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ダンジョンで嬲り殺しにされた少年は、異形の力【魔喰い】で英雄集団に復讐する  作者: こねこねこ
第3章 一人目――聖騎士セルヴァンナ・アウレ(後編)
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第5話 小麦乙女(後編)

  ===行方不明===


 クエストの中には、他のパーティーと合同で請負うものもある。

 特に難易度の高いものは、王国直像の白百合騎士団が受け持ち、その補助員として一般パーティーが参加することになる。

 今回は、小麦乙女に声がかかっていた。

 レオンが一時加入してからというもの、彼女たちの名声は上がっていた。

 それで、目をつけられたようだ。

 それに、白百合騎士団は女性だけの組織だ。

 小麦乙女も女性だけのパーティーだということで都合がよかったらしい。


 レオンは、そのことを知ったのは、手遅れになった後だった。

 宿で【擬態】の練習をしていると、ドアを強くたたく音が響いた。

 慌てて服を着てドアを開ける。

 そこには、マーヤがいた。服は泥だらけで、顔に生気がない。

 一目見ただけで、緊急事態が起きていることが分かった。


「リオナが、いなくなった!」


 必死の形相でマーヤが言う。

 

「私とリオナは、ギルドで白百合騎士団に声をかけられた。これからクエストに行くんだけど、補助員として参加しないかって。リオナは喜んで、同行した。私は貴女も一緒にと考えたけど、白百合騎士団はすぐにでも出発したいらしくて、その暇がなかった」


 それを聞き、レオンは背筋に冷たいものを感じた。

 ここの人族は、セルヴァンナの本性を知らない。

 白百合騎士団の内情についても、表層的なことしか知らないだろう。


「私達は、白百合騎士団と一緒に魔物の討伐に向かっていた。討伐自体は、順調に終わった。その後、野営をしたんだけど、朝になったらリオナがいなかったの」

「白百合騎士団は、何て言っていますか?」

「心当たりはないって。途中で面倒になって帰ったのだろうって言ってた。でも、そんなわけがない! あの子は白百合騎士団が大好きだったし、一人で帰るはずがない! 探しに行きたい! 手伝って!」


 その声は震えていた。

 マーヤも、リオナがどうなったのか薄々察してはいるのだろう。

 だが、認めたくはないのだ。


 もっとも、生きている可能性はゼロではない。

 レオンはすぐに支度をすると、マーヤと一緒に野営地に向かった。


  ===白百合騎士団との遭遇===


 リオナの死体を見つけるまで、さほどの時間はかからなかった。

 彼女の死体は、野営地から少し離れた場所にある川岸にあった。


 一目で、事故に遭ったわけでも、魔物に殺されわけでもないことは分かった。

 身体には無数の刺し傷があった。

 圧倒的な実力差で甚振られたのだ。

 マーヤは遺体に駆け寄ると、必死に呼びかけた。

 だが、その呼びかけに遺体が応じるはずもなかった。


 そこに、白百合騎士団の団員が現れた。

 騎士団の制服を着た二人の女性エルフだ。


「あれ、誰かいる」

「その死体、回収させてもらっていいかな? 同行してくれていた子だから、私達が丁重に対応させてもらうよ」


 彼女たちの姿を見た瞬間、自分の中にある魂が復讐を呼びかけた。

 セルヴァンナに殺された記憶がフラッシュバックする。


 それだけではない。

 エルフに殺された人族たち――。


 その記憶が、

 その怨嗟が、

 その憤怒が、

 その屈辱が、

 その復讐心が、


 一気にレオンの中で爆発した。


「……これが白百合騎士団のやり方ですか」


 出来る限り感情を抑えながら、レオンは尋ねた。

 対するエルフの騎士は、嘲笑を浮かべた。


「ああ、もう、分かっちゃってる感じ? 分かってない振りをしたら……うん、無理だね。その死体を見つけちゃった時点で、君たちは殺さないといけなかった」


 そう言って、騎士は杖剣を構えた。

 これは剣に魔法の効果を乗せることが出来る魔道具だ。

 貴重なものではあるが、白百合騎士団の一定以上のメンバーは全員が持っている。


「一応聞いておきます。何故、彼女を殺したのですか?」

「何故って“通過儀礼”のためだよ」

「通過儀礼?」

「白百合騎士団に入ったら、人族を殺すことになっているんだ。それが出来なければ、誇り高きエルフの騎士としては認められない。その子も、白百合騎士団に殺されて光栄だっただろうね。ああ、もしかして、知り合い? エルフなのに、人族と仲良くやってるの? ああ、それとも、仲良くするふりをして、自分で殺すつもりだった? 獲物を横取りした形になるのかな? それは、申し訳ないことをしたね」

「彼女は、私の仲間です」

「へぇ、面白い。それならそれでいいや。それじゃあ、彼女の最後を知りたいよね? 特別に教えてあげようじゃないか」


 エルフは、もう一人のエルフを見る。

 おどおどしている気の弱そうな女性だ。

 彼女ははにかみながら言う。


「あの、そちらの人族は、マーヤさんですよね? 一緒にクエストに行ったナイアです。あ、説明でしたね。えっと、人族を一人殺すという課題でしたので、リオナさんを呼び出しました。そして、事情を説明して、彼女を殺そうとしました。残念なことですが、彼女は抵抗しました。私達に勝てるはずがないのに。そのことに気が付くと、今度は逃亡を図りました。そして、マーヤさんを起こすためにテントの中に行きました。とても幸運でした」

