第8章その5 出発
ーーーAM 5:30
アイアンクラウンのエンジンをかけ、出発の準備が整っている。 しかし、問題が……。
「私は行かない!」
ヴィクターが、何やらゴネている。 リアムが焦った様子で返す。
「ヴィクターさんに行ってもらわないと、到着できるか分からないんです!」
「計算上、理論上は君の言う通りで離発着できるだろう。でも、あんなのは机上の空論だ! 命がいくつあっても足らん!!」
リアムの、当時の技術の限界を突破したようなギリギリの発想が、計算のできるヴィクターには恐ろしいものなのだろう。
「でも! ヴィクターさん! あなたが居ないと今回のフライトは……」
黙って見ていたヴィンスが口を開いた。
「諦めろ、リアム。ヴィクターがこう言ってるんだ」
リアムは肩を落とし、小さな声で応じた。
「……はい。分かりました」
「じゃあ、ヴィクター。ナビゲーションだけ頼めるか? 俺たちも行かなければならない」
「ヴィンスさん、分かりました。それなら。では、トイレに行ってきますよ」
タタタタ
ヴィクターが足早に去っていくと、ヴィンスはリアムの肩を抱いて言った。
「リアム、着陸するに決まってんだろ。連れてっちゃえばこっちのもんだ」
悪そうな顔で笑うヴィンスを見て、リアムはニカッと笑った。
「あっ……そういうことですか。ですよねーー」
悪ガキ(成人)2人の企みによって、ベストメンバーによる「ドラゴノイドに会いに行こうツアー」は決行になった。
朝陽が地平線から、オレンジ色に顔を出す頃。
ドドドドドドドド…… バババババババババ
腹に響くエンジン音、プロペラ音を轟かせて。 新生アイアンクラウンEXPは、南へと飛び立って行った。
機内で、アルベルトが おぉ、改めて乗ってみるとすげーなー。あっという間にキャンプが豆粒の様だ。
レオンは、無言で下の眺めに夢中だ。 ヴィンスが そうだなー!俺も乗るのは初めてだからな!リアムサンキューな!
いえ、お礼を言いたいのは俺の方ですよ!皆さんが居なければ絶対にここまで来れなかった。 ヴィクターが 今回、観察に向かう岩山まで、およそ600km。130km/hで巡航しますので、11時前には到着予定です。
出発前に、3人のやり取りを見ていたアルベルトが、思わず吹き出す。 ぶっ。そうか、そうだな。
ん?何か?
いや、なんでもない。楽しみだなーー。 何も知らないルーシーが、ホースをクイクイすると リアム、このレバーは着陸した瞬間に引くイメージで良いんだよね? クイクイ そうそう、そのイメージで覚えておいて。タイミングは、カウントダウンで俺が言うから! ヴィクターが、ゴネた事も知らないルーシーは、普通に着陸の相談をするが飛行の轟音でヴィクターは、聞こえるはずもなかった。
ーーー初搭乗のメンバーは、大型の恐竜やネコに驚いたりしながら、間もなく「あの」岩山に到着しようとしていた。
エドワードがぽつりと言った。 「そろそろだな。彼らの天空の城だ」
ガントがそれに続く。 「あぁ、まさに城だな。あのくらいの技術があるなら、もっと色々な物を作ってると考えて普通だ」
その会話に、ヴィクターがふと違和感を覚えた。
んん? 何を言っている?? 上空から観察するわけだから、前回とさほど変わらないはずだぞ……?
首をかしげるヴィクターに、エドワードがさらりと爆弾を投下した。 「え? 着陸するよ」
その瞬間、朝の出発劇を知るメンバーたちから、先ほどとはまったく違った意味でどよめきの声が漏れた。
「「「なっ……!」」」
青ざめるヴィクターを乗せ、泣いても笑っても、アイアンクラウンEXPは間もなくあの岩山への着陸を試みようとしていた。




