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ダンジョンで嬲り殺しにされた少年は、異形の力【魔喰い】で英雄集団に復讐する  作者: こねこねこ
第2章 一人目――聖騎士セルヴァンナ・アウレ(前編)
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第5話 入団試験

  ===リュミエル===


 セルヴァンナが救世烈団の合同遠征から戻ってから、一か月が経過した。


 この日は、白百合騎士団の入団試験が行われることになっていた。

 会場となるのは、聖白院の修練場。

 そこで実力が認められれば、正規の騎士となることが出来る。

 そうでなくても、素質が認められれば見習いとして所属することが出来る。


 今回の試験では、三十人ほどの女性エルフが受験生として集まっていた。

 試験を通過できる者は少ない。

 試験内容は、正騎士と戦って実力を見せるというものだ。

 対戦相手は受験生が選べるが、正騎士は全てが実力者。

 受験生が勝利することはほぼ不可能。

 だが、少しでも良い所を見せる為、受験生は少しでも弱そうな正騎士を探すことになる。


 それでも受験生たちは悉く敗北していった。

 正騎士は、この聖白院で訓練を積み、更なる実力を持つようになっている。

 受験生が勝てないのは当然だ。

 ここまでで聖騎士に勝てた受験生は一人だけいた。


 だが、その受験生はそれほど注目されていなかった。

 今回の入団試験では、ひときわ異彩を放つ受験生がいたのだ。


 彼女の名は、リュミエル。

 彼女の出番はこれからだ。

 それにもかかわらず、受験生の中で――。

 否、正騎士を含めたすべての関係者の中で、彼女は“異質”だった。


 その理由は、ただ“美しいから”というものだった。

 絹のように滑らかで光沢のある銀髪。

 陶器のように白く美しい肌。

 その神秘的な雰囲気は、見るものすべてを魅了していた。


 だが、それで試験内容が変わったりはしない。

 正騎士と戦って、その実力を見せなければならない。

 彼女が誰を指名するのか――。

 団員たちは固唾をのんで見守っていた。


 そこで、謎のエルフ――リュミエルはとんでもないことを言いだした。


「私は、アシェリア様を指名します」


 リュミエルが指名したのは、聖務部長であるアシェリアだった。

 聖務部の仕事は、騎士団としての表立った活動全般だ。

 当然、武力による治安維持、戦時における軍の指揮も含まれている。

 つまりは、武官としての側面もある。

 アシェリアはそこのトップなのだ。


 トップにいる者は名目ばかり立派で実力を伴わない場合がある。

 だが、アシェリアの場合は違った。

 彼女はその実力だけで、聖務部長の座を手に入れていた。

 つまり、この白百合騎士団において、セルヴァンナを除けば最も強いエルフということになる。

 受験生にとっては、もっとも戦いたくない相手だ。


「おい、止めておいたほうがいいぞ。大方、記念受験のつもりなのだろうが、アシェリア様が相手だと殺されかねない」


 試験担当のエルフが忠告する。

 だが、アシェリアはそれが気に入らなかったようだ。

 試験官の首元に剣を突きつけながら、脅し文句を告げた。


「余計なことを言わないでくれるかな? 彼女は、このあたしを指名してくれたんだよ。嬉しい事じゃないか」

「……申し訳ありません」


 これでリュミエルが翻意しようものなら、担当試験官は殺されていたかもしれない。

 だが、リュミエルは全く動じていなかった。


「どうしてもアシェリア様がいいのです」

「いいねぇ。それじゃあ、やろうか。ところで、君の名前は何だったっけ?」

「リュミエルです」


 名前を聞き、アシェリアは嗜虐的な笑みを浮かべた。


「そう、リュミエル。私が相手をするにあたり、ルールを一つだけ追加させてもらうけど、構わないよね? 君も、記念に私と戦いたいなんて言ったわけじゃないでしょ? そんなことは考えてないよねぇ? だから、君が“思う存分戦えるルール”を追加してあげようと思うんだ! まさか、この大先輩を前にして、断ったりしないよね?」

