狛犬網の可能性
「やっぱり、阿吽たちと仕事で行く場所って、天気が良くても…なんか、暗いよね…」
この場を効果的に整えるには…と、思慮を巡らせておると、湊からそんな言葉が聞こえた。
『そうじゃのう。どの社からも遠く、人の往来を見守る地蔵もおらず、気の流れも起きにくい場所ともなれば…そうなるのじゃろうのう』
ワシはあたりを付けた場所へと気を流し、ゆっくりと巡り出すのを確認した。
それが、僅かに生じていた邪気を流すように浄化していくのがわかる。
こういった場所は、そこに住む人の経験から、何らかの対処をしていたものじゃが…
心無き開発や、その後の放置などで、場が荒れたままになっておる。
湊のような存在がどれほどおるのかは知らぬが、そういった者たちの助力は、本当にありがたい。
「こんな場所をそのままにしていたら…どうなるの?」
うむ。
正直、主様に仕えてからこれまで、我らの土地でそのような場所はなかった。
狛犬網で得た知識じゃと、確か…
『…穢れ、が発生しやすくなる。そう理解しておる』
「けがれ?」
『うむ。土地が蝕まれ、関わる者の心や身体に影響を及ぼす』
「…えっ、それ怖くない?」
湊が軽く屈み、腕を抱くようにして身体を小さく丸めた。
『安心せよ。浄化に赴く際は、常に湊へと気を流し穢れを阻んでおる。そもそも、危険と思わしき場所の仕事は受けぬ』
「…でも、それは…そのままにしてはダメなんじゃないの?」
…人の手で招いた災いは…人の手で対処するじゃろう。
せめて、先人が残した思いを正しく継いでゆければ…
これを湊に伝えたところで、我らでは対処できぬ。
『湊だけでなく、皆で対処すべきことじゃ。我らは、我らにできることを成せば良い』
ワシは、しばらく無言で考え込んだ湊の反応を待った。
「…ん」
軽く頷いた湊を確認したワシは、依頼主の祀られる社へ向かおうと伝え、報酬の気を賜り、主様の社へと戻った。
『湊。今日も、ありがとう』
―――
湊の自転車で向かえる範囲の社となると、浄化を行って往復しても二時間とかからぬ。
仕事を終えてもまだ日が高く、社へ戻ると言う湊と境内で過ごしておった。
「僕の自転車で行けるお社って、どれくらいあるの?」
「どうなんですか? 阿形」
いや吽形おぬしぃ…
こやつも、あれから狛犬網に加わったものの…積極的には情報を拾いに行かぬ…
「うーむ…前回、今回と二か所の社へ赴いたが…あとは湊の足では難しい場所ばかりじゃな」
「…それって、そのうち仕事がなくなったりしない?」
気づいたか…そうよなぁ、周囲から邪気や問題がなくなるのは良いことなのじゃが…
気を賜る仕事が減る。
しかし、こればかりは我らの都合でしかない。困ったのう…
恐らくは吽形も同じ悩みへと行きついたのか、我らは顔を見合わせた。
「ねぇ、狛犬網って、何でできてるの?」
む? 話題を変えたか?
まぁ、行き詰まったしのぅ…
「んー、そうじゃなぁ…縁によって開かれた道に、気を流して繋ぐものじゃな。故に、気でできておる」
なんじゃ、教えた途端に開いたような、好奇心に駆られたその表情が、ちょっと怖い…
「ねぇねぇ、繋がった社に、狛犬網を通って行けないの?」
「「……は?」」




