第11話 懐かしき王都
翌朝、王都への旅が始まった。馬車の中には私とエマ。レオンハルトは護衛として馬に乗っている。
王国騎士団と教会騎士団に囲まれての移動。まるで罪人の護送のようだ。
(でも、景色を楽しむ余裕はある。46歳の心の余裕かな)
「ステーシア様、大丈夫ですか?」
「ええ、平気よ」
エマはまだ顔色が悪い。王都に近づくにつれて、緊張が増しているようだ。
三日目の夕方、ついに王都の城壁が見えてきた。
「懐かしい……」
たった数週間しか経っていないのに、もう遠い昔のことのように感じる。
城門に着くと、衛兵たちがざわめいた。
「ブランドン令嬢!?」
「生きていたのか」
「しかも暗黒騎士と一緒だと?」
好奇の視線が突き刺さる。でも、もう気にならない。
(さぁ、ショータイムや!)
馬車が王城へと向かう途中、街の様子を観察する。
以前とくらべて、教会の騎士が多い。街の人々の表情もどこか暗い。
「やっぱり、雰囲気が変わってる」
「ええ。聖女様の影響で、教会の力が強くなって」
エマが小声で説明する。
王城の門をくぐると、懐かしい中庭が広がっていた。でも、ここでも教会の紋章があちこちに掲げられている。
「教会に乗っ取られたみたいね」
私のつぶやきにエマは不安げに頷いた。
馬車から降りると、すぐに侍従がやってきた。
「ブランドン令嬢、それにローゼンタール令嬢。こちらへ」
「待って。レオンハルトは?」
「暗黒騎士殿は別室でお待ちいただきます」
「一緒じゃないと――」
「ステーシア」
レオンハルトが制する。
「大丈夫だ。後で合流する」
「でも」
「心配するな」
その目が「従った方がいい」と語っている。
仕方なく、侍従について行く。
通された部屋は、以前私が使っていた客室だった。
「懐かしい……」
調度品もカーテンも、何も変わっていない。
「一時間後、謁見の間にお越しください」
侍従が去ると、エマと二人きりになった。
「ステーシア様、やっぱり嫌な予感がします」
「私も。でも、ここまで来たら進むしかない」
用意されていたドレスに着替える。久しぶりの貴族の正装。ちょっと息苦しい。
「お似合いです、ステーシア様」
「ありがとう。でも、もう冒険者の服の方が好きかも」
二人で苦笑いを交わす。
*
謁見の間への道を歩いていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ステーシア様!」
振り返ると、見覚えのある青年が立っていた。宮廷魔導師ユリウスだ。
「ユリウス!」
「お久しぶりです。いや、まさか本当に戻ってくるとは」
ユリウスはゲームでは脇役だったが、エマとの恋愛サブストーリーがある設定だった。
案の定、エマが顔を赤らめている。
「ユリウス様……」
「エマ、君も無事でよかった」
二人の間に流れる甘い空気。
(お、これはもしかして)
「あの、ユリウス。最近の王都の様子は?」
「それが……かなり変わりました」
ユリウスの表情が曇る。
「聖女様の発言力が増して、教会の影響力が強くなっています。反対する貴族は次々と失脚して」
「アルフレッド殿下は?」
「完全に聖女様の言いなりです。魔法にかけられたように従順になっています……」
(魔法……本当に?)
謁見の間に着くと、すでに多くの貴族が集まっていた。
みんな私を見て囁き合っている。好奇、軽蔑、それに少しだけの同情。
玉座には国王が座り、その横にアルフレッドとミーナがいた。
ミーナは相変わらず清楚な聖女の姿。でも、その瞳の奥に、以前は感じなかった冷たさがある。
「ステーシア・ブランドン、エマ・ローゼンタール」
国王の声が響く。
「よくぞ参った」
深々と礼をする。
「お招きいただき、恐悦至極に存じます」
「うむ。して、暗黒騎士は?」
「別室で待機しております」
大司教が答える。
「後ほどお目通りを」
国王が頷いた後、ミーナが前に出た。
「ステーシア様、お久しぶりです」
甘い声。でも、どこか違和感がある。
「お元気そうで何よりですわ、聖女様」
「あら、まだそんな風に呼ぶの? ミーナでいいのに」
「いえ、身分が違いますから」
皮肉を込めて言うと、ミーナの笑顔が一瞬凍った。
「相変わらずね、ステーシア様」
「ええ、あなたもね」
熱い火花が散り、周囲の空気が凍りつく。
アルフレッドが間に入った。
「二人とも、そのくらいで」
「ごめんなさい、アルフレッド様」
ミーナがすぐに甘えた声を出す。
「私、ステーシア様と仲良くなりたいだけなのに」
「分かってる。ステーシア、君も大人げない」
(はぁ? 私が悪いんかい)
イライラが募るが、ここは我慢。
「申し訳ございません、殿下」
形だけの謝罪をする。
その後、くだらない社交辞令が続いた。結局、なぜ呼ばれたのかはっきりしないまま、謁見は終わった。
部屋に戻ると、レオンハルトが待っていた。
「無事か?」
「ええ。でも、やっぱり何か変」
「俺も感じた。城内の魔力が歪んでいる」
「魔力?」
「誰かが大規模な魔法を使っている痕跡がある」
ユリウスの言葉を思い出す。
(まさか、本当に魔法で操られてる?)
「とにかく、気をつけよう」
「ああ」
窓の外を見ると、日が暮れかけていた。
王都の一日目が終わろうとしている。
明日は何が起きるのか。
王城の客室へ通された。部屋は三人別だが、並んでいる。何かあれば大声で知らせることが出来る。
部屋にぽつんと一人。
ここ最近、毎日レオンハルトと一緒だったから、ちょっと寂しい。
その日は、不安と、そして少しの期待を胸に、疲れと共に眠りについた。




