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「私の名前は、ジサリオ=ソル。
ワイト緑団長の息子よ。
この姿の時は、ヴィオーラって呼んでねぇ」
くるりとドレスを翻し、ウィンクをして人差し指を口元に立て決めポーズを取る。その姿は菫の花という素敵な響を、自ら名乗るのも納得の可憐な美女だ。決して、息子には見えない姿。
「ヴィオーラ、さん?」
ーーワイト団長にこんな大きなお子さんが!!
リーヴィは驚きのあまり目をまあるくさせる。
結婚しているのは噂話で聞いていた。
一体どんな奥さんなのかと、盛り上がっていた新人達の噂話。その時ちらっとお子さんがいることも聞いていたが、なんとなく幼子で想像していた。
化粧をしていても少しあどけなさが残る顔は二十代、いや十代後半。まさか自分と同じぐらい、むしろ上ぐらいの年代だとは思っても見なかった。
その理由は、ワイト団長の容姿は好みの差はあれど、ほとんどの人間が「顔だけはいい」と認めざるをえない容姿をしている。その穏やかそうに見える甘い顔は、年齢を感じさせない顔だった。
そのためにリーヴィの認識では、団長は実年齢よりもかなり若く感じていた。
……よく考えれば団長という立場上、そんなに若いはずはないのに。
「うふふ、うちのパパああ見えても、もう四十超えているからぁ〜」
「うちの父と同じぐらいなんですよね……」
リーヴィは故郷にいる父親の顔を思い浮かべる。
父親も村の同年代からすれば若い方だった。しかし想像で2人を並べてみれば、ワイト団長は明らかに年下のように見える。年齢不詳さだ。
「全然ワイト団長のお子さんだとわかりませんでした。すいません気がつかずに。こんなに似ているのに」
「ふふ、この姿だと母親似って言われるの」
「笑い顔とか、団長にそっくりですよ」
そうリーヴィが言うと、ヴィオーラは目を嬉しそうに細める。
その様子に仲がとてもいいんだな、と家族仲がうかがえた。
「そういえば、貴女……パパは……」
「おい! いい加減にしろ、ジサリオ」
ヴィオーラが何かを言いかけた途端、クライブがイライラした声で話をかぶせるように遮る。
「ああ、そうねぇ。お仕事中だったわぁ。いいリアクションしてくれるからついつい話込んじゃって……ヴィオーラ反省ぃ」
そんなクライブの不機嫌さも、大きく瞬きをしたぐらいで特に気にした様子がないように、ヴィオーラはおちゃらけてそう言う。クライブが不機嫌なのもヴィオーラにとっていつもの事のようだ。
「では、お話の続きはぁー仕事が終わってから……今度、ゆうっっくりといたしましょうねぇ」
「ゆっくり」を強調して言う声は甘ったるく、何か含みがあるようだった。
けれど艶やかに微笑まれる顔は、どう見てもワイト団長女性バージョン。
そっちの印象に気を取られてしまう。
初めて見た時はピンときていなかったのに、団長の息子さんだと知ってしまうと、リーヴィにはもうそうとしか見えなくなってしまっていた。
「仕事中に特別扱いは、ダメですものね」
一瞬、低い声が聞こえたのは聞き間違いか。
ヴィオーラは話を打ち切る合図にように優雅に一礼すると、助手達に指示を出すのを再開し始める。慌ただしく、助手の女性に話しかけに行ってしまった。
リーヴィにも似合う服はちゃんとあったらしく、指示を出された助手の女性から無事に服を渡される。それは黄緑色を基調とした可愛らしい洋服だった。クライブのものと形が違っているのは、リーヴィの性別が女性だからだろう。……つまり、体型をカバーする必要がない。
祭りの時にフレデリカに借りたドレスより普段着に近い。フレデリカに借りたドレスは、持ち主に似合うスッキリとした形だったから抵抗は少なく着れたのに比べ。今回貸与されたこちらはだいぶフリルが付いていたり、花刺繍がされていたりと、可愛らしさがある。
リーヴィは着こなせるか心配になってきた。
「社交辞令だとは思うが、気をつけろ。アイツに関わるとロクなことにはならない」
「そうなんですか?」
リーヴィはヴィオーラの姿が、声が聞こえない程遠くなった途端、クライブにそう忠告された。
そうは思えなかったのでピンとこなかった。
逆に初対面なはずなのに、まるで昔からの知り合いのようにとても気さくな態度だった。素直な感想を口にすると。
「本当にお前は……俺がせっかく忠告してやっているのに」
クライブは、自分に渡された真紅のドレスを嫌そうに持ちながら呆れたような表情だ。
「あいつが、何も理由がないのにこんなに愛想よくするわけがない」
「確かに、ワイト団長にはこちらがお世話になってる立場ですよね」
今回の任務に推薦されたといえ、団長の中のリーヴィへの評価は高く無いはずだ。
逆に父親の不出来な部下というポジションだ。
なら、印象は悪いのは仕方がなく、冷たい態度を取られる方がしっくりする。
好意的な態度を取られるなんて、首をかしげるのも確かだった。
「それは、もしかして。ご友人のクライブ様が、一緒にいたからではないですか?」
「お、お前っ! 俺とあいつが友人に見えるのか……」
心底嫌そうに金の瞳を細める。
どうやらクライブからすると、全然違うらしい。
ヴィオーラではなく、ジサリオと本名で呼んで。そして呼ばれても気にしない関係。見るからに仲がいいようにしか見えない。
あのオルファトッカータ家の双子と同じような感じだったから、つい。
でもこれを言ったら、リーヴィはますますクライブを怒らせてしまうことに気がついて言わなかった。
ーーでも本当に、そんな風に思えないんだけどなぁ。
リーヴィは顔に出ていたのだろう。
「俺は忠告した、どうなっても知らんぞ」
クライブは呆れながら、もうこの話は終わりだと言わんばかりに、ドレスを着るために姿見が設置されている場所へと早足で向かった。




