第4話 小麦乙女(前編)
===荒野===
ダンジョンから転移すると、荒野にいた。
この場所には見覚えがあった。
『おめでとうございます。土の中で死亡、という展開は避けられたようですね』
「ああ、うん」
ここは、幽樹迷宮と近隣の町をつなぐ街道だ。
救世烈団と一緒に、馬車で何度も通った。
一安心したものの、レオンはすぐに考えを改める。
フードを目深にかぶり、出来るだけ目立たないようにした。
途中でノワールに遭遇する可能性があった。
今のレオンは、女性エルフの身体になっている。
だから、遭遇したとしても、レオンであることは分からないはずだ。
だが、慎重に慎重を重ねておくことにした。
===美しいエルフ===
結局、ノワールに遭遇することはなかった。
レオンは無事に町まで到着した。
久しぶりに見る活気に、少しだけ心がざわついた。
それがなぜなのかは、よく分からない。
それについて考えていると、疑似人格が話しかけてきた。
『注目されていますね』
「……そうみたいだね」
町に入ったレオンは、何故か注目を集めていた。
フードを被り、顔は見えないようにしている。
このような服装をした冒険者は多くいるはずだ。
特段目立つ要素はない――そう思い込んでいた。
そんなわけがなかった。
死闘に次ぐ死闘で、防具はぼろぼろ、服には血がこびりついていた。
さすがに、そこまで酷い冒険者はいない。
レオンはまず、冒険者ギルドに行った。
そこで登録を行い、幽樹迷宮で手に入れた素材の一部を買い取ってもらった。
珍しいものは足がつくので、売ったのは安物ばかりだ。
それでも、そこそこの金にはなった。
その金で、女性用の服を購入した。
かなり抵抗はあったが、このままというわけにも行かない。
服は店員に見繕ってもらった。
服を購入した後は、宿を取った。
狭くてボロだが、個室だ。
そこで、ようやく鏡を見た。
深穴に落とされてから、初めて自分の顔を見ることが出来た。
それは、想像以上に美しいものだった。
銀色の髪。
透き通るような肌。
新緑の色をした瞳。
――これを磨けば、武器になるかもしれない。
そう思った。
磨き方は分からないが、最初にやるべきことは分かっていた。
とにかく、風呂に入った。
女性の身体だが、気にしている余裕はない。
ダンジョンで殺されそうになった時から、一度も身体を洗っていない。
かなり臭うらしい。
宿屋の主人に指摘されるまで気づかなかった。
風呂から上がると、裸のままで再度鏡の前に立った。
汚れが落ちた身体は、やはり美しいものだった。
胸や尻などの性的な部分は形よく、くびれもしっかりしている。
顔のパーツもすべて美しく、配置も完璧だ。
このまま石像にでもして飾りたいと思うほどだ。
さて――。
こうして、女性エルフの裸体を観察していたレオンだが、しっかりと目的はあった。
スキル【擬態】を使って、元の姿に戻ることだ。
彼の考える復讐には、それが必要だった。
だから、鏡の前で練習を始めたのだが――これが中々上手くいかなかった。
自分の姿に戻ろうとするが、どうやればいいのか分からないのだ。
魔物の能力の一部を使用するのとは違い、全身を変化させる必要がある。
それでも根気よく練習を続けた。
===ギルドの仕事===
しばらくの間、レオンは女性エルフの身体で過ごすことにした。
レオンの姿を見られたら、すぐに救世烈団に連絡がいくだろう。
そうなれば、一時間もしないうちにレオンは落命しているはずだ。
レオンは、リュミエルと名乗ることにした。
これが、深淵喰いに吸収される前――生前の女性エルフの名前だった。
ギルドで受けた依頼は、全て簡単に達成することが出来た。
リュミエルの身体能力は高く、無数のスキルもある。
有能過ぎることがバレないように調整しながら、レオンはレベルを上げていった。
併行して、救世烈団の情報も集めていた。
彼らに復讐をするにしても、正面から戦いを挑むというのはあり得ない。
入念な計画を立てる必要がある。
実行に移すまでには、しばらく時間がかかるだろう。
勿論、すぐにでも復讐をしたいという気持ちはある。
だが、失敗をするわけには行かない。
今回、レオンが力を手に入れたのは奇跡としか言いようがない。
おそらく、人族が救世烈団に対抗しうる力を手に入れることは今後起きないだろう。
だから、失敗するわけには行かない。
焦りは禁物だ。
だが――。
事態は急変する。
===小麦乙女===
切欠となったのは、女性二人組のパーティーに誘われたことだった。
剣士のリオナと付与術師のマーヤ。年齢は十代後半くらいか。
パーティー名は『小麦乙女』――一攫千金を夢見て、田舎から出てきたらしい。
だが、その結果は芳しいものではない。
パーティーランクは下から二番目の『青』。
本来であれば、男性メンバーを追加したいところだ。
だが、リオナが男嫌いであるため、それが出来ずにいるらしい。
そこで、実力のある女性ということで、レオンを誘ったというわけだ。
彼は今、美しいエルフ――リュミエルの身体になっている。
二人も当然、女性だと思ったのだろう。
だが、レオンが気になったのは別のところだ。
リオナは”白百合騎士団”のファンということらしい。
白百合騎士団は、女性エルフで構成されている。
そのトップがセルヴァンナ・アウレ――復讐の対象だ。
リオナは、セルヴァンナの情報を細かに知っていた。
逐一情報を仕入れ、それを語っていた。
だから、それを利用できると思ったのだ。
レオンはパーティーへの加入を了承した。
あくまでも一時的な協力関係であることは、確認してある。
レオンが加入してからというもの、小麦乙女は飛ぶ鳥おとす勢いで昇格していった。
僅か一か月で、ランクが三つも上がり、周囲から一目置かれる存在となっていた。
「このまま、このパーティーに正式に入らない?」
そう言われた時は、少しだけ心が揺らいだ。
そもそも、レオンは正体を隠している。
そのままパーティーに入るのは倫理的にマズかった。
それでも、同じパーティーでやっていけたら楽しいと思った。
だが――葛藤することはなかった。
その話は、立ち消えた。
このパーティーは、崩壊することになったのだ。
リオナの死によって。




