第10章 その4 独特な宿代
うつ伏せのレオンの背中に乗る肉を指差しヴィンスが聞いた。
「バム、これはどうしたらいいんだ?まずは下ろしてやらんとな」
バム「あぁ、ロープを緩めて石台の上に置いてくれ」
ヴィンスは言われた通りに、ロープを外して持ってみると
「重っ!そこまで持って行くのも持ちにくくて一苦労だな」
バム「食べる時まで、この皮に包んでおくといい。傷み難くなるからな」
ヴィンス「世話になるな。ついでと言ってはなんだが水と灯りの知恵を貸して欲しい。日没後12時間暗闇で過ごすわけにも行かないんでな」
バム「そうなると思って、少し準備してきたぞ」
そう言うと竹製と思われる、コップの様なものを10個程、袋から出した。
ヴィンス「コップ?か?」
バム「そうだ。面倒だが、待避所のところにある洞窟の水が1番安全で冷たい。手を洗うところから汲むと良い」
ヴィンス「灯りは?この炉の火を借りて良いか?」
バム「あぁ、構わん薪はたくさんあるから自由に使ってくれ」
ヴィンス「助かる。 みんな!もうすぐ陽が落ちるぞ。今のうちにトイレ済ませておくんだ」
ハシゴがあるとは言え、地上50mの断崖絶壁の暗闇の下に降りて行くのは危険過ぎる故の指示だ。
エドワード「俺は、明るくても無理だな。行きたくなったら、向こうの陰でしてくる」
エドワード、ガント、リアムは降りない判断をした。
バム「俺たちは、今日は家に戻る。夜が明けたら、もう一度来るな」
ヴィンス「何から何まで、助かったよ。また、明日な」
次第に陽も暮れて、炉の焚き火以外は暗闇に包まれた。
ーー19時。
ヴィンス「レオンが持ってきてくれた肉を食おう。そうしたら皆今日は早めに休め」
食事を済ますと、余程疲れたのか皆静かに眠りについた。
アルベルト「ヴィンス、お前は寝ないのか?」
ヴィンス「あぁ、何があるかわからんからな」
2人共、超実践派の部隊のトップだけあって警戒を解く事はしなかったのだ。
レオンは……
泥のように眠り、高いびきをかいていた。
彼が無茶をする時はヴィンスといる時だけだった。
自分の背中を預けて前に進む。
別行動の時は、自分がヴィンスの役割を果たしているのだ。
ヴィンス「アルベルト、今後俺達は敵として戦う事になるのか?」
アルベルト「それは無いように俺達で動かないとな。大佐達も同じ気持ちだろう」
ヴィンス 「………待て。何か聞こえた。」
アルベルト「あぁ、見られてる感じがする」
暗闇で、目の効かないヴィンスは一旦目を閉じた。
2匹か??近づいて来てるな。
アルベルト「あぁ、もうこの上にいる」
タタタタタタタタタタッ
ヴィンス「来るぞ!!」
2人は身を低くして、暗闇に目を向けた。
ガバッ…
2人の背中に、何かが張り付いた。
アルベルト「ウグッすげー力だ!振りほどけん!」
ヴィンス「ん?なんだコイツら!?」
「あはははは!ホントだ!この人達、人間なのに俺たちの事気付いたね」
アルベルト「な、なんだ?」
やれやれと言う様子でヴィンスが言った。
「ドラゴノイドの子供だ。俺達のこと聞いて遊びに来たんだろ」
アルベルト「あ、なるほどな。なんか殺気がない気はしたよな」
スタッ
ヴィンスの背中に張り付いていた子供が、話し掛けてきた。
「おじさん達、人間なのに強いんでしょ?俺達と勝負しようよ」
ヴィンス アルベルト(おじさ……)
ヴィンス「勝負?何をするんだ?戦闘か?」
「そうだよ!戦いごっこ!参ったしたら負けね!」
ヴィンスとアルベルトは顔を見合わせる。
アルベルト「いいぞ、バム達には世話になりっばなしだからな。やるか」
「おい!お前達!!ヴィンス達に怪我させるなよ!爪の使用は禁止だぞ!」
声の方向を振り返ると、リヨが歩いてきた。
ヴィンス「あ、リヨ?家に帰ったんじゃ?」
リヨがケラケラと笑いながら言う。
「EXPの中で、ルーシーとお喋りしてたのよ。コイツら殴ったら痛みはあるけど絶対に怪我しないから遠慮しなくていいよ」
アルベルト「OK、じゃあ俺からやろう。坊や名前は?俺はアルベルト・ハインリヒだ」
「俺の名前はゲル!8歳だよ。よろしく!アルベルト」
ヴィンス「それはそうと、お前達この暗闇で目は見えるのか?俺達はほとんど見えないんだ」
ゲル「昼間よりは見づらいけど、大体見えるよ!」
リヨ「それなら、焚き火を広げてリングを作ろう。その中でやれば良いよ」
急遽、炎リングマッチが開催される事になった。
アルベルト「始めて良いのか?」
ゲル「うん!良いよ。やろう」
アルベルトは、子供の頃にアースバウンドを習得すると聞いていたため、手始めに組みかかった。
バチーン!
