第3章 その4:試作の成功と、想定外の称賛
研究所の滑走路に、エンジン音の余韻が静かに溶けていく。
「No.2」のテスト飛行は大成功に終わった。
ガソリンエンジンの強烈なレスポンス、ニッケル鋼による軽量かつ堅牢なフレーム、そして王宮の城壁すら粉砕する新型口径弾の威力。すべてが設計通りの性能を発揮し、操縦桿を握ったリアムは確かな手応えを胸に機体を着陸させた。
多少の着地時のコントロールに課題は残ったものの、この時代の技術者たちに言わせれば、80%の完成度で動けば上々だ。むしろ100%の完璧さを求めて足踏みするよりも、まずは形にして飛ばし、現場で修正していくのが彼ら流のやり方だった。
作業員たちが歓声をあげて機体に駆け寄る中、リアムは操縦席の風防を開け、頭の上の泥を払いながら顔を出す。
目の前には、圧倒的な巨躯を誇るガントが待ち構えていた。
おぉ、やってやったぜ
Fat-beardedと、口から出かけたが…
見上げるほどのガントの巨体が放つ圧倒的な威圧感と、テスト飛行の無事を本気で喜ぶ生々しい熱気にまともに晒され、リアムの心臓は激しく跳ね上がった。
頭の中で響いていた勝ち気なセリフは一瞬で霧散し、彼の内側から消え去る。脳裏にあった勇敢な戦闘機乗りはどこへやら、彼はただの肝を冷やした一人の青年に引き戻されていた。
「……あ、あぁ……なんとか、な。見てただろ、この最高の翼を……!」
強がりを混ぜつつも、引きつった笑みを引っ込められないのがやっとの有様だ。
そのやり取りを見下ろすように、少し離れた位置から歩み寄ってくる人影があった。
ガントの上官でありながら、長年生死を共にしてきた旧知の仲であるカサヴェテス大佐だ。ガントとは年齢も十歳と離れておらず、普段から階級を無視した軽口を叩き合う関係だが、その大佐が、今や見たこともないような満面の笑みを浮かべて歩いてくるではないか。
「素晴らしい……! すばらしいぞリアム!! これなら、あんなダイナソーどもに一泡吹かせてやれる!」
大佐は普段の威厳をどこかへ放り出し、子供のように声を弾ませてリアムの肩を勢いよく叩いた。あの鉄仮面のような大佐がここまで感情を爆発させている姿など、誰も見たことがない。
「おいおい、大佐。アンタがそんな風に満面の笑みを浮かべるなんてよ……二十年以上前にバーのポーカーでストレートフラッシュ出して大勝ちした時以来じゃねぇか。気味の悪いモン見せやがって!」
ガントはテスト飛行の成功そのものよりも嬉しそうに目を細めると、ニタニタと悪びれた笑みを浮かべて大声で毒づいたのだった。
彼らに残された時間は、およそ2週間。
宿舎に戻り、風呂に入り食事をする事にした。