「幸運?」

「マーヤさんには、睡眠薬の入った飲み物を飲ませておきました。ですから、少しのことで目を覚ますことはありません。貴女を人質にしたら、彼女は簡単に武器を捨てました。後は、いたぶるだけです」


 その言葉は、どこか自慢げに響いた。

 やるべきことをやり遂げた、とでも言うような誇らしさ。

 そこに罪悪感などは一切ないようだった。


「分かったかな。彼女は、君のせいで死んだ――」


 その言葉は、最後まで続かなかった。


  ===マーヤの復讐===


 レオンはスキル【居合】を使って、瞬時にエルフの首を切っていた。

 先ほどまではにかんでいたもう一人は、状況がつかめていないようで、立ちすくんでいた。


「降参するなら、武器を捨てろ」


 レオンに言われ、ナイアは剣を捨てる。


「降参します。でも、貴女もエルフなら、こちらの味方なんじゃ……」

「お前たちと一緒にするな」


 そう言いながらも、レオンは剣を鞘に戻した。

 それを見たナイアは、少しだけ気を抜いたようだった。


 その瞬間――彼女の胸に剣が突き立てられた。

 やったのは、マーヤだ。

 怒りの形相を浮かべ、歯を食いしばりながら刃を進める。


「下等な人間に殺される気分はどう?」

「そんな……」


 マーヤが剣から手を離すと、ナイアは倒れた。

 まだ意識は残っているようで、苦しそうに呼吸をしている。

 その度に、口から血が溢れた。


「助けて……」

「それ、誰に行っているの?」


 祈り語彙をするナイアに、マーヤは追撃を加える。

 顔面を何度も踏みつけた。

 原型が残らないほどに、何度も何度も。

 涙をこぼしながら、怒りをぶつけていた。


「マーヤさん、もう止めてください」

「……リュミエルさん」


 レオンに声をかけられ、ようやくマーヤの動きが止まる。

 彼女の服は返り血だらけになっていた。ナイアは既に絶命している。


 レオンはスキル【魔喰い】を使った。

 すると、二人分の死体がレオンの右手に吸い込まれていった。


「それは……」

「私のスキルです。こうすることで、相手の記憶や経験値を得ることが出来ます」


 それを聞いたマーヤは、動きを止めた。

 レオンを見ながら、何かを考えているようで――。

 少しするとレオンに尋ねた。


「それじゃあ、リオナも吸収できる?」


 それを聞き、レオンはマーヤを見る。

 まさか、そんなことを聞かれるとは思ってもみなかった。


「あの子には身内はいない。故郷の家族は、野盗に殺されている。その野党は、冒険者になったリオナが殺した。彼女は、ちゃんと復讐をしたい子なんだ。だから、貴女の中にいて欲しい。貴女の中で、復讐に参加させてあげて欲しい」

「出来ますが、しません」

「何で?」

「【魔喰い】を使えば、対象者の記憶を得ることが出来ます。でも、それはやってはいけないことです。本人が隠してきたこと、本音、そういうものを無理矢理開示させるものです。ですから、罪のない人に対して、本人の同意なしに【魔喰い】は使いません。絶対に」


 レオンは、マーヤの肩に手をおく。


「それに、記憶を継承したところで私がリオンになれるわけじゃありません」

「……分かっている」

「だから、彼女はここで弔おいましょう。町に戻れば、白百合騎士団が貴女を探すかもしれません。町で弔うことは出来ませんから」


  ===約束===


 リオナの遺体は、出来るだけ見晴らしのいい場所に埋葬した。

 そこには、レオンとマーヤだけが分かる目印をつけてある。


「マーヤさん。貴女は、これから、どうしますか?」

「分からない。とにかく、リオナと一緒に、安全な依頼を受けて生きていくつもりだった。でも、リオナはもういない。方針とかは、もうない。でも、生きていくしかない」

「そうですね」

「この町を離れて、どこかで静かに暮らそうと思う。その後のことは、まだ分からない」


 レオンは頷いた。

 彼女たちのために出来ることは、もうない。


「ねぇ、リュミエル。貴女、白百合騎士団と敵対しているんでしょ? リオナが殺される前から」

「何故そう思ったのですか?」

「見ていれば分かるよ。白百合騎士団のエルフを見たときから、貴女の中には抑えきれない怒りがあった。必死に抑えようとしていたけれど、それも無駄。これから、白百合騎士団と戦うつもりなの?」

「……そうです」

「それじゃあ、お願い。貴女は生き残って。何をしてでも、生きて。そして、いつか私に会いに来て。そうでないと――リオナについて、話す相手がいなくなっちゃう」

「ええ、分かりました。約束します」


 その約束を果たせるかどうかは分からない。

 レベルは上がったが、それだけではセルヴァンナに勝てないだろう。


 だが、これ以上待つことは出来なかった。

 リオナの死をきっかけに、その怨嗟が活性化していた。

 もはや、レオンには抑えられなくなっていた。


 復讐を実行に移すしかなくなった。

 その為には、策を用意する必要があった。

 セルヴァンナの固有スキル【神意不墜】を潰せる策を。

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