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……一体、クライブ様とヴィオーラさんの間で何が。
そんな事を、本人に聞けるはずもなく。
いろんな気になることがあれど、指示された通りにリーヴィも間仕切りで仕切られた場所で変装服を着た。
渡された時は気がつかなかったが、服として着ようとすると気がつく。
騎士用の変装服だからか、構造が少し違っていた。服の内側にはポケットや留め金などがあり、隠し武器などをしのばせられるようになっている。
動きにも外見にも、違和感が出ないような絶妙な箇所にそれらはあった。
騎士なら、階級と場所によって帯剣も許されている。
しかしおとり捜査の為に、「普通の服を着た女性」になっているで、剣を持つのはかなり目立つ。何より犯人達に警戒されるからこその隠し武器だ。
ヒールの低い靴は流石に騎士用のブーツのように、乗馬中の手綱や鐙が絡まる事故を想定したナイフ留めはつけられないので、ストッキング留めに短剣を固定できた。スカートの下は動きやすいように、短いズボン状になっているので、いざと言う時に格闘となってもめくりあげるのもためらわなくていい。
そんな風に至れり尽せりの変装服だった。
リーヴィが服の機能に感心して、服の機能を確かめながらなので少し時間がかかってしまったが、やっと着ると。準備されていた大きな姿見に映ったのは、着なれない可愛らしい系統の服。
だからかとてもちぐはぐな感じがして、リーヴィは落ち着かない。
周りを見渡せば、化粧もしない男性陣は、一部の例外を除いて更に顔と体の落差が激しい。
円卓の会議室で見回した時には、女装が似合いそうな面々だとリーヴィは思ってしまったが。実際に服を着た状態なだけだと、クライブの言った「男ならぎこちなくなるもの」と言った感じだった。男性陣の服にはあらかじめ、丸みを帯びた女性の体のシルエットができるような工夫がしてあるので尚更だ。
服を着終わると次は、化粧とカツラ、付け毛の付け方だ。
あれだけ部屋を圧迫していた大量の洋服掛けが撤去されて。大きな鏡と沢山の化粧道具が並べられた長机が、いつのまにか準備されていた。着替えた騎士たちは、ペアで隣同士となるように席に座る。
ヴィオーラは最初の挨拶以降、リーヴィとクライブ相手に親しげな様子を見せることもなく。新人騎士達に女装とはどうあるべきかと、女装の秘訣をレクチャーした。
ヴィオーラがカバーできない範囲には、助手の女性たちが疑問に答えてくれる。
……た、大変だ。
収穫祭に、フレデリカの侍女達に本格的な化粧をしてもらった経験はあれど、自分でするのははじめてのリーヴィは、こんがらがっていた。
フレデリカの侍女たちに化粧をしてもらった時に教えてもらうのだったと、少し後悔する。
してもらうのと、されるのではまったく違う。
してもらった時は。自分がお姫様になったような夢見心地だったのに。
自分でするとなると、何からしていいやら。
教えてもらっても自分ができているのか、いないのか。それさえもわからない。はじめのことが多すぎて戸惑って、覚えなくてはと焦ってしまう。
他の女性騎士もやはりリーヴィと同類のようで、目の前に並べられた様々な化粧道具の使い方がよくわからないようで、戸惑っているようだった。ヒルデのような女子力の高い女性騎士の方が珍しいのだ。
男性騎士と同等に、まずは色とりどりの美しい瓶に入った化粧品の種類と効果、そして白粉用や頬紅用の筆等、様々な化粧に使う道具の説明を受ける。
道具の説明が終わってから、化粧や付け毛の付け方、髪の毛の結い方などを教え込まれていく。
付け毛やカツラで作る髪型は、実際に襲われた被害者達がしていた髪型を参考にしたものだった。
リーヴィの髪型は地毛と同色の付け毛で、組み紐を使った髪型を二種類。
組み紐を緩くした三つ編みに一緒に編み込んで、毛先近くをリボン結びする。
肩のあたりでゆったりとした一つ結びをしてから、髪にボリュームを出し、まとめた髪の毛を組み紐で交差するように縛る。
この二つだ。
組み紐を使った髪型が多いのは、収穫祭での露店で女性に組み紐が流行しているかららしい。
確かに、そう言われてみれば街で見かける女性は、組み紐を使った髪型が多く、リーヴィも買ったうちの一人だ。
そして、このつけ毛の特殊な点は。
犯人達を足止めさせる仕掛けがしていた。
付け毛の中には、金属製の糸が少し混ざっていて、時間稼ぎのために髪の毛を切断しにくいようになっていた。
初めは女装に懐疑的だった男性陣。
しかしヴィオーラが本当は男性だと知ると、男が女装出来るはずがないとは言えなくなってしまうのも仕方がない事だった。
美しくなった「見本」が目の前にいるのだ。
教えてもらえるのは今日まで、次からの現場は毎日自分で身支度を整える事。ということで必死になって女装もとい変装の仕方を覚えるしかなかった。今回だけではなく次もまたある時のためにと言われて、嫌がるような声も上がったが、新人のうちは何でも経験を積むのが大事なのはわかっている。
先ほどの囮捜査の手順とは勝手が違う「覚える」事に、皆が四苦八苦していた。
しかしヴィオーラもその助手たちも、教えるのが上手いのか新人騎士達の化粧は段々と様になっていく。
肌に合った色の下地に白粉。
眉を整え、紅を唇に引き、人によっては頬紅で血色と顔の印象を変える。
カツラやつけ毛で男性的な部分を隠す。
髪型で更に別人に変わっていく。
一通りの手順が終わる頃には、そこには違和感がある人間は一人もいなかった。
みんなどこをどう見ても、女性にしか見えない。
リーヴィも、自分には可愛らしすぎてちぐはぐだとしか思えなかった衣装が、化粧と、組み紐を編み込んだ緩やかな長い三つ編みの付け毛をつけることによって、違和感のない仕上がりとなっている。
ヴィオーラの見立ては、それを見込んだものだったのだろう。
そして、隣に座っていた任務の相棒であるクライブは、それ以上の仕上がりだった。
真紅のドレスが似合う、黒猫のような美少女がそこにはいた。
癖っ毛の長い黒髪をサイドで組み紐で束ねているので、尚更猫の耳を連想させてしまう。
リーヴィの服よりフリルが多いのと、スカートが広がるようなデザインは体型を隠す為だが、それが似合っていた。
化粧も実年齢より若くみえるように顔を作ったのか、少女が着る甘めのデザインでも違和感がない。ヴィオーラが特別に準備したと言うのも納得の出来だ。