アルベルト「おぉ、すげーな!ホントに動かねー」
ゲル「へへへへ。もう動かないよ」
アルベルト「そうか。よっ…と」
ズサァァァァァ
アルベルトが、ゲルを転ばせた。
ゲル「あ、あれ?なんか転んじゃった。もう1回!!」
ダッッ…
ころん。
ズサァァァ…
アルベルト「ヘイ!ゲル!ドラゴノイドは強いんだろ!?打撃も来てみろ!」
ゲル「良いの?行くよ」
全力のミドルキック。
バチーン!
アルベルト「ぐっ…やべぇな。ガードしたのにバットでぶん殴られたみたいだ」
ゲル「アルベルト大丈夫??まだ出来る?」
アルベルト「あぁ、もちろんだ。もう1発来い」
ゲル「凄いね!行くよ!」
ダッッ……
凄まじいダッシュ力で、ゲルは間合いを詰めて蹴りかかった。
スカッ…
盛大に空振りするゲル。
「あ、アレ??」
凄まじいスピードで、ラッシュをかけるゲル。
アルベルト「うわっとっっとっと速えー!」
と、言いつつも、紙一重で回避し続けるアルベルト。
ゲル「おかしいな?俺の方が速いのに、どうして当たらないんだ。クソ!!」
ゲルは、猛然と走り出し渾身の右ストレートを跳躍と共にアルベルトの顔面目掛けて放った。
アルベルト「怪我しないって言ったよな??」
ドコーーーン!!!!
ズサァァァ……
アルベルトのカウンターの掌底が、ゲルの顔面にめり込んだ。
ゲル「うわぁー!イッテーーー!!なんだ今のは?やべぇ、頭も痛ぇ。」
リヨは、ニヤニヤ笑いながら言った。
「そこまで!アルベルトの勝ちだね!」
ゲル「えーー!?俺、参ったしてないよ!」
リヨ「ん?なに?」
ゲル「ま、参った!!!俺の負け!」
ゲルは、仲間の所に戻った。「絶対なんか変だよ。俺の方が速くて強いのに当たらないんだよ。 あと、リヨが怖えーよ! 次、行く?」
「うん行く。驚かせてやる」
もう1人の子供が火の輪に入ってきた。
「そっちの人、俺とやってよ。俺の名前はジャン。ゲルと同じ8歳だよ。」
ヴィンス「OK。俺はヴィンス・ヴァンダインだ。勝負しよう」
ジャン「俺から行っても良い?」
ヴィンス「あぁ良いよ。好きにしろ」
ダダッ!…
凄まじいダッシュ力で、ヴィンスの脚を目掛けてタックルに行くジャン。
グシャァーーー
ヴィンスは片手で、ジャンを地面にねじ伏せた。
ジャン「ぐぬぬぬぬ…」
身体を回転させて、すぐに回避した。
「おじさん達、なんか変だよ!!俺達より強くないのに倒せない!」
ヴィンス「そうか?ジャン。君もアースバウンド出来るんだよな?俺と組み合ってみろ」
ジャンは、ニヤリと笑いながら言う。
「それだったら!行くよ!」
ガシィーーー…
ヴィンス「おぉぉお、これはすげーな。本当に動かない」
ジャン「当たり前だ!小さい頃からずっとやってるんだ!」
ヴィンス 「じゃあ、俺の事を押し切ってみろ」
ジャン「それなら簡単だ!行くぞ!!」
グッ……
あれ? ぬぁぁぁぁ!!!
動かない。
ヴィンス「見よう見まねだが、俺もアースバウンド使ってる……よっと」
ヴィンスは、ジャンを抱き上げた。
ジャン「な、な、何すんだよ!?」
ヴィンス「君たちの戦いは動物みたいなんだ。相手が人間やドラゴノイドだと頭を使われるからな。 そのとびっきりの身体能力が発揮出来るとは限らないんだ。」
ジャン「むむむむむぅぅ」
ヴィンス「それから、アースバウンドは前からの力にはめちゃくちゃ強いけど、下から上げると驚く程、軽いんだ。バムや、ゼグが使ったらわからんがな」
……あ。
やられた。
ヴィンス「君たち、バムと来ただろ!?」
ジャン「うん!下にゼグといるよ」
リヨ「あはははは、やられたねぇ!コイツらの経験の為にヴィンス達にけしかけさせたんだ」
シレッと、こんな形で宿代を回収するバムだった。




