08-Ⅰ
午前中の巡回が長引き、リーヴィは緑の騎士団内にある食堂で、遅い昼食を食べようとしていた。
するとそこに、会うのは実に四日ぶり、同じ新人女性騎士のヒルデがやって来た。
騎士は団ごとに区切られているが、団の中でも隊で細かく区切られている。
隊ごとの巡回や業務訓練時間が合わない場合は、同じ緑の騎士団所属といっても、何日も顔を合わせない事は当たり前だった。そんな中でも女性騎士は男性騎士より少ないので、会う機会が少ないながらも自然と女性同士仲良くなる。
女性の入団は、この国初の女性騎士が現れてから、特に制限されている訳でもないというのに少ない。
理由は、王と民を剣となり盾となり守る騎士としての受験資格に「剣技」があるからだ。
比較的平和なこの国では女性が日常的に剣を振るうことは少なく、それも入団基準に達するレベルというと、女性騎士が少なくなることは当然の成り行きだった。その入団試験に合格しても、男性と同じ程の隊務が待っている。入ってからも自然とふるい落とされるのは仕方のない事だ。
リーヴィの父親は騎士団引退後にカヒュー村で、自警団の隊長をしていたので、一緒に剣を振るうことが多く。大好きな父親に褒めてもらえるならと、次第に腕も上がっていたので。剣の腕前は実技試験程度なら簡単にパスするレベルだった。
ヒルデは華奢な黒髪美少女で、女性というだけではなくても目立つ存在だ。
しかし、この入団規則をくぐり抜けてきたのだから、その外見に騙されて侮ってはいけない。
「あら? リーヴィも今から食事?」
「うん、巡回が長引いちゃって。ヒルデも?」
「そうよ、も~最悪。この前の祭り中に盗賊団がつかまったって言うのにさ、見回り強化なんてマジでついてないよね」
「まぁ、残党は残ってないって事だったけど。念には念をって事みたいだし」
ヒルデは見事な黒髪をいじりながら、愚痴を吐く。
もし見ているものがいたら、そんな姿もため息を吐きたくなるような絵になる姿。
しかしその言葉遣いは、イマドキ女子という感じで軽くて悪い。
リーヴィの住む村にはそんな言葉遣いをする人間はあまり居なかったので、最初面食らった。そんな第一印象とは反対に、ヒルデは話してみると意外と話しやすく気さくな相手だった。時折、ヒルデの話はとある方向に暴走するのだけが唯一の慣れない点だ。
そんな愚痴に相槌を打ちながら、リーヴィは食堂のおばちゃん日替わり特製ランチに手をつけた。今日はリーヴィの好物の鶏肉の香草焼きに、クルミパンという大当たりのメニューだ。緑の騎士団の食堂の味はかなりレベルが高く、キツイ午後も乗り切れるとのもっぱらの評判だった。
食堂は通常の昼食時間を過ぎていて、席はほとんど空いていたが、ヒルデは当たり前のようにリーヴィの隣の席に座る。
「そういえば、ヒルデ。お祭りはどうだったの?」
実はヒルデのお祭りにかける情熱が痛いほど伝わり、その気力に当てられてフレデリカに頼んでドレスまで着てしまったリーヴィ。
しかし対するヒルデの回答は、冷めたものだった。
「……私の事は聞かないで、もう駄目だったよあんな男」
「デート上手くいかなかったんだ」
「超、最悪~~。二度と会いたくないっていうか、記憶から抹消したいわよー、ていうか、する」
デートの相手は確か蒼の騎士団員だったはず……。
リーヴィは少し年上で結構カッコいい人だったなぁと、顔を思い浮かべた。
でも、ヒルデの態度で、何があったのか詳しく聞くのもためらわれる。
「もう次、次の男捜す~。はぁ、やっぱり玉の輿になるための道のりは長いわ」
「う、うん。頑張って」
「ありがとう~~リーヴィ!」
ヒルデは机につっぷすと、機嫌の悪い顔から一転、すぐに気を取り直したように笑顔になった。
立ち直りが早いって素晴らしい。
常々、ヒルデは冗談とも本気とも取れない口調で、騎士団内で目指せ玉の輿と言っている。
でも団の業務となると、規律を乱す事も無く一転慎重になるところと、すでに団則……団の決まりごとを全て暗記している所など見習うべき所が多く、仕事とプライベートの区別はきっちりと付いていた。
そんなヒルデの性格は「やるべきことをやり、仕事が出来るなら必要最低限人格は問わない」という団長のポリシーとうまい具合に合い、緑の騎士団に所属された事を知るものは少ない。
未だに頑張っても、団則も半分ほどの暗記率。
なおかつ仕事に一杯一杯で、恋愛にまで縁がないリーヴィ。
仕事にも燃え恋愛にも全力投球なヒルデを、少しだけ羨ましく思っている。
「やっぱり若い男って駄目よね。やっぱり最終目標は、聖の騎士レベルじゃないと!
ヨネス団長だったらちょっと身分が低いけど、将来有望で文句ないかしら?!
実家って、あの有名なワインの産地一のワイナリーなんだってー。
あ! でもサルキオス副長はパスかな~」
「え?」
リーヴィの手が止まる。
立ち直ったヒルデの口から、思いもかけず突然サルキオス様の名前が出たので、リーヴィはつい過剰に反応してしまった。明らかに狼狽しているリーヴィの様子に、ヒルデの瞳が光った……ような気がする。
「やだ、リーヴィったら。ああいうのがお好み?」
「え? そ、そういうわけじゃないけどっ……」
「おやおや、やはりタイプですかぁ?」
声を潜めてヒルデは、じりじりとベンチを伝って、リーヴィに体を寄せてきた。
その顔には、明らかに好奇心の色が見える。
ヒルデの唯一の慣れない点。
――それは、恋愛話には無駄にテンションが上がる事だった。




