09-Ⅱ
「えーっと? ヘーゼル様? グレンデル様?」
「い、いや……ほ、ほんっとクライブ君の事は気にしなくていいから、うん」
「そうそう、気にせずサルキオス副長のところ言っていいから、うん」
「……っ!!
べ、別に何でもないっ、ベルツ!!!」
ヘーゼルとグレンデルがそれぞれリーヴィにフォローを入れた途端、クライブは見る間に真っ赤になって怒り出す。リーヴィには理由は分からないけれども、長く付き合っている者同士だけに通じる「何か」だということは理解できた。それでいつも二人にからかわれて赤くなっているパターンをよく見ていたので、思ってはいけないのだろうけれど、リーヴィにはその様子が兄弟によくある戯れあいのほほえましい光景に見えていた。
からかわれている対象のクライブとしては、たまったものではないだろうけれど。
「えーっと、クライブ様はサルキオス副長にお会いしましたか?」
クライブに助け舟……という感じで、リーヴィはサルキオスの話題を振ってみた。
話し始めれば、双子もクライブをからかうのは控えるだろう。それに、今日のサルキオス様の状態も知りたかったリーヴィ。
「あ、ああ。今なら執務室におられると思う。早く書類をもって行けばいい」
「そ、そうですか、今いらっしゃいますか……」
外出していてくれてないかな……。
なんていう淡い期待が少しあったのに、その期待はあっさりと潰されてしまった。
外出されていたらされていたで、今手に持っている重要書類の扱いが、大変だとは思うけれど。
「ご様子にお変わりはなかったでしょうか?」
「? 特になかったと思うが」
「あれ、そんな事を聞くなんて、サルキオス副長となにかあったのかい?」
「い、いいえっ! 特にこれと言って!」
ヘーゼルに尋ねられて、リーヴィは動揺して思いっきり否定してしまった。
……これは何かあったのだろうな。
という微妙な表情に、双子は顔を見合わせてシンクロする。
「どうせ、ベルツ。お前の事だから何かサルキオス副長の前で失敗したのだろ?」
「え、あ……そ、そんな所です」
呆れたようにそう、予想するクライブ。
当たらずとも遠からず。
その予想に、嘘のつけないリーヴィは、素直に頷いてしまう。
「だったら、すぐに謝罪してくるといい。サルキオス副長はそんな器の小さい方ではない」
何だか誇らしそうにそう言うクライブ。
リーヴィと出会った頃から彼は、サルキオス様の事を尊敬している様子が伺えた。
「そ、そうですね……」
もう、謝るとか悪いとか……そういう気持ちよりも。
お昼時にヒルデから花冠を分けると言う行為の意味を聞いてから、自分の気持ちでいっぱいいっぱいなだけだった。『恥ずかしい』という気持ちに支配されていて、サルキオス様相手にどんな顔をしていいかわからない、会いたくないと思ってしまったリーヴィ。
でも、サルキオス様に謝る事が先……だよね。
クライブに言われるまで、そんな事がすっかり抜け落ちてしまっていた。
そうだ、クライブ様の言うとおり、謝れば……許してくれる人だと思う、多分。
ううん、許してもらえなくても正直に言うべきなんだと。
「あ、ありがとうございます! クライブ様」
リーヴィは吹っ切れたような顔で笑った。
その笑顔は、クライブに感謝の気持ちがとてもこもっている。その笑顔を向けられた当の本人は、眉をひそめると、怒ったような何か言いたいのを我慢しているような顔になってまくし立てた。
「な、なら早く行くんだな! くれぐれもサルキオス副長に迷惑を掛けないように」
「は、はい!! そ、それでは失礼します!」
「「じゃあまた、ね」」
リーヴィは不機嫌なクライブと、にこやかに手を振っている双子に慌てて退出のお辞儀をすると、サルキオスの部屋に続く廊下を迷いなく歩いた。
――善は急げ!
一刻でも早くサルキオス様に謝りたい。
足取りは先ほどと打って変わって軽やかで……あっという間にサルキオスの部屋の前にたどり着く。勢いのまま、ドアをノックすると重厚な作りのドアは、重みのあるいい音を立てた。
「緑の騎士団所属、リーヴィ=ベルツです。ワイト団長からの書類をお持ちしました!」
「……どうぞ、入ってください」
ドア越しだからか、少しくぐもった低い声が聴こえてくる。
リーヴィはその声に……少し躊躇ってから、扉のノブに手をかけ……覚悟を決めた。
「失礼します……」




