心配
人気も無くなった夜の社。
我らは子供たちと落ちてゆく夕日を見届け、今日という日をゆっくり顧みておった。
楓の発した“勝負”の言葉は印象が強い。焚き付けた楓や結はおろか、吽形までも目に力を込めておったのが面白い。あまり見ぬ様じゃし、ゆるりと見守ろう。
此度の勝負、ワシも目一杯付き合うが、最後は誰かに花を持たせてやろうかの。
邪気モグラを欠いたことで回収されぬ邪気が気にはなるが…なぁに、やらねばならぬ事は変わらぬよ。
「しかし…楓の言うておったのは、おそらく邪気が伏せる術じゃな。…細かに考えたことは無かったが、なるほどのう…」
「あれは本能で邪気の放出を抑えて、浄化から身を守っていると取れました。一言で伏せると表現しておりましたが、何とも…」
「あの邪気モグラもその状態でひっそりと動いておったのだろうが、楓の糸に掛かり、伏せ続けることができなくなったのじゃな」
ワシの言葉に頷き目を伏せる吽形を確認し、月の見えぬ空を見上げた。
夕日は綺麗に見えておったのにのう…
吽形曰く、あの日現れた巨大な人形の邪気は、社に届く月の光をも遮断したと。
「明日、それと対峙するやも知れぬのに…見えぬか…」
――
『湊。明日はどう動くか決めておるのか?』
既に寝る準備を終えた湊は、ぼんやりと窓から外を眺めておった。
景の家族が戻ってきたから、てっきりまた一緒に夕食かと思うておったが、毎回そうという訳ではないのじゃな。
日中は景や凪とも顔を合わせておるから、いつもの通話も無かったようじゃ。
「んー、天気が不安なんだよねぇ。雨だったら延期かなーって…」
『天気予報は見られたのですか?』
「…雨だって」
あー、延期じゃなぁ…
眠そうな湊が、お守りと勾玉を手に握り、徐に布団へ横になった。
「時間があればあるだけ、ナギくんと楓が強力になっちゃうね〜」
『何じゃ? 湊も勝ちを狙っておるのか?』
「んー? んー。下手なこと話すと、せっかく盛り上がってるの邪魔しちゃうなーって」
勝ち負けの回答ではないの。
考えれば、主に盛り上がっておったのは子供たち以外じゃな。
景も凪より少し引いた位置で見ておったし、湊を知る仲であるから、話さずとも同じ考えに至っておるのかも知れぬ。
「弓、退治する形では使いたくないなぁ…癒す方向では使わせてもらったけど、そっちにも頼らないで、今までみたいに、阿吽と一緒に…」
湊…
あっ、無理せず寝て良いぞ?
「…あー、僕に阿吽が聞いた声は聞こえなかったけど、居るのかなーって感じはしてるんだ」
邪気モグラもそっちのけで、気づいた何かを見ておったくらいじゃからな。
『居るんじゃな…』
『やはり居ますか…』
これは、意思を持つ存在を指しておろう。
邪気モグラを扱い、言葉を発する……楓のような存在。
あっ、部屋の電気を消しおった。
「みんなが無茶して、傷つけなきゃいいなーって」
『安心してください。少なくとも結の力は、何かを傷つけるようなモノではありませんよ』
賢しいおぬしの分け身もついておるし、まぁ大丈夫じゃろうよ。
『楓はー…あー、暴走せぬように、ワシが分け身と力を合わせ厳重に監視しよう。――まぁ、言葉の通じる奴じゃ。心配はいらぬよ』
「んふふっ、じゃあ安心しよっ。なんかね、いろんな出会いの先に現れた感じでさ。なんかね…」
……
全部話し切る前に寝てしもうたな。…最後、気になったが…明日聞いて湊は覚えておろうか?
まぁ、ふははは。
何ともめんこい寝顔じゃな。
吽形と顔を見合わせて、我らは社へと意識を戻した。




