08-Ⅱ
――リーヴィは自分でもまだ整理できてない、その気持ちを言えなくて。
「ほんと、そうじゃなくてっ。えーっとサルキオス様って、確か貴族だったから……?」
その件に関しては、深くはつっこんで聞いて欲しくはなくて。
誤魔化すことにしたリーヴィがそう言うと、ヒルデはとたんに興味を失ったようだ。リーヴィから離れると、ベンチに座り直す。
「あら、私だって金持ちだったら誰でもいいって訳じゃないわよ?」
そういって言葉を切った後、ヒルデは容赦なく言い捨てた。
「だってつまんなさそうじゃん、ああいうタイプって」
「そ、そうかな?」
この前のサルキオス様との出会いで、怖いとは少し思ったけれど。
だからといって「つまらない」というのとはちょっと違ったので、リーヴィは首を傾げる。
「そうよ、仕事だといいけど。
プライベートじゃ見るからに、何しゃべっていいか分からないタイプって感じ?
むしろ何しゃべって生きてるんだろうって、逆に興味湧くけど」
「確かに、何を話していいかわからない感じは……するよね」
明らかに厳しそうな外見。
冷たい声音。
そしてそれを裏切らない仕事への厳しい態度。
今までのサルキオスに感じていたイメージで、ヒルデの言葉に納得しかけるリーヴィ。
でも……あれ?
あの時普通に会話してた、よね?
サルキオス様との一件を思い出し、会話できたというか……。
自分の負い目を差し引いたら、そんなの気にならなかった事にリーヴィは気がつく。何も意識してない時はむしろ、話しやすかったぐらいだ。
――でも、サルキオス様の癖なのだろうか?
人をじっと見つめるときのあの視線。
あの視線を受けると、どうしていいか分からなくて、落ち着かなくなってしまう。だからやめて欲しいとは思ってしまうけど。
リーヴィがそう色々と考え込んでいる間に。
「ま、サルキオス副長の事は興味ないから、どーでもいいんだけど。そうそうそれよりもメテルの神輿見た?」
元々サルキオス様に興味がないヒルデは、話題をあっさりと変えた。
「うん。私、初めて見たんだけど綺麗だった!」
話題が変わったとしても、やっぱりサルキオス様を思い出す話題で。サルキオス様との出来事は意識的に伏せてリーヴィは祭りの感想を言う。
「花びらあんなに撒くんだね、空気がオレンジ色にそまって……」
そう言いながら思い出すのは、花びらの嵐。
その中で見た……淡い翡翠の瞳。
わ、私ってばまた何考えてるの!!
映像が頭に浮かんでは、それを追い出すようにリーヴィは頭を思い切り振った。
やっぱりあの瞳は、心臓に悪い。
「あ、リーヴィって初めて見たんだ! アレ本当にロマンチックだよね。ムード満点っていうかー」
「メテルの神子様も綺麗な人だった、よね!?」
サルキオス様の事を振り切るように……。
不自然に近い口調で「ムード満点」という単語から引き離したくて、メテルの神子様の話題に触れるリーヴィ。
しかし、その努力は無駄だった。
それどころか、祭りの話題を振った事自体。
比喩ではなく頭を抱えるほど後悔する事になる、衝撃的な言葉がヒルデの口から漏れる。
「ふふっ! 来年こそは、素敵な彼をゲットしてメテルの神子の花冠をゲットしなきゃね~。そして花冠を分け合う仲になるのが理想だわ~!! ま、今年は狙わなくって済んだんだけどねー」
「?」
「本当に、リーヴィだって来年こそはフレデリカなんかと一緒に行かないで、彼氏作って見に行きなさいよ! まぁ花冠をゲットは譲れないけど」
「……え?」
いま、ちょっと引っかかる言葉をヒルデが言ったような気がする。
確か、『花冠を分け合う仲』と『彼氏』という単語。
それが何で並ぶんだろう?
リーヴィの頭のすみがチリチリとする。
少し、いや、かなり嫌な予感。
でも聞かずにはいられない、疑問。
「あの、ヒルデ、ちょっと聞いていいかな?」
「え、なに? リーヴィ」
「えーっと。あのメテルの神子様の花冠って、何か特別なジンクスでもあるの?」
「やだー知らないの? あ、そうかリーヴィって王都出身じゃなかったんだっけ。フレデリカに聞かなかったの? ……ってああ、あの子なら興味なさそうだし話題にも出さないか~」
リーヴィの質問は、本当に誰でも知ってるようなものらしい。
質問されて、ヒルデはとても驚いた顔をして、そして一人で納得し一気に話始めた。
「えーっとね、まぁメテルの神子が身に着けてる花冠と花輪には、ラスキン産のカラムの花でも珍しい白っぽい色の花が使われてるんだけど、その花は突然変異でね、他の花より日持ちが長いんだって。
で、その白い花の花言葉は『永遠』なの。
それで初めは、縁起がいいってことで幸運のお守りって感じだったんだけど……。
ある時、この花輪を使ってプロポーズした恋人達がいたらしくって、それからいつの間にか恋人達のアイテムみたいになったみたいでー。
しかも花冠だけが二重だから、その花冠をひとつにして分け合うと、二人は永遠に結ばれるって言う感じになったんだよね~。
ロマンチックなジンクスだよね……あ、でも幸運のお守りだってことには変わりないっちゃー変わりないけど、でも夢があるーっ」
知らないって事は、本当に凄い事だった。
出来るならあの頃に戻って無知な自分から、花冠を奪い取りたいぐらいに……。
リーヴィの記憶が、フラッシュバックする。
花冠を渡そうとした時、冷たい目を向けて言われた。
『私は興味がありませんから』
そして、二つの環を分けて渡そうとした時、サルキオス様はひるんだ表情を見せた。
受け取るのを、とっても渋っていた。
あれが遠慮からくる行動でなかったとしたら――。
……確か、サルキオス様って王都出身だって言ってたような。
花冠を受け取る時の様子といい、サルキオス様絶対この事知ってた!!??
こういう若い女性が好みそうな恋愛事情にはあまり興味がなさそうなので、「知らないかも?」という淡い期待をことごとく打ち砕く、思い出せば思い出すほどそう考えると納得ができるサルキオス様がとった態度に、リーヴィはどうしていいか分からなくなる。
フレデリカもリーヴィが腰に下げていた花冠を見ただろうけど、何も言わなかったのは体調が悪かったから気が付かなかったのか、それとも興味がないからなのか。
「あ、そうそう、夕の通りにラサム村の露天が出てたんだけど、組み紐買った? 流行ってるよね!」
「え、あ、うん。買ったんだけど。そういえば落としたみたいで……」
ヒルデの言葉に答えながらも、リーヴィは上の空。
知らなかったとはいえ、大胆な行動。
サルキオス様に花冠を渡してしまった事ばかりを考えてしまうのだった。




