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1体目


 自分の描いた絵と違うと知って打ちひしがれた闇《くらがり》はどうでもいいけど、この町にいてくれると便利だよな。

 こいつ、邪気さえ集めることができたら良いんだろ?

 …あー、その先に何を見てるか、か。名乗る過程で災いに至るとか楽しげに話してたから、ほっとくとデカいことしでかすかもしんない。うーん……まぁ、その辺は阿吽がどうにかするでしょ。


「まずは逃げたの捕まえて、そっから考えれば良いかな?」


「ん。オレもそう思う。やること多いと間違えそうだし」


『捕まえるという点では結の本領発揮ですし、幸先良いかもしれませんね』


 ケイとこっち(分け身)の吽形に方針だけ確認してたら、湊が動いた。…今度は何しでかすんだー?


「今から闇《くらがり》が逃した分身を探すことになると思うんだ。でね? この弓さ、ヒビキくんの住む土地の氏神様から借りてるんだけど――」


{ふ、ふん、誰じゃそれは! さっさと続きを言え!}


 闇が焦ってる。そりゃ弓を目の前に持ってこられたら怖いか。


「ヒビキくんって、その神様を拝礼した日に“狙った邪気に必ず当たる気の弾”を8発、授かるんだって」


{ふん! …えげつないのう……で? だから何じゃ?}


「そんな神様の神気で造られた弓………無事で済むかな?」


{…その辺、どうにかなりませぬかね?}


 最後、雑な説明に合わせて闇《くらがり》と弓を交互に見る湊を見て、アタシは引いた。

 もうなんか、脅しにしか聞こえなかったんだけど…


―――


 “妾を害さぬと約束できるのであれば、妾の意向を証明する想いを石へ刻む。捕まえた妾の分身へこれを押し付ければ、それに収まってくれようよ”


 闇はそう言って子供たちそれぞれに足元の適当な石を選ばせて、それへ周囲に影響ない程度のうっすらした邪気を送った。


 ま、やっと始まったわけだね。


 闇は阿吽の気の網で包囲されたままだし…まぁ、逃げないでしょ。

 自分たちの自転車へと歩き出したケイの肩から闇《くらがり》が居た方を見ると、人の形に近づいていた姿が崩れ、その場で存在を薄く…伏せる状態に変わった。

 アイツもしかして、結構無理してたんじゃないか?



「凪と楓は邪気を操って捕まえに行くのはわかるけど、湊と阿吽がわかんないんだよなぁ」


 自転車に乗って移動を始めたケイが、ようやく口を開いた。

 吽形はその辺器用かもしれないけど、阿形はどうなんだろ?


「少なくともさっきの網は、こっち(分け身)の吽形(あんた)しか使えないんでしょ?」


 あっちの吽形は依代(勾玉)に力の一部を乗っけて、社の本体からの遠隔操作。

 分け身としてお守りに宿るこっちの吽形と違って、瞬発力や気の扱いに関しては劣る。

 こっちの吽形から聞いたんだから間違いない! はず。


『いえ、どうでしょうか…湊くんの腕にある勾玉にどの力を込めているかまでは分かりません。社で私が使える力の一部だけ込められる、そのように解釈してください』


 んじゃこっちの吽形に網使わせたのは誤認させるためか?

 …手札伏せたままとか、んふふ、最初っからヤル気満々じゃんか!


