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不都合な真実

「パーン!」「パンッ!」「キュッキュッ」

「放課後の体育館。シャトルを弾く高い音と、シューズが床と擦れ合う摩擦音が重なって響き渡る。

「それにしても、すごい迫力だな」

卓人は目まぐるしく行き交うシャトルを視線で追いかけながら、隣の初音に話しかけた。


「うん。バドミントンって、パッと見の印象よりずっとハードなスポーツだからね」

「あそこまで機敏に動くのって、やっぱり子供の頃からやってないと無理じゃない?」

「そんなことないよ。ちゃんと練習を重ねれば、誰だってできるようになると思うな」

体育館の片隅で、二人は声を潜めて言葉を交わしていた。

そこに三面並んだコートの最も奥から、シャトルを追いかけていた男女がこちらに向かって歩いてきた。

二人は卓人たちの前で足を止めると、汗を拭いながら親しみやすい笑みを浮かべる。


「さっそく来てくれてありがとう。キャプテンを務めている、三年・斎藤です」

「副キャプテンで、同じく三年の藤島です。よろしく」

ショートヘアが映える清楚な美人の斎藤に、高身長で柔和な雰囲気をまとった藤島。タイプの異なる二人の先輩を前にして、場に少し緊張感が漂う。


「日下部卓人(くさかべ たくと)です」

「柏原初音(かしわばら はつね)です」

互いに自己紹介を済ませたところで、卓人は最初から入部するつもりはない、というスタンスを先に明かした。

「見学だけでもいいと伺っていたのですが、その前提で問題ありませんか?」

すると斎藤は、取り繕うことのない率直な口調で返した。

「初音にはそう伝えてあったんだけど、でも本音を言えば、二人ともぜひ入部してほしいの」

話が違う、と初音は胸の内で焦りつつも、それ以上に隣の卓人がどう感じているかが気になって仕方がなかった。


「……少し、お伺いしてもいいでしょうか?」

卓人が、一歩踏み込んだトーンで問いを重ねる。

「ええ、何でも聞いて」

「僕はバドミントンの経験がありません。全くの初心者なのですが……」

「うちは初心者歓迎の部活だから、そこは気にしなくて大丈夫だよ」

斎藤は卓人の不安を和らげるように、朗らかな笑顔でそう答えた。


「ですが、さっきから皆さんの練習を見ていて、正直そのスピード感に圧倒されています。はっきり言って、高校から未経験の人間がこの場に混じって始められるような競技には思えないのですが……」

「そうよね。初めて間近で見るシャトルの速さに気後れしちゃうのも、無理はないと思うわ」

斎藤は卓人の指摘に共感しつつも、高校から始めて才能を開花させる選手が数多くいることを丁寧に説明していく。

さらに年齢や性別を問わず誰もが一生を通じて楽しめるという、バドミントンが持つ生涯スポーツとしての魅力を、熱を帯びた口調で真っ直ぐに伝えた。

けれど、卓人の冴えない表情が晴れる気配はなかった。


「……どうしてそこまで熱心に初心者を誘うんですか?」

卓人はさらに一歩踏み込んだトーンで、核心を突くように言葉を重ねる。

「僕も中学時代に柔道をしていたから分かるんです。実力差がありすぎる人間が混ざると、どうしても全体の練習効率や質が落ちてしまいますよね」

卓人が言葉の裏に込めた、あまりにも冷徹な正論。その意図を正確に察した斎藤は、返す言葉に詰まったように、困った顔で眉を下げた。


「確かに、それはどのスポーツにも共通する課題ね。上達するためには、基礎から段階を踏んで教わる環境が絶対に必要だわ。その意味で言えば、もしうちが勝つことだけを目的とした強豪校なら、君の言う通り高校からのスタートは難しいでしょうね」

そこで斎藤は言葉を濁し、視線をわずかに泳がせた。

卓人はそれを見透かすように、彼女が口にするのを躊躇っている「不都合な本音」を、容赦なく切り出した。

「僕が懸念しているのは、初心者が大した指導も受けられないまま、ただの『数合わせ』として扱われ、結局はないがしろにされて置き去りにされるのではないか、ということです」


〈ちょっと、それじゃまるで喧嘩を売ってるみたいじゃない……!?〉

卓人の身も蓋もない容赦のなさに、初音は内心で頭を抱え、背中に冷たい汗が流れるのを止めることができなかった。

今にも破裂しそうなほど緊迫した空気が漂う中、それまで静かに二人のやり取りを見守っていた藤島が、柔らかく助け船を出す。

「なぜ僕たちが、そこまでして初心者を誘うのか――日下部くんのその疑問、僕から答えさせてもらっていいかな」

藤島はふっと息を漏らすように言葉を区切ると、どこか自嘲気味に微笑んだ


「実はね、うちの部員は男女合わせて十六人しかいないんだ。内訳は三年生が七人、二年生が九人。そして男子に限って言えば……僕一人」

「男子は三年生の藤島先輩が一人だけで、二年生はゼロ、ですか?」

「そうなんだ。バドミントンは野球やサッカーのような人気のある部活ではないし、最近は部活そのものに入らない生徒も増えていてね」

藤島は、部が直面している年々深刻化する部員減少の内情をありのままに語った。


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