予感
“勝負”
楓の発した言葉に心を動かされていました。
気の扱いに長ける阿形を尊敬し、上を目指す結の直向きさに胸打たれ、形を変える力という柔軟な発想を持つ楓に感銘を受ける。
私には縁遠いと思っていたその言葉は、自分を磨き上げる切っ掛けを得る度に近づいてきていました。
あの時、阿形が私たちを見渡した時の目。何を想っていたのかは分かりませんでしたが、私を知ってもらえるという欲に引っ張られていたと、今では思えます。
“みんなが無茶して、傷つけなきゃいいなーって”
「見失っておったつもりはないが…再認識はできたのう」
湊くんが眠った後、静かな虫の音が響く境内へ意識を戻した私の耳に、阿形の声が届きました。
見失っていなかったか?
「いいえ…申し訳ありません。少々…我欲に駆られていたと告白いたします」
「ほう!? 面白いこともあるもんじゃな。おぬしがか? …ほぅ」
面白いことなんて何処にもありませんが?
少々疎ましく感じ、睨むような形で阿形を見た時、私に向けられた気の力を避けられませんでした。
「ちょっ…阿形! 突然何を……?」
胸に燻っていた僅かな思惑が整う感じ…
「はっは! おぬしもいつの間にかやられておったようじゃな。そう大した影響はなかったようじゃが、中々に厄介な相手のようじゃな」
…やられましたね。
なるほど、邪気モグラとのやりとりの中で潜り込まれていたようです…はぁ。
影響は…|本来の目的《子供たちを守り、町の復興》を見失っていたこと、ですね。
そのあたりをしっかりと念頭に置き、その上で活躍は諦めない方向で進みましょう。
いや、ちょっと待ってください……阿形、あなたこんな力持ってましたか?
うー、皆も精進してて当たり前ですか…
―――
主様の依代が祀られる本殿。その背後から朝日が差し込んできました。
…天気予報とは何なのか。
いえ、台風の進路という不確定要素もあり、その辺り難しいのでしょうね。
どこも似たような問題に右往左往させられるのだと、共感を覚えます。
「おっはよー! やはは。晴れちゃったね!」
晴れた場合に集まる時間は決めてあったようで、続々と子供たちが境内へと集まってきました。
「おはよー…ちょっと眠いー」
〔色々と根詰めすぎちまったな…〕
凪くん楓組は色々と仕込みがありそうですね。
「おはようさん! ははは、阿吽はしっかり寝れた?」
「それアタシにも言ってよ…」
『あなた、寝ないでしょうに…』
景くん結・私の分け身組は、景くんの軽口から余裕を感じさせるものがあります。
ちなみに昨日の夕方から、分け身と繋がるのは止められております。
――え?
「ははは、おはようございます。朝早くからご足労いただき、ありがとうございます。どうぞごゆっくりお参りください」
…また気配を消して…
子供たちとの輪の側に宮司さんがいることに気づけませんでした…
「ども」
「おはよーございますっ」
「おはよー」
阿形、楓、結は揃って微妙な顔をして固まっています。
…阿形、今回は私たちだけで締めれない予感しかしませんよ?
―――
海です。
主様へと参拝を終えた私たちは、まっすぐ海へと参りました。
時間帯だけでなく、季節的にも人気はありません。
「なーんか、あっという間だよな〜」
「海に人が居ないこと?」
「犯人を追い詰めたことー?」
「海までの距離?」
〔準備時間の短さだろ?〕
「一斉に言うなよ…どれもそうだけどさ」
海までの距離は結構ありますよ? 発言した結に対して忖度ありすぎません?
ほら、皆が結を見て“それは無い”って顔してます……
湊くん?
湊くんだけが、あの時のように違う所を見ています。
そう、あの時と同じ視線を、同じ方向へ。
「阿形、吽形。最初は話しかけてもらっても良い?」
湊くんの言葉をきっかけに、彼の視線の先に壁のように厚い邪気が積み上がりました…
ふふふ、まったく…骨が折れそうですね。




