06-Ⅱ
自分の去った後、サルキオス様とヨネス団長にまさかそんな会話をされているとは、露ほど思ってもいなかったリーヴィはまとわりつくドレスの裾を捌きながら、人の流れに逆らって必死に走っていた。
人ごみの中でもひときわ輝く銀の髪の人物に、声が届きそうな程の距離に近づくと、叫ぶ。
「フレデリカ――――ッ!!」
「リーヴィ!? よかった!」
銀の髪が大きく揺れて振り向く。
突然のリーヴィの叫びに、周りの人間にも何事かと振り向かれて、気まずくなるが……リーヴィを見つけて安堵したようなフレデリカの空色の瞳に、それ以上にリーヴィの心もほっとした。
「ご、ごめんね。フレデリカッ!!」
「私の方こそすまない……探しただろう? 顔が凄く赤い。走ってきたのか?」
「えっ……そうかな? さっき向こうの方から、フレデリカを見つけて走ってきたんだけど」
そう息を整えながら、サルキオス様と一緒にいた屋上の建物を指差す。
上からはあれだけ広場が見渡せたのに、下から見上げると生垣に阻まれて、屋上に人が居るようには見えなかった。
――サルキオス様も、もう帰ったのかな?
一瞬、サルキオス様の事を考えて……。
笑顔は見間違い、だよね。
でも……。
先ほどの貴婦人扱いの騎士の礼と、柔らかな表情を思い出し、何故か心臓が落ち着かなくなる。
村でもお転婆で通っていたので、ドキドキするのは珍しく女性扱いされたから……と自分に言い聞かせた。
「メテル様の神輿が見たいと言っていたから、ここに探しに来て本当に良かった」
「ご、ごめんごめんね。フレデリカ……私がはぐれたばっかりに」
「いや、私が悪いんだ。実ははぐれた時、途中でスリを見つけて……」
「え、スリ?!」
「そちらを追いかけてしまったんだ……本当にすまない」
すまなそうにリーヴィを見つめる瞳。
とても反省しているフレデリカにリーヴィは笑って言った。
「う、ううん。いいんだよ。私だってそんなの見たら追いかけてたはずだし、元はといえば私がフレデリカの傍にいなかったのがいけなかったんだから」
どおりで今まで、周辺を探してもフレデリカに会えなかった訳だ。
リーヴィはその理由に納得する。
「それにしても、大丈夫だったの?」
「え、ああ……その事は心配ない。きちんとしてるだろう」
「え?」
「いや、大丈夫だ、本当に……。捕まえた後処理は、中継所の騎士に頼んできたから」
「それもだけど……怪我とかは?」
リーヴィが心配したのは、スリへの事後処理ではなく、フレデリカの体調。
見た感じは、フレデリカに怪我は無いように見えるけれど……顔色が良くないように見える。
リーヴィは心配になって尋ねた。
「無い。たいした相手ではなかったから」
「そう……なら良かったぁ」
「私もそうそう、ヴェインの世話になる訳にはいかないからな」
こういう時に自然とヴェイン様の名前が出てくるって所が、ヴェイン様の事を信用して頼っている……絆が感じられて幼馴染っていいなぁとリーヴィは思う。
ヴェイン様ならフレデリカが怪我したら、心配で動転しながらも心を込めて癒しの魔法を使いそう。
むしろ迷惑をかけて……頼られるのが嬉しいって感じ? というか。
リーヴィはそれほど二人とも長い時間の付き合いではないが、人のいいニコニコ神官様のリアクションは容易に想像できた。
「どうした?」
「ううん。ね、これからどうする?」
「リーヴィはどうしたい? 私は少し疲れてしまって……少し店に入って休みたい」
……やっぱり少し無理してたんだ。
メテルの神輿の後は小休止。この後もまだまだ夜まで祭りは続く。
リーヴィがこの収穫祭を見る事を、楽しみにしている事をフレデリカは分っていて、気を遣ってくれたらしい。いくらフレデリカがリーヴィより段違いに優秀だとしても、リーヴィと同じ新人である事には変わりないから、模擬戦とは違いなれない実戦は思ったよりも疲労したはずだ。
きっとスリを追いかけて、気を張り詰めてたのが解けたんだろうな。
「顔色がさっきから少しよくないよ? 家に帰って休んだ方がいいよフレデリカ。スリの詳しい話は今度ゆっくり聞かせてもらうから……」
「でも、あまり祭りを楽しめなかっただろう?」
「大丈夫、一番見たかったメテル様の神輿は見れたし。実は私も慣れない靴の所為か、足が痛くって」
そう言って、リーヴィは走った所為で、またじわじわと痛み出してきた足を見せる。
本当はそんなにたいした事はないけれど、フレデリカに帰って休んでもらう事の方が大事だった。
「じゃ、馬車が出る通りまでいこっか、フレデリカ」
「……あぁ、有難う」
すまなそうに微笑むフレデリカは、疲労の影が濃い。
リーヴィは気にしないでと、馬車が拾える通りまで腕を組んで引っ張っていく。
オレンジ色に染まる町を見ながら……今日一日の出来事を振り返り。
サルキオス様とヨネス団長に出会った事。
迷子のパナス君はお母さんが無事見つかって、よかったとか。
その後のサルキオス様とのメテル様の神輿見物。
その思いでを残す、腰の横に結びつけている大事な花冠。
思いもかけなかった人物との出来事が、一番の思い出になってしまったリーヴィ。
サルキオス様の事を考えると、少しドキドキしながら……少し恥ずかしいような。
そんなこそばゆい感情をいだいてしまう。
こうして、リーヴィ初の収穫祭は終わったのだった。




