第7話 虐殺(前編)
===“人狩り”の準備===
更に二週間が経過した。
この日はセルヴァンナが言っていた“人狩り”が行われることになっている。
これは毎年行われるものであり、修練場で選抜されたエルフが人族を虐殺するというものだ。
聖務部長であるリュミエルは、その準備に明け暮れていた。
イベントの中心となるのは、団長であるセルヴァンナだ。
だが、彼女は白百合騎士団を不在にしており、夜まで戻らない。
救世烈団の会合に参加するため、出かけているのだ。
セルヴァンナが戻るまでに、やるべきことを済ませておかなければならない。
リュミエルは最後の確認作業を行っていた。
彼女がしているのは“結界”を張る装置の点検だ。
これにより、人族が聖白院から逃げ出せないようにするのだ。
「リュミエル様、何かお手伝いしましょうか?」
見習いの団員が、声をかけてきた。
だが、リュミエルは丁寧にそれを固辞する。
「いえ、大丈夫です。これで最後ですから」
「今日の“人狩り”、とても楽しみにしています。私達まで参加させていただけるなんて、とても嬉しいです」
団員は本当に嬉しそうに言った。
去年まで、このイベントはごく一部の団員しか参加することが出来なかった。
だが、今年は違う。
今年の“人狩り”は、希望者全員が参加することが出来る。
そして、全団員から参加希望が出ていた。
「本当に、ありがとうございます」
見習いは、礼を言ってから立ち去った。
リュミエルはその後姿を見送った。
――このイベントだけは、何としても“成功”させなければならない。
そんな思いが強くなっていった。
「さて、もう少しだけ頑張りますか」
イベント開始まで、後五時間。
リュミエルは最後の仕上げに取り掛かった。
===ルール変更===
夜になると、白百合騎士団の団員たちは修練場に集まった。
まだセルヴァンナは戻っていない。
予定では、戻るまでにあと二時間はかかるはずだ。
「おい、リュミエル。セルヴァンナ様が戻られていないが、もう始めるつもりか?」
管理部長ヴァレリスが尋ねた。
「セルヴァンナ様は、私に一任してくださいました」
「戻られた時に、人族が狩りつくされていたらどうするつもりだ?」
「大丈夫です。“獲物”は絶対に生き残ります。セルヴァンナ様にはご満足いただけると確信しています」
「それなら、いいが……」
ヴァレリスは引き下がった。
これまで、リュミエルは白百合騎士団の中で大きな功績を上げていた。
彼女の能力は、信頼と実績に裏打ちされている。
今や、古参の幹部でさえ、彼女を止めることは出来ない。
「さて、そろそろ始めましょう」
リュミエルは集まった団員たちに目をやる。
彼女たちは、修練場を囲むように設置された観客席でイベントの開始を待っていた。
今回は、彼女たちも参加者となる。
リュミエルは壇上に立った。
すると、会場が静まり返った。
彼女の言葉を聞き漏らすことがないよう、自然と注意が向けられる。
「それでは、ルールの説明をいたします。今年の人狩りですが、少しだけルールの“修正”をしましたのでご清聴ください。これまで、人狩りはセルヴァンナ様と幹部五名だけが行ってきました。しかし、それ以外の方からも『ぜひ参加したい』という言葉をうかがっています。そこで、今年は“全員参加”ということにさせていただきました」
観客席からは、拍手が送られる。
幹部になるまで参加できないイベント――大半は一生関わることのないものに、参加することが出来ようになったのだ。
「もしも参加したくないという方がいらっしゃいましたら、すぐに聖白院から出て行ってください。イベント開始と同時に、この聖白院には結界が張られることになります。この結界によって、中から外に出ることが出来なくなります。人族が逃げ出しては大変ですから」
席を立ち去る者はいなかった。
そもそも、ここで参加を取りやめるようであれば、最初からここに来ていない。
リュミエルもそれを念押ししただけだ。
「それでは、“追加ルール”の説明をさせていただきます。まず、同士討ちを解禁いたします。これまでの人狩りでは、同士討ちが禁じられていました。ですが、邪魔だと思ったら、同族であっても攻撃してしまって構いません」
団員たちはざわめいた。
一方的に人族を狩る、というのがこのイベントの趣旨だった。
だが、同士討ちが解禁されたことで、それが大きく変わってしまった。
同族から攻撃される可能性が出てきたのだ。
「どういうつもり? そんな話、事前に聞いてないけど」
監察部長イリシアが非難めいた口調で尋ねる。
リュミエルは堂々とした態度で言葉を返す。
「私に一任されています。任せてください。貴女たちも、新人エルフを殺すチャンスですよ? 殺してみたくないですか?」
「それは、そうだ。だけど、そのルールでは、お前も殺される可能性がある。それは分かっているね?」
「勿論です」
リュミエルを殺す算段をつけはじめる幹部たち。
対照的に、新人エルフたちは戸惑っていた。
一方的に殺せると思っていたにもかかわらず、自分が標的になるのだ。
中には、聖白院を出ようとする者もいた。
だが、結界により出ることは出来ない。
人間を閉じ込めるはずの結界は、彼女たちを閉じ込める檻と化していた。
「では、二つ目のルールを説明いたします。今回の人狩りですが、人間を獲物とするのは止めさせていただきました」
「え?」
「だって、詰まらないでしょう。ろくに抵抗できない人間を殺したところで、何の達成感もありません。ですから、今回は生きのいい獲物を用意させていただきました。今回、皆さんに狙っていただく獲物は“私”です」
リュミエルは調子を変えることなく言った。
あまりにも普段と変わらない様子に、団員たちは動揺し始める。
幹部たちも、驚きながらリュミエルを見ていた。
「達成できた方には、聖務部長の座を差し上げます。それでは、始めましょう!」




