第10話 騙し打ち(後編)
===リュミエル 対 セルヴァンナ===
リュミエルは、一振りの剣を持っていた。
一目見ただけで、業物だと理解できる。
だが、セルヴァンナは全く動じない。
「その剣、どこに隠し持っていた? アイテムボックス……。いや、空間系の魔術の使い手か? いずれにせよ、素晴らしい! ああ、神よ。感謝します! 一方的に甚振るのではつまらないと思っていたところなのです! 君の価値は高ければ高い程、私は興奮できる! 君を存分に鑑賞出来たら、私は次のステップに上がることが出来るだろう!」
「変態め」
「もっと言ってくれ! 誉め言葉だ!」
聖剣ルミノールには、複数の能力がある。
その一つは、抵抗力の“無視”だ。
一度振り下ろせば、それを受け止めることは不可能。
リュミエルの剣は一瞬で砕け散った。
どれほどの業物であっても、聖剣の前には無力だった。
だが、リュミエルは怯まない。
砕けた剣を即座に捨て、セルヴァンナの背後に滑り込む。
その両手には、いつの間にか二本の短剣が握られていた。
鋭い突きがセルヴァンナに迫る。
だが、それすらも聖剣の一閃で粉砕された。
「何だ、この程度か? もっと頑張ってくれ! そうでないと、私が満足できない! 試練は厳しい程いい!」
セルヴァンナは、愉悦に満ちた声で叫ぶ。
これほどまで楽しい戦いは初めてだった。
まだ、リュミエルは底を見せていない。
まだまだ楽しめる。
それが嬉しかった。
「さぁ、リュミエル! 次はどうする! このままでは勝ち目はないぞ!」
煽るように言うセルヴァンナ。
その次の瞬間、身体にかすかな痺れが走った。
「毒か? いや、そんな隙は――」
「その油断が命取りです。貴女の身体の自由は、奪いました。そして、貴女のスキル――【神意不墜】も既に使えなくなっています」
確認させるような口調で言うリュミエル。
身体の動きは確かに鈍くなっていた。ただのハッタリではないようだ。
リュミエルは何らかのスキルを使用し、高速で移動した。
そして、セルヴァンナの斜め後方に位置取り、剣を振るった。
===種明かし===
死角からの斬撃――。
だが、その刃はセルヴァンナの肌に触れる前に弾かれた。
スキル【神意不墜】は未だ健在だった。
セルヴァンナはリュミエルを蹴り飛ばした。
壁に叩きつけられたリュミエルは、せき込みながらも立ち上がる。
その目の光は失われていない。
「君の工夫は素晴らしかった。私の身体が“軽く”麻痺した際、これが酷くなると虚偽の説明をすることで動揺を誘おうとしたのだろう。そして、精神的動揺により【神意不墜】を無効化しようとした。だが、無駄だったな。神の寵愛が費えることはない! どうやら、毒の影響も消えたようだ。これぞ神の愛!」
セルヴァンナは勝利を確信していた。
だが、リュミエルの瞳には、まだ強い意思が宿っている。
「まだ、何か企んでいるようだな! 素晴らしい! ありとあらゆる手練手管を見せるがいい! その全てを私は味わいつくしてやる!」
「本当ですか?」
「? ああ」
「本当に、私の全てを味わいつくしてくださるのですか?」
「勿論だ!」
セルヴァンナは堂々と答えた。
どのような搦手を使われたとしても、それを堂々と打ち破る。
自分にはそれが出来ると確信していた。
だが――リュミエルは剣をおろした。
「何だ、降参か?」
「いえ、勝つために必要な手順です。少し、話を聞いていただけませんか? 種明かしをさせていただきたいのです」
その意図は分からなかった。
だが、セルヴァンナはその要求に応じた。
リュミエルは、まだ何か策を残している。
その策を実行させなければ、リュミエルの全てを味わったとはいえない。
「セルヴァンナ様は、私の身体を隅々まで味わってくださいました。私もセルヴァンナ様の身体にご奉仕をさせていただきました。先ほど貴女の身体が麻痺したのも、それが原因だったのですよ」
「どういうことだ?」
「貴女は毎晩私を可愛がってくださいました。そして、私の体液を摂取しつづけた。そこに毒を混ぜていたのです。勿論、有害なものは【神意不墜】により、すぐに解毒されてしまいます。ですから、特定の物質と反応した際に、一気に全身に広がるようなものを用意したのです」
「スキル持ちか」
「はい。この部屋は、貴女の体内に眠っていた毒と結合する気体で満たしておきました。【神意不墜】を持っていても、多少の影響はあったのですよね? それだけ、大量の私の体液を貴女は摂取したのですから」
「何が言いたい? 命乞いでも始めるつもりか?」
「いえ――」
リュミエルはセルヴァンナの目を正面から見た。
「ここまでの流れは、全て仕込みだったのです。セルヴァンナ様と深い仲になったのも、貴女のために尽くしてきたのも。そして“熟成期間”に気づかない振りをしていたのも」
セルヴァンナには、言葉の意図が分からなかった。
だが――。
「以前、ガルドに対して『男に抱かれるくらいなら死んだほうがましだ』と言っていましたね?」
セルヴァンナは男嫌い。
男が屋敷に着たら、徹底的に清掃をさせる。
それは周囲にも知られていた。
だが、ガルドに話した言葉を白百合騎士団の団員に教えた覚えはない。
「何故知っている?」
「そろそろ、教えてあげますよ。私が――いや“僕”が何者なのかを」
そう告げると、セルヴァンナの姿が崩壊した。
あの美しかった女性エルフの相貌は消え去り、その姿が変化する。
そして、現れたのは――。
「久しぶりですね、セルヴァンナ様。この“僕”が貴女のために帰ってきましたよ」
かつて救世烈団が殺したはずの少年――レオンだった。
その事実を理解した瞬間、セルヴァンナの脳裏に、これまでの“全て”が逆流する。
信頼。
依存。
優しさ。
触れ合い。
言葉。
時間。
全て――レオンだった。
「……ほ、ほひぃ……?」
セルヴァンナの喉から、意味を成さない声が漏れた。