「構いません」

「そう。それじゃ、追加ルール。“降参の禁止”」


 つまりは、アシェリアの気が済むまで“試験”が続くということだ。

 それは、“死ぬまで”ということを意味する。

 普通の受験生なら、怯えて平静を保てなくなるだろう。

 だが、この美しいエルフは全く動じていなかった。


「分かりました。では、こちらからもお願いがあります」

「何かな?」

「私が勝ったら、聖務部長の座を私に下さい」

「ぶふっ」


 アシェリアは吹き出した。

 とても愉快そうに。


「いいねぇ。その条件、呑むよ! セルヴァンナ様、構いませんよね?」


 アシェリアは、遠くから様子を見ていたセルヴァンナに確認を取った。

 すると「ああ、構わん」という返事があった。

 誰一人として、アシェリアの勝利を疑っていなかった。

 ただ一人――当事者であるリュミエルを除いては。


  ===試験開始===


 二人は試験用の木剣を構えた。

 試験官による『開始』の合図と同時に踏み込み、剣を振るう。

 木剣同士が激しくぶつかる――はずだった。


 だが、試験会場には甲高い“金属音”が響いた。

 いつの間にか、彼女たちが持っている剣は、木剣ではなく金属製のものになっていた。


「君もアイテムボックス持ちか! いいね!」


 アシェリアが楽しそうに言う。

 この試験は、受験者と正騎士が戦うというものだ。

 だが、()()()使()()()()()()()()()()

 だから、自前の金属剣を使っても問題ない。

 そのルールの穴を使い、アシェリアはリュミエルの木剣を切り捨てるつもりだった。

 そして、徹底的に甚振るつもりでいた。


 だが、リュミエルも同じことをしていたのだ。

 久しぶりに出合った手ごたえのある相手に、アシェリアは喜んだ。

 だが、その余裕は長くは続かなかった。


 どれだけ打ち込んでも、相手は的確にそれを受けていた。

 体力だけが削がれていき、腕が重くなってくる。

 こんな相手は、これまで一人もいなかった。

 アシェリアの持つ【剣豪】スキルによって強化された太刀筋を見切れる者など、セルヴァンナ以外にはいなかった。

 それなのに――。


「君、何なの!?」

「受験生です」


 リュミエルは、表情を変えずにそう答えた。

 そこには、まだ余力があるように見えた。

 アシェリアの中に、焦りが広がる。

 どれだけ打ち込んでも、攻撃が通るイメージが全くわかなかった。


 そこには、熟練の技術があった。

 どれほどの研鑽を積めば、この域に達することが出来るというのか――。

 スキルに頼りっぱなしのアシェリアには、想像もつかなかった。


「ねぇ、私の部下になる気はない?」


 息を切らせながら、アシェリアは尋ねる。

 だが、リュミエルは答えなかった。

 その代わりと言わんばかりに、アシェリアの剣を弾き飛ばす。


「あ……」


 ふと、アシェリアは声を漏らした。

 手は痺れていて、すぐには剣を持てそうにない。

 これほどまでにあっさりと敗北したのは、久しぶりのことだった。


「降参だ」


 アシェリアはそう告げた。

 敗北したにもかかわらず、悪くない気分だった。

 彼女は、セルヴァンナと初めて戦った時のことを思い出していた。

 あの時は――。


()()()()()()()()()()()

「え?」


 気が付けば、世界が回転していた。

 その瞬間、理解した。

 確かに、降参禁止のルールを自分で設定していたのだと。

 そして――自分は首を斬られ、もう助からないのだと。


  ===目覚めた狂気===


 アシェリアの首が地面に落ちた。

 すると、受験生だけでなく、正騎士からも悲鳴が上がった。

 この試験で死者が出たことはこれまで一度もなかった。

 そもそも、木剣以外が使われたのも初めてだ。

 重大な事故と言える。


 だが――。

 セルヴァンナにとっては、どうでもいいことだった。


 彼女は、全てを見ていた。

 リュミエルの剣技は見事なものだった。

 搦手も素晴らしい。何よりも美しい。

 ただ美しいだけではない――神秘的なものを感じていた。

 アシェリアをためらうことなく殺したのも最高だ。

 リュミエルの全てが、セルヴァンナを魅了した。

 彼女から目を離せなかった。


 ――触れたい、従わせたい、塗り潰したい。

 ――所有したい、絶望させたい、刻み込みたい。

 ――愛したい、愛されたい、壊したい。

 ――嬲りたい、舐りたい、甚振りたい。

 ――屈服させたい、独占したい、終わらせたい。


 己の中の欲望が、一気に噴出した。

 その欲望は膨らみ続け、制御することが出来なくなっていた。

 こんなことは初めてだった。

 衝動が理性を超えることなど、あり得ないはずだった。


 だが――否、だからこそ、セルヴァンナはこれを“運命”だと信じた。


 神が認めた道。

 疑問を挟む余地のない正解。

 だから――躊躇うことなく声をかけた。


「リュミエル。君を聖務部長に任命する」

「ありがとうございます」


 こうして、新人リュミエルは入団と同時に聖務部長となった。

 これが、波乱の始まりだった。

 同時に、終わりの始まりでもあった。

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