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第3章 その3:〃向こう側〃の真実。世界へ

研究所に新たな朝が訪れても、休息の時間は与えられなかった。

改良された「No.2」と「No.3」の機体は、徹夜の突貫工事によってそのシルエットをより洗練させていた。前日の失敗から導き出されたデータを元に、ニッケル鋼のフレームは限界まで軽量化され、新開発の最新鋭ガソリンエンジンは綿密な調整を受けて唸りを上げている。

思い起こせば2週間前、霧の向こうの最前線で撮影隊が命がけで収めたのは、あの恐竜たちの生々しい姿や、その異常な生態を捉えた貴重なフィルムの数々だった。人類が直面している絶望の大きさを証明するその禍々しい映像のロールは、厳重に木箱に梱包され、定期便の蒸気船や大陸横断鉄道を乗り継いで、今や世界中の各国政府や研究機関へと送り届けられつつあった。

その木箱の隅には、一枚の手紙がそっと添えられていた。

――Please watch this film. We were never enemies. We are family.

(このフィルムを見て欲しい。私達は敵じゃなかったんだ。家族だ。)

そしてそのフィルムを送り出した日から2週間――いよいよ、No.2を用いたテスト飛行の日が訪れた。

パイロットを務めるのは、設計者であるリアム本人だ。

「おい、スキニー。準備はいいか?」

ガントがオイルまみれの顔で声をかける。滑走路の脇では、ガントやエドワード、そして緊迫した面持ちの作業員たちがその様子を見守っていた。

「あ、問題ない。――Fat-beardedヒゲデブ

リアムは革のフライトジャケットに身を包み、からかうような笑みを浮かべてそう言い返す。

ガントはその言葉にわずかに目を丸くしたあと、「てめぇ……!」と不敵に口の端をつり上げてニヤリと笑った。

「生きて帰ってきたら、その口をグリスまみれにしてやるよ!」

気合の入ったやり取りのあと、リアムは操縦席へと乗り込む。計器盤の向こうで、最新鋭のガソリンエンジンが力強い爆発音を響かせ、機体全体を細かく震わせていた。

プロペラが猛烈な勢いで回転し、爆音が周囲の空気を切り裂く。

強制射出カタパルトのロックが外され、No.2が一気に解き放たれた。

「――行くぞ!」

浮き上がる機体は、前日のような不安定な軋みを上げない。エンジンの強烈な推進力を受けて、見事に空へと舞い上がった。

リアムは操縦桿を握りしめ、ガソリンエンジンならではの鋭いレスポンスに手応えを感じながら、研究所周辺の霧深い空域を旋回する。翼の下に広がるのは、森林伐採が進む荒涼とした大地と、地平線の彼方にうごめく巨大な影の気配だ。

(……これなら、やれる)

ルートの確認を終えたリアムは、機首をあらかじめ指定された目標地点へと向けた。

カサヴェテス大佐から正式に許可の出た、かつての通信中継用鉄塔だ。王宮の城壁を砕くために開発された新型の口径弾。その実戦を想定した威力を、この空の上から叩き込む。

リアムは照準を合わせ、トリガーを引いた。

凄まじい衝撃と爆音が空気を震わせる。放たれた弾丸は一直線に鉄塔へと突き刺さり、次の瞬間、凄まじい閃光とともに巨大な鉄骨が飴細工のように引き裂かれて崩れ落ちた。

爆風が機体を揺らしたが、リアムは巧みに操縦桿をいなし、体勢を立て直す。

見事な弾道、そして申し分ない破壊力。これだけの火力があれば、あの巨獣たちの装甲をも打ち抜くことができる。確かな手応えを胸に、リアムは機体を滑走路へと進路を向けた。

やがて、眼下に平滑に踏み固められた滑走路が見えてくる。

地上で待ち構えるガントやエドワードたちの姿が大きくなっていく。

(よし、完璧に着陸して見せる)

リアムはスロットルを絞り、プロペラの回転音を落としながら車輪を接地させようと高度を落とした。

機体はスムーズに地面を捉え――が、直後、予測しなかった横風が機体を煽った。ブレーキ系統とエンジンの微小な残圧の誤差が重なり、減速しきらないまま機首が大きく持っていかれる。

「っと……おいおい!」

ガリガリガリッ、と耳障りな金属音とタイヤの悲鳴が響く。

No.2は滑走路の端を大きくオーバーランし、そのまま勢いよく周囲の深々とした草むらへと突っ込んでいった。草や泥を盛大に巻き上げながら、機体はガクンと大きく揺れてようやく停止した。

静寂が戻り、ガソリンエンジンの熱がカウルからカチカチと音を立てて冷やされていく。

周囲で固唾を飲んで見ていた作業員たちが一斉に駆け寄ってきた。

「スキニー! 生きてるか!?」

ガントの焦る声が響く中、リアムは操縦席の風防を開け、頭の上の泥を払いながらひょっこりと顔を出した。

「……あー、すまない。着地の踏み込みを少しミスった」

機体そのものは頑丈なフレームのおかげで奇跡的に無傷、リアム自身もかすり傷一つ負っていなかった。しかし、その有様を見たエドワードが冷ややかにため息をつく。

「おいおい、機が無事でよかったが……これじゃあ、カタパルトから発進できても、着陸スペースが圧倒的に足りないな」

「だな……」

苦笑いを浮かべるリアムの言葉に、エドワードは腕を組んで頷いた。

このままでは、より大型化するNo.3や今後の実戦運用において大惨事になりかねない。この日のテスト飛行の成功と同時に、滑走路のさらなる大規模な延長工事を即座に開始することが、その場で決定されたのだった。

霧の向こうから迫る脅威に対し、鉄の翼を磨き、滑走路を広げる。

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