09-Ⅲ クライブ視点
「あーあ、残念だったねぇ。クライブ君」
「そうだね。団が違うから中々会えないリーヴィちゃんに会えたのに……短かい邂逅だったね」
「お前ら、いい加減にしろ!! 別にそんなんじゃないと、何度言えば気が済むんだ」
「「……だって、可愛いんだもの」」
「はっ! あんな平凡な女が可愛いだなんて、お前達の目は節穴だな」
「ヴィーももちろん可愛いけど」
「僕達の言ってるのは、クライブ、君のことだよ」
「だ、だから、ふざけるのもいい加減にしろっ!!!」
リーヴィが慌てて三人の前からいなくなった後。
クライブはにやにやしている合わせ鏡のような双子に、真っ赤になりながら毛を逆立てた子猫のように怒鳴っていた。
廊下には人影がないので容赦のない声だったが、それでもこの双子には自分の怒りはひとつも通じてない事を、クライブは十分気がついている。
それが証拠にこだまのように、二人のクスクス笑いは止まらない。
――この年上の従兄弟達は昔からそうだ。
こっちが本気で怒っていても、笑顔で受け流す。
クライブのグラントルスラー家と、双子のオルファトッカータ家は親戚で、幼い頃から長い付き合いだ。
家筋としては、クライブの方が主家ではあるが、そんな事お構いなしに双子はクライブで容赦なく猫がねずみを弄ぶかのように遊ぶ。……うまく急所を避けながら。
人はクライブをとても不本意だが――猫のようだと言うが。
こいつらの方が、猫らしいと常々思っている。
先ほどはお気に入りのリーヴィ=ベルツがいたから、双子はまだ猫をかぶっていた。
人目がなくなればたちまち、抑えはきかなくなるだろう。
ベルツと言えば、この双子と同じようにクライブにとっては、癇に障る人間の一人である。それなのにこの双子達は、クライブがこの女に……言葉にするのも苛ただしいが“特別な何か”を感じていると思い込んでいるのだから始末に負えない。
「ただ、俺はアイツが馬鹿だから構ってやってるだけだ!!」
クライブは思う。
あの、リーヴィ=ベルツという女。嫌味を言っても通じないほどの愚鈍さ!!
そうだ、俺はアイツが身分もない平民の癖に。
普段はのほほんとしてる癖に。
「……」なのが気に食わないだけ。
『……』と主語を心の中でも言えないのは、クライブの精一杯な意地だった。
「さ、早く蒼の騎士団に帰って、ギェニス団長に報告をしに行くぞ!」
「本当に素直じゃない所が可愛いね、僕らのクライブ君は!」
「素直じゃなさ過ぎるのは、みすみす幸せの青い鳥を逃してしまいそうなものだけど……まぁそこが可愛いんだよね」
うんうん、と向かい合って頷きあってる双子。
どちらがどっちを喋っているのかなんて、クライブは気にしない。
どうせ同じ余計なお世話な内容だ。
これがこいつらの愛情表現だというのなら。
暑い、暑苦しすぎる。
きっとこいつらは生き物を構い殺してしまうタイプだ。
絶対。
と、心の中で毒づく。
「あ! そういえばヴィーには詳しく言うの忘れてたけど……よかったのかな?」
先頭のクライブが、帰ろうと正門へ足を向けると、ヘーゼルが思い出したとばかりに呟く。
「あぁ、そういえばそうだったね。サルキオス副長があんな事聞くなんて珍しいといえば珍しいしね。でも『ご様子』はいつもと変わらずだったかったからいいんじゃないかな」
「ベルツには関係ないだろう、あれは」
サルキオス様に質問されたことを頭の中で思い返して、クライブはそう結論付ける。
クライブのその言葉に「それもそうだね」と、ヘーゼルは納得した言葉で締めくくったのだった。




