22ーⅡ
「綺麗な人ですね、あんな人騎士には……居ない、ですよね?」
「おい、騙されるな。お前の眼は本当に節穴だな」
順番待ちの短い時間の中、クライブに話しかけると、彼はとても警戒していた。先ほどの女装を言い渡される前のように、まるで毛を逆立てた猫のように女性を見ている。
リーヴィはクライブの忠告の意味が分らなくて、首をかしげた。「騙されるな」とは一体何に対して言っているのか、全く見当がつかない。
「本当に分らないのか?!」
小声だがはっきりとクライブがイライラとしているのが分かる。そこまで言われて、女性をじっと不躾に見つめているうちに、列がどんどん消化されていく。そろそろ自分たちの番になりそうな近くで、その女性を見ると、何か違和感があった。
しばらくすると、その正体がわかる。
それは指示をだしている指だ。
長く美しい指。
爪に施された装飾に気を取られて気がつかなかったが、女性にはあり得ない節があり、ごつさがあり……うっすらと剣ダコもある。
それ以外は全く悟らせない完璧な美女だ。
もし手袋をしていたら、気が付かなかっただろう些細な特徴。
一番わかりやすいのは喉仏だろうが、着ているドレスは立ち襟。それだけでも首が目立たないのに。その中の首には異素材の布地で、スカーフを巻いてるようにゆったりとしたリボンの結び目をつける。ボリュームでそこを完璧に隠していた。リーヴィは知らなかったが今季流行のデザインだ。
「……もしかして、男の人……なんですか?」
ご令嬢……ではなくて、ご子息だった!?
「そうなのよん」
内容が内容なだけに驚きながらも小声でクライブに言った言葉は、バッチリと本人に聞こえていたらしい。
時間が惜しいかのごとく、他の新人騎士には見るなりドレスの指示しかしていなかった、美女? は気にしていないように友好的に話しかけてくる。語尾にハートマークがつきそうな甘ったるい喋り方が、好みの差はあるかもしれないが、本当に男の人とは思えない程艶やかで美しい声だった。
面白そうにこちらを見ている表情は、近くで見てもリーヴィには女性にしか見えない。
「お久しぶりですね、クライブ様?」
「…………ああ」
「本当にクライブ様にはぁ。一度、うちのドレスを着ていただきたかったので。今回のお仕事は楽しく受けさせてもらいましたわぁ」
――クライブが、不機嫌全開になっているのも無理はなかった。
「はっ、女装なんて、普通の男がやればぎこちなくなるものだろ?」
「うふふ、安心してくださいませ。それが私の匠としての腕の見せ所ですのでぇ」
まだ女装することに、完全には納得していないのだろう。
不機嫌さを全く隠さなくなって「普通の男」に力を入れて言うクライブ。
どう見ても他の騎士とは違って、彼自身の為だけに、特別に用意したと思われる真紅のドレスを美女は渡す。クライブはしぶしぶと言った体で受け取った。その様子に目の前の美女は、満足そうに美しく微笑む。
「そして、貴女が……。リーヴィ=ベルツ?」
女性はクライブに向けていた表情を引き締める。
手に持っていた名簿に書かれた名前と、リーヴィを交互に見ていた。
「は、はいっ! 初めまして。よろしくお願いします」
そう答えると、女性はじっとつま先から頭の先まで見つめてきた。
貸与してくれるドレスの色味とサイズを、一目で言い当てる目の前の人物の視線。それがずいぶん長い事に、リーヴィは緊張した。
――まさか、私に「似合うドレスは無い」とか言われちゃうんだろうか。
と、不安に思っている間に、美女がぐっと距離を詰めてくる。
その手がリーヴィの頬にかかった髪に伸びて触れると思った瞬間。
その間に、視線を遮るかのように割って入ったクライブが立ちふさがる。
「お前、一体何のつもりだ?」
「うふふ、やだっ! そんなにマジになって睨まないのぉ。彼女には本当に……ウチのパパがお世話になってるからじっくり見ておこうと思ってぇ」
「?」
父親?
リーヴィは、この美しい女性……もとい、女装した男性の父親が想像できない。
そんな事を言われるような人が、周りにも思い浮かばない。
「本当に何にも知らない奴だな」
「ふふ、いつも団長のパパがお世話になってますぅ!」
美女は印象的な鳶色の瞳を輝かせて、にっこりとほほ笑んだ。
リーヴィがいつもお世話になっている団長の父親……というと。
当てはまるのは、一人しかいない。
その微笑み方は、ワイト団長にそっくりだった。