「んじゃ、湊の方でまともに力を出せるのは分け身と一緒にいる阿形だけかぁ…それでも怖いけどな…っと」


 田畑を区切るように走る畦道を通って、たどり着いたのはビニールハウス…だった場所。

 そこの一部だけコンクリートで舗装された場所にケイが自転車を止めた。


「わっはー! ビニールハウスの中、森みたいじゃん。立派な木も生えちゃって!」


 持ち主不在とかで手入れが行き届かないと、そのうち木が生えるとか誰か言ってたな。自然の力よ。


「笑い事じゃないらしいよ? ここから元に戻すのって、木の根っこから処理しなきゃダメらしいし」


『えぇ。社でも新しい宮司さんが来るまでの間、本殿の裏にある畑を宇美さんと町の人とで欠かさず手入れしておりました。しかし、放っておくとここまでになるのですね…』


「ん。てことは、ここは人も寄らず放置。そりゃあ邪気も隠れやすいよねっ!」


 アタシは森になったビニールハウス周辺へ探りを入れるように一斉に糸を張った。

 あっ? なんか引っかかった…あ、なんか来る、ヤバっ!


「うにゃあああああっ!」


 ビニールハウスの中で生い茂るあたりから何か飛んでくるのがわかって、細かく波打つ糸を振り回して叩き落とした。

 いきなりやらかしたぁ…


「ごめん、なんか罠にかかっちゃった…ケイ、吽形、平気?」

 

「ありがと、大丈夫。でもにゃーって。ははは」


 必死だったんだよっ!


『意図された邪気による攻撃でしたね。闇《くらがり》の分身の仕業と見て行動致しましょう』


 それしかねーじゃん!

 あ、伏せてた別の邪気に遭遇することもあるのか…


「結、周囲の罠、全部引っかかってみたら?」

『全てをいなせるか分かりませんので、それはやめておきましょう』


 ケイ寄りの考えなんだけど、守りきれなかったらマズいしなぁ…


『…よいしょ』


 吽形が徐《おもむろ》にアタシらの後ろにある倉庫を気の網で囲った。


「何してんの吽形? あ、本体は別のところに隠れてるパターン!?」


 そんなパターンあんの?

 あっちの木の中の方が安全じゃ?


 ケイが一方の手に闇《くらがり》に貰った石を持って突き出した状態で、もう一方の手で扉を引いた。


{ぬぬぬぬぬ…}


 あー、見た目は形を成してない邪気だ。

 砂浜のは、アタシらと話しながら形を変えていったし、成長したのか?


『おそらく、次の罠が発動した時に合わせて攻撃するか、逃げるかを考えておいででしたね? せっかく伏せていたのに、タイミングが図れずチラチラと邪気が漏れておりました』


{ぬ、ぬ、ちくしょうめが〜!! 妾に何の恨みがあるというのじゃっ、この阿呆どもがぁー!}


 わっ、感情で邪気が溢れ出てるって!

 吽形の敷いた網、隙間が広すぎない!?


「ケイ、ちょっと下がって、お守りあっても見てて怖い」


 まるで強風に晒されるように、溢れ出る邪気に押されるケイに、ただただ下がって欲しかった。

 だけどケイはゆっくりと前に出て、闇《くらがり》から貰った石を、揺らぐ邪気へ押し当てた。


{うにゃあああぁぁああぁぁ!!!}


 断末魔のような声と共に、押し付けた石に周囲の邪気が吸い込まれた。

 しばらくして、虫の声が聞こえだした。

 あー、いつから聞こえてなかったんだろ…


{…分かった。妾も大人しくしておこう}


 ケイの手にある石から声が聞こえた。

 観念してくれたんだろうけど、“分かった”って…何がわかったんだ?


「石の仕組み、凪に電話して聞いてみよ。多分、闇《くらがり》が邪気を吸って分身を納得させるような仕組みを石に組み込んだんだろうけどさ」


{…合っとる。…ふん}


『電話はせずに済みそうですね』


 えー、信用していいのか?

 この状態じゃ何も出来なさそうだけどさぁ…


 不意に噴き出す邪気に晒されたのに平気そうなケイが笑い声を漏らしたのが聞こえた。

 まさか、心に邪気を差し込まれた?


「ふっ…んはははっ!」


「ケイ!?」


「“んにゃー”だって! 結も闇も。 はははは!」

『ふふふふふっ』


「ケイ!!」


 あと吽形っ!


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