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第7章その10 帰還 器官

ーーーPM5:45

「陽が落ちてきましたね。そろそろキャンプが見えて来る頃でしょうか?」 リアムはそう呟いた。自身では正確な位置を把握できていないため、自然と確認せずにはいられないのだ。 それに答えるように、ヴィクターが淡々と言葉を返す。 「そうだな。残り10kmくらいで見えてくるはずだ。日没迄には充分間に合う」

乗組員全員が安堵の表情を浮かべると同時に、ある種の緊張感を解いていた。眼下に広がるジャングルにもすっかり見慣れ、『World's End Line』に近付くにつれて恐竜を見掛ける機会も減り、それに比例して機内の口数も自然と減っていったのだった。

やがて、リアムのトーンが少し上がる。 「あ!見えてきました!キャンプです!!」

およそ12時間ぶりに目にする人間が建てた建造物は、どこか現実離れした、ひどく強い違和感を放っていた。

ーーーその頃キャンプでは。

「戻ってきましたーー!! EXPです!!」 警戒態勢を解かずにいたマシンガン隊が、誰よりも早くそれに気づき、声を張り上げた。

それを聞いたヴィンスが、すかさず周囲に指示を飛ばす。 「いいかー!滑走路から離れるんだー! そして、ありったけの照明で滑走路を照らすんだ! 目印になる!!」

隣でアルベルトも動く。 「よーし、車のエンジンをかけろ!!全てヘッドライトを点灯しろ!!」

この2人が基地に残って待ち構えているのには、明確な理由があった。彼らの想定力と対応力は、常軌を逸している。EXPが戻って来る頃には薄暗くなっているかもしれない、そうなれば滑走路が見づらいだろうと事前に話し合い、万全の準備を整えていたのだ。

ふと、ヴィンスが不敵にニヤつく。 「おぉなんか、かっこいいな」 それに、アルベルトが短い笑みをこぼす。 「フッ、そうだな」

ーーー上空では。

「あれ? 地面が明るく照らされて所があります!!」 リアムの声に、全員が身を乗り出すように前方に目を凝らした。

ルーシーが明るい声をあげる。 「あー!あれが滑走路でしょ!」

それを見下ろしながら、カサヴェテスがハッとしたように口を開いた。 「そうだな、アイツらが居るんだ。我々が言わずとも勝手にやってくれそうだ」

バトラーが深く頷く。 「ああ、そうだな。俺達がふんぞり返ってられるのも、アイツらのおかげだからな」

もっとも、この両大佐がふんぞり返ってなどいないことは誰もが知っている。彼ら自身が最前線に立ち、命を張って戦っているからこそ、部下達もその背中を理解し、心から信頼してついてきているのだ。

エドワードが冷静に指示を出す。 「リアム!! 一度目視で確認しよう!! 一旦やり過ごして旋回するんだ」 「了解ラジャー! 一旦通過します!」

ブォーーーーーーーーーン――。 重く低いエンジン音を響かせながら、機体が大きく滑走路の上空を通り過ぎていく。その美しい旋回を、キャンプの面々は見上げながら歓声をあげた。

「間違いないですね!着陸に入ります!!」 リアムは機首を戻すと、360度旋回を経て滑走路の一直線上でふわりと高度を下げ始める。 ビュォーーーーーーーー……と風を切る音と共に急速に減速していった。

ガッ、ガッ…… ガゴーーーーーーー……。

見事に着陸を成功させた機体へと、待ち構えていた面々が駆け寄ってくる。 ヴィンスは好奇心を隠せない様子で、笑みを浮かべながら声をかけた。 「無事で何よりだ! 話を聞かせてくれ!」

しかし、乗組員達は続々と扉から降りてくると、片手を軽くあげただけで、挨拶もそこそこにその場から足早に走り去っていく。

残された面々は「え? えーー? 何?」と、見事に置き去りにされた気分だった。 ヴィンスが少し呆れたような、笑いを含んだ声をあげる。 「なんなんだ!?」

少し離れた場所から、ルーシーの切羽詰まった声が飛んできた。 「うるさい! オシッコだよ!!」

その一言に、キャンプのあちこちからドッと笑いが広がっていった。

ーーートイレを済まし、炊事場に集まり喉を潤した。

ヴィンスが足早に入ってくると、声を張る。 「お疲れ様です!カサヴェテス大佐!バトラー大佐!」 まずは上官達にしっかりと敬礼と挨拶をする。

カサヴェテスはマグカップを片手に、ニヤリと笑った。 「あぁ、護衛ご苦労だったな。話したい事は山ほどあるぞ」

続いてアルベルトが落ち着いた足取りでやってくる。 「お疲れ様です。腹が減ったでしょう、皆さんの食事の準備は出来ています」

バトラーが満足そうに頷く。 「あぁ、助かる。早速いただくよ。……そういえば、機内で話したハインリヒとは彼だ。アルベルト・ハインリヒ少佐だ」

それを聞いたアルベルトは、きょとんとした顔で首をかしげる。 「え?? 俺の話ですか? なんの話ですか……?」 と、戸惑いながらも苦笑いを浮かべる。

その場に居る全員が顔を見合わせ、 「やっぱり、この人がハインリヒだったんだ」 と、小さく笑い声を上げた。


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