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恐怖


{可憐弱(かよわ)い妾を大勢で囲んで…薄――もがーっ}


 首謀者らしき存在が語る最中《さなか》にいやらしい顔をしたと思うた瞬間、楓が邪気で口を塞いだ。

 中々に俊敏じゃ。やりおる。


〔お前の偏った知識の出所と術《わざ》のコト、教えてくれよ。あと他《ほか》ん所から人間呼び寄せる術《すべ》もな〕


 ワシが聞きたいことも含めて問うておるから、様子見しておくとしよう。

 …マイナスポイントとやらを気にしておるのか?


 念のため逃げれぬように周囲を気で囲っておくとしよう。

 |景の首に掛けられたお守り《吽形の分け身》を見遣ると頷き返したので、ワシの持ち出した気を紡いで網へと変えてもらい、張り巡らせた。


{おーおーご苦労じゃのう、今更何をしておる? 既におヌシらは、ここに溜め込んでおった邪気を全て逃してしもうたんじゃぞ? クク、クハハハハ}


『…どういうことでしょうか?』


 あー、吽形…さっき穴から吹き出した邪気に紛れさせて、伏せた状態のを逃したんじゃ…先に囲うべきじゃったか? いや、話し合いを求めた湊がそれを許したろうか?


{クハッ、妾がそれに答える義理はないのう?}


〔いや、先ず俺の質問に答えてくんねーか?〕


{おー? 何じゃ怖い顔をして? 怖い怖い、クハハー!}


〔…埒があかねぇ。それにお前、箱を開けてしまったとか言ってたよな? それも気になってんだよ〕


{おー、ちゃんと妾の声を聞いておったか。良い表現じゃろ? 招いた馬鹿のスマホで見かけてのう}


〔…おぅ〕

「そっちは答えてくれるんだね…」


 こやつ、人に憑くか、側におるかして携帯から情報を得ておった訳か。

 箱の正体より、携帯の操作を促せることが重要じゃな。

 …人を呼べたのも携帯の力か?


「クマがさー、SNS見てこの町に遊びに来たって言ってたー」

「あー、うん。タクシーで運転手さんと話してた!」


 言うとったな。

 昔と違うて情報を広げるのが個人でも容易に行えるのは理解しとる。


{…何じゃ、最近の童《わっぱ》は察しが良いのう。クッ…クハハハハ! この町で思うた通りに行かず鬱憤を溜めた馬鹿に…僅かばかりの邪気を注いでやるとな? その不満をSNSで拡散しおっての! 馬鹿は馬鹿を呼び、わざわざ文句を言うために遠路遥々邪気を携えて遊びにきてくれるのじゃ! 後はその新しい馬鹿どもに同じことをするだけの簡単なお仕事じゃよ、クハーハハハハハ! ……じゃが、童の言うた“クマ”は聞き流せぬのう}


 思った通りに事が運ばなかったと言うその者が、この町の景色や風土に対して納得いかなかったのなら詫びたいが、思い通りに行かずと言うのは…詫びの要らぬ行為の結果に思えるな。

 しかしこやつ、クマの何に引っ掛かっておるんじゃ?


{妾が呼び寄せた馬鹿どもに何もさせなかった、無駄に体がデカい男の事を言うておるのか?}


「オマエが誰呼んだかわかんないのに、ボクらが分かるわけないだろー?」

「それっぽいと思うけど、ずっと一緒に居た訳じゃないからなぁ…」


 いやまぁ、あのクマじゃとは思うがのう。

 砂浜で月見しとるだけで悪意ある者の行動を阻害しておったし。


{どのクマでも良いっ! 馬鹿どもには分かりやすく美しい秩序がある! 自分より強い人間に逆らわず、時に従う! 自分より弱い人間は威圧し、力で服従させる! 本能じゃ!}


 美しいかはさておき、偏った考えしとるのう…

 人間に当てはめるのはどうなんじゃ? それ言葉の使えぬ動物の世界じゃろ?


{妾がゆっくりと負の感情を育ててやった馬鹿たちを…時には商店街や浜辺に送り込み、時には馬鹿どうしをぶつけたり…“あー、これから邪気が湧き出すんじゃなークハハ”と言うときにっ! あのクマのように馬鹿でかい男が居(お)るんじゃ! ただ、ほんの一瞬居(お)るだけなのにっ! 秩序が…馬鹿どもの秩序が仕事しおるんじゃ…}


 あっ、これ愚痴じゃな。

 御愁傷様とだけ言うておこう。


{そんな状態に妾の想いは何度も挫かれたが…そう、あやつはたった一人じゃった。大きな仕込みはどれもこれも未然に防がれてしもうたが、クハハ…小さな負の感情(邪気)は確実に妾の元へと集まっておった!}


 なんか、結局全部話してくれておるのう。

 もう既に楓の質問には答え終えておらぬか?

 あ、箱がどうのこうの言うとったな。


{知っておるか? パンドラの箱とやらを…}


 こやつめ、またいやらしい顔を…


「知ってるー。最後に希望が残るやつでしょー?」


{だー!! 童めがっ! 妾が話し終わるまでまたぬか! ……希望?}


 ワシはそれ知らんので、どうぞ続けて。

 続きを促すように手(前足)のひらを向けた。


{んんっ、そしてその集めた邪気を…おヌシらが解き放ってしもうたのじゃ…妾の分身たちと一緒にな! クハーハハハハ!}


「オマエが意図的に出したんだろ…」


 結の軽口が出た時、ワシは背筋に重圧のようなものを感じた。

 振り返る途中、目のあった吽形も同じものを感じたのかもしれぬ…


 振り返り終えた我らの目には、満面の笑みで開始の合図を待つ子供たちの顔が映った…


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