第8話 虐殺(後編)
===幹部一閃===
聖白院には、巨大な釣り鐘が設置されている。
その鐘の音が鳴り響く。
それが、イベント開始の合図だ。
この瞬間、この敷地は巨大な蟲毒と化した。
団員の大半は、動けずにいた。
人族を殺すことは躊躇わない彼女たちも、同族を殺すのは躊躇われる。
何よりも、ここでは彼女たちは弱者だった。
リュミエルに、幹部に、先輩に、同期に、後輩に殺されるかもしれない。
その猜疑心により、彼女たちは散らばった。
だが、そんな動揺をすることなくリュミエルを狙って来た者たちがいた。
幹部たちだ。
彼女たちは、同時に攻撃してきた。
鍛え上げられた剣技を用い、不意打ちをしようとした。
だが、それで簡単に殺せるはずもない。
それは、リュミエルにとっても、想定内の展開だった。
むしろ、予想通りと言っていい。
ヴァレリスの剣を受け流し、同時にイシリアの剣劇を躱す。
その流麗な動きに、幹部たちは思わず目を奪われた。
その瞬間、リュミエルは走り出した。
向かった先は、聖百院の建物内だ。
今回は、聖百院の全てがイベント会場になっている。
追って来たのは、四人の幹部のうち三人。
残りの一人は、団員を殺しに行ったらしい。
リュミエルは団長執務室に入った。
続けて、幹部の三人も入って来る。
「何を考えているかは知らないけど、ここまで変質的な戦闘狂だとは思わなかった」
イシリアが穏やかな声で告げる。
だが、その言葉には確かな敵意があった。
「戦闘狂ではありません。“復讐鬼”です」
「復讐?」
「皆さんは、ご存じないのかもしれませんね。私がここに来たのは、復讐をするためです。戦って自分を鍛えるためでも、セルヴァンナ様に気に入られるためでもありません。ですから――正々堂々と戦うつもりもありません」
幹部たちが到着する前に、リュミエルはスキル【猛毒化】を使っていた。
彼女たちが部屋に入ってきた時には、室内は無味無臭の麻痺毒で満たされていたのだ。
動きが鈍くなる幹部たち。
「お前……。卑怯な」
「卑怯というのは、抵抗できない相手を一方的に殺害することですね? ええ、その通りです。そして、このような無駄な死に様が、卑怯な貴女たちには相応しい」
「何を言って――」
「“通過儀礼”――彼女は、私の友人でした。ああ、そうだ。彼女の仲間から伝言をお預かりしています。『惨めに死ね』だそうです」
リュミエルは、幹部たちが落とした剣を拾いあげる。
そして、それをゆっくりと心臓に突き刺した。
胸から血が溢れ出て、身体から力が抜けていく。
そして幹部たちは絶命した。
その様子をリュミエルはずっと見ていた。
===虐殺===
幹部三人を殺害したリュミエルは、外の様子を窺った。
予定では、膠着状態が生まれているはずだった。
そこで何もできなくなっている団員たちを、一人ずつ殺す予定でいた。
だが、外からは、エルフたちの悲鳴が聞こえてきた。
暗い中逃げ惑い、狂乱状態になっている者がたくさんいた。
どうやら、幹部の一人が、嬉々として団員を殺し回っているようだ。
――そこまで頭が悪いのか。
リュミエルは呆れていた。
同士討ちをしても問題ない、というルールにはしておいた。
だが、実際にそんなことをすれば、このイベントが終わった後にどんな思いをするか全く考えていないらしい。
生き残った者は、白百合騎士団を抜けるだろう。
そして、この悪評は広まるはずだ。
それは、セルヴァンナが作りあげたものを破壊することに他ならない。
もっとも――。
生き残りを出す気はない。
ここにいるエルフたちは、入団後の“通過儀礼”として人族を殺している。
これは、人族から託された復讐なのだ。
白百合騎士団に入った理由のうち、一つがこれだ。
「とりあえず、生き残りを探しますか」
リュミエルは生き残りを探し始めた。
スキル【探知】で、結界内にいる団員の位置を把握する。
そして、次々と殺していった。
===虐殺の目的===
殲滅まで、大した時間はかからなかった。
虐殺を続けていた幹部も、あっさりと死んだ。
聖白院には、団員の死体が大量に転がっていた。
残るはただ一人――白百合騎士団の団長にして、救世烈団の団員であるセルヴァンナ・アウレだけだ。
彼女には【神意不墜】というスキルがある。
それを崩すためには、彼女の精神を攻撃する必要がある。
この惨状は、それに役立つだろう。
後は、セルヴァンナの帰りを待つだけだ。
リュミエルは椅子に腰かけ、セルヴァンナの帰還を待った。




