立てたまま、凪に笑顔を見せた。

 やべぇな、そうだよな。凪の言うパターンにハマっちまったら闇《くらがり》の力が増しちまうじゃねぇか…

 いや、しかしだ。そもそも、この林の規模に対して100個程度の力を這わせて、一回で見つかるとは思って無ぇ。

 その一発目で闇《くらがり》に当たるなんざ、低確率――


 

 ――ぎゃーーっ!?――



 少し困ったような顔した凪と見合ってすぐ、俺たちは林の中に駆け込んだ。

 闇《くらがり》と、野良邪気の争奪戦を想定して。


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