想定
明日の約束を交わした夜。
一家での賑やかで盛り沢山な夕食を終えたケイが、お腹をさすりながら側にあるソファーに座った。
夏休みに見た料理もすごかったけど、直樹や彩までいると量が半端無かった。
ひたすらに祖母から勧められる料理を断れず口に運んだ勇者が、今ここに沈んでる。
実の父親と仲が良くないって聞いた直樹は、笑顔で義理の父と酒を交わしてるから、人付き合いが苦手とかじゃなくて、折り合いが悪いだけかぁ。
彩と和子にも酒が入って笑い出したから、この部屋はしばらく騒がしくなりそうだ。
そんな空気から逃げるように、ケイが気配を断つようにして部屋から出た。…そりゃそうだ。
―――
ケイは夏休みにアタシと一緒に寝た部屋にやってきた。
…湊の体に宿ったアタシとだけど。
「お腹、ぱんぱん…」
見てたよ…ンフッ、しばらくゆっくりしときな?
全てを諦めたみたいな顔してソファーに沈んでる姿を思い出して笑ってしまった。
じゃあ、明日に向けて色々考えとこ!
“勝負”って言い出した楓は当然だけど、阿吽の目もそれぞれ違う光り方してた。
やばい、思い出すとちょっと震える。アタシん中の阿吽は憧れみたいなもんだし。楓は…あんま活躍してたイメージ無いから知らん!
「これ、テンション上がっちゃうでしょ?」
あっ、思わず声に出た…
「はははっ。気合い入りすぎ! でも結、勝負に弓は使わないからね? きっと湊もそうすると思う」
ん? 弓? あぁ、頭に無かったや…
もうアタシん中じゃ、癒しの道具ってイメージで固まってた。
「ケイの弓を勝負で使っちゃうと、情報を持ち帰るどころか消し飛んじゃう気がするから…それが正解だよきっと」
『フフッ…想像に難くありませんね。その後、皆であたふたする姿まで容易に浮かびます』
それある。
皆が笑いを抑えて肩を振るわせてる。
おっと、本題、本題。
「今回、アタシらにとって有益な情報が手に入ったの、気づいた?」
「えー…えー? 楓のマクロ仕掛けの邪気人形くらいしか浮かばないけど…」
あっ、それはあとでちゃんと聞かせて。対策しときたい。
でも今はそうじゃない!
『なるほど! 景くんそれです。邪気モグラもですが、楓の話していた邪気を漏らさない状態ならば、結の糸でも掴めるのではないでしょうか?』
「…なんで?」
「さすが吽形、アタシを良く見てるだけのことはある! アタシって気の流れを作ることしかできなかったけど、それを小さな範囲に絞って糸ほどの管にしてるんだよ」
小声で“心配で仕方なく”とか言うな、聞こえてんだよ!
「ん。それ結の力として、ちゃんと理解できてるよ?」
うむ、よくできました!
んじゃその次いこう!
「夏休みの邪気夜行の時、小さめで数だけの獣邪気は、楓の言ってた“周囲の気でゴリゴリに削られる状態”だったから、アタシの糸で叩くだけで流れを乱して散らせたんだよ」
『正直に言いますが、音もなく大量の邪気を散らし、舞い散る残滓の中から颯爽と現れた結は…最高に格好良かったですよ』
…よせよ、照れるじゃん…ふん!
やめろー、ケイもそんな顔でアタシを見るな、ニヤけちゃうだろー!
もうバカっ、アタシを乱すなよ、うぎゃー!
「あー、もう! 褒めるのは別の機会にしてっ! 今はアタシの糸の話!」
ん、どっちも聞く体制になってるな。続けるぞ。
「邪気の質量とか大きさが増したのが出てきた時、アタシの糸を太くしたくらいじゃ揺らす程度にしか効果がなくなってさ…」
「狭いとこで俺たちが邪気に呑まれた時に、結が助けてくれたアレじゃダメだったの?」
「力を抑えることができなかった頃の…アレするとさ、吽形や宮司が周囲に仕掛けてくれてた気とかも吹き飛ばしちゃうから…」
「…こっわ。最初に見せた結の技は、実は最終奥義だったんだ」
なにそれカッコいい…最終奥義? 覚えとこ。
「話、戻すよ? 小さいのも濃いのもデカいのも、どれも邪気を晒した状態だったからアタシの力は通り抜けてたんだけど、楓の言う“邪気人形”、邪気を晒してない状態なら、アタシの糸は接触…つまりはぐるぐる巻きにして振り回せると思うんだ」
「なんかこの前、俺らが冗談で話してた必殺技が出来ちゃう感じ?」
「できちゃう感じ」
「…それってさ、効果が無かったって言う濃いやつや大きいやつも、しっかり包み込んだら…掴めなくても散らせたんじゃないの?」
……ん? そんな気がしてきた。
『…結は色々と応用の利く、素晴らしい力を持っている。そう言うことです』
雑にまとめるなよ…
まだあるからちゃんと聞け。
―――
海。
アタシたちの目の前に…湊が視線を向けるその先に、密度の濃い邪気のブロックを重ねたような、巨大な壁が突然立ちはだかった。
「結…籠城は想定してなかったね…」
…そーだね。




