第8章その10 不動と不動
静かに見ていたレオンが口を開いた。
「ヴァンダイン少佐、俺が行って良いんですか?」
「あぁ、お前が良い」
リヨは腰に手を当てたまま、余裕の表情でレオンを見ている。
レオンが一応確認するように尋ねた。
「バムさん、本当に良いんですか? ルールは?」
バムが答える。
「そうだな。リヨを狩るつもりで本気でやってくれたら良い」
「……わかりました。では!」
レオンがネコ科の動物を彷彿とさせるダッシュで、リヨとの距離を詰めた。
リヨが「おっ、速っ……」と呟く。
レオンは体勢を下げ、リヨの腹部めがけて凄まじいタックルを炸裂させた。
「ドゴォ……ッ!」
リヨは片足を後ろに下げ、真正面からそれを迎え撃った。
見た目のサイズ感からはとても想像できないが、微動だにしない。
(グッ……! まるで大木にタックルしたようだ)
乗組員たちからどよめきが起きる。
リヨが笑みを浮かべた。
「いいね。それで終わりじゃないだろ??」
レオンは体勢を立て直し、叫んだ。
「当然だ!!」
頭のどこかで「相手が女だから打撃は遠慮しよう」と考えていたが、このインパクトでその遠慮は綺麗に消え去った。
ボクシングスタイルに切り替え、猛烈なジャブのラッシュを浴びせる。
凄まじいスピードで間合いも完璧なはずが、かすりもしない。
しかし、リヨが小石につまずいてよろめいたのを、レオンは見逃さなかった。
渾身の右ストレートが放たれる。
「バシィッ!!!!」
あろうことかリヨは、よろめきながらもレオンのストレートをガッチリとキャッチした。
そして――。
「グキュゥゥゥゥ……」
キャッチした拳を容赦なく握り込まれ、レオンは片膝をついた。
「ゔ、ググググ……」
普段は我慢強く痛みに耐性のあるレオンだが、叫びこそしないものの、苦悶の表情を浮かべている。
リヨがヴィンスの方を向いて尋ねた。
「どーする? もう抜けられないよ?」
ヴィンスが「あぁ、もう無理……」と言いかけたその時。
レオンは体を地面に滑り込ませ、拳を握られたままの勢いを利用してリヨを豪快に地面へと転がした。
リヨがキョトンとした表情で、地面から空を見上げている。
しかし、レオンを掴んでいる拳の力をもう一段階グッと引き上げると――。
「ぐわぁぁぁ!!!?」
あのレオンが我慢できずに大声をあげ、たまらずタップした。
背中に付いた汚れを払いながら、リヨが言った。
「ねー! バム! 人間ってこんなに強いのか?? 手応えあったぞ」
「あぁ、俺達の認識とは違うな」
ヴィンスが話に割って入る。
「あぁ、コイツは特別だ。人類最強クラスと思ってもらって良いよ。ところで最初のタックル、どうやって受け止めたんだ? 君のサイズから考えて、いかに君の筋力が強くても、あんな止まり方はしないはずだ」
「あぁ、あれはね、脚だよ。脚で止めたんだ」
リヨが自分の腿をぽんぽんと叩いて見せた。
少し考えて、ヴィンスが答えた。
「わからん。さっぱりわからん!」
フッと笑い、バムが寄ってきた。
「大地を使うんだ。衝撃を脚を通して大地に受け止めさせる。当然、打撃を受けた部分はダイレクトにダメージを喰らうがな」
ヴィンスが目を見開く。
「つまり、レオンはリヨを通して大地に突っ込んだようなもんって事か?」
バムが頷く。
「そうだな、そう思って良い。俺達の戦闘技術の1つでな、普通は攻撃の踏み足で使うんだ。後は、子供などを守る時にあれを使って受け止める。――『Earthbound』と言う技だ」
レオンが右拳を振りながら起き上がった。
「アースバウンド、なるほどな。めちゃくちゃ腑に落ちる。衝撃が全て跳ね返されたわけだ」
それを聞いて、バムが声を張り上げる。
「ゼグ! ちょっとこっちへ来い!」
4人のドラゴノイドのうちの3人目、身長2mは下らないであろう筋骨隆々の男である。
「ああ、なんだ? 随分面白いヤツらだな」
ルーシーが感嘆の声を漏らす。
「うわぁ、近くで見るとデカい! ガントより大きいんじゃない?」
バムがゼグに指示を出す。
「ゼグ、彼のタックルを受け止めてやれ。バウンドはなしだ」
「ん? あぁ、わかった」
すると、アルベルトが静かに一歩前に出た。
「俺にやらせてくれ。体感したい」
バムがフッと笑う。
「あぁ良いぞ。君も人間の中では相当だな」
ゼグが不敵に笑う。
「良いぞ! 本気で来い!」
――ダダッ!
アルベルトはこれまでの戦闘経験を活かし、正面から衝突する直前にゼグの脚を取り、膝を折ろうと狙いを定めた(いわゆる膝カックンの要領だ)。
――ビタンッ!
しかし。
想像していた通り、ゼグの巨体はビクともしなかった。
バムが静かに告げる。
「これはただの力だ。力が強い上に、ゼグはデカイ。これが、ここのルールだ。……強さには、強さだけでは戦えないんだ」




