第7章その8 再び岩山 強賢者の影
―――PM1:00 再び、あの岩山地帯の上空に差し掛かる。 エドワードが窓の外を見やりながら、低く呟いた。 「彼らの棲み家に戻って来たな。あんな連中が、こんな高所に身を潜めて暮らしているってんだから、如何にここの生態系が化け物だらけか解る……。ここを、もう少し観察したいな」 その言葉に、カサヴェテスが操縦桿を握るリアムに声を飛ばす。 「リアム! この岩山地帯をもう少し広範囲で旋回してくれるか?」 「了解!」 その横で、ヴィクターが手帳を開き、真剣な面持ちでペンを走らせる。 『ドラゴノイド(竜人)――道具や馬を使いこなし、人間の姿と恐竜の皮膚のような腕を持つ。戦闘力は、おそらく北側のすべての猛獣を捕食できる……』 そのメモをチラリと覗き見たルーシーが、パッと顔を輝かせて声を張り上げた。 「『ドラゴノイド』!! いいねー、かっこいい! アイツらの呼び方でしょ?」 「……い、いや。私が個人的に記録用として書いてるだけだが」 「そ、そうか?」 ヴィクターは「記録用だ」と慌てて弁解しつつも、どこか嬉しそうなのが隠しきれない表情をしている。 「よし、はい決定!! 今日からアイツらは『ドラゴノイド』って呼ぼうよ!」 ルーシーのその軽い一言が、彼らだけではなく、この先の未来の世界中の呼び方になるとは――この時の誰も、まだ知る由もなかった。
しばらく機体を旋回させていると、ずっと操縦に集中しっぱなしだったリアムと、険しい表情で周囲を警戒していた一同の間に、久しぶりにガントの声が響いた。 「おい、あの岩山の上を見ろ!」 視線の先にあるその岩山は、さながら「天空の森」とでも呼ぶべき場所だった。木々が生い茂り、独自の森や草原が広がっている。 「行きは、あっちのコンロとかに目を奪われてたが……よく見ると、こっちも凄いぞ。あれ、どう見ても建造物だろ!」 ルーシーが目を凝らし、窓ガラスに顔を近づける。 「わっ、ほんとだ! あれ家だね! 分かりにくいけど、なんか肉みたいのもぶら下げてある……。でもさぁ、あいつら、どうやってあんな岩山を行き来してるんだろ?」 エドワードが腕を組み、冷静に分析する。 「跳躍で行けるのかも知れん。彼らはヒトの姿をしていながら、我々が知る動物の一番『スゲー奴』の得意分野を、すべて凌駕していてもおかしくはない」 「っ、子供もあそこにいるのかな? 流石に危ないよね……?」 ルーシーの不安げな問いに、ガントが今度は自信ありげな口調で答える。 「いや、違うな。……おい、見てみろ! ロープウェイだ。滑車みたいなのもあるぞ」 ガントが指差した先。近場の岩山同士を結ぶように柱が設置され、手動のロープウェイが構築されていたのだ。 ルーシーが首を傾げる。 「んーー? でも、ロープウェイって普通、片方にしか進めなくない?」 「あぁ、よく見ろ。柱の上のT字が2段になってる。起点側を上に持ち上げれば、反対側へも進める仕組みだ」 ガントが淡々と、しかし鮮やかにその構造を紐解いていく。 「狂った高さを手持ちの道具でロープウェイにしちまうのもどうかしてるが……本当に恐ろしいのは、あの『高すぎる絶壁』を平然と往来してることだよな」 ここまでずっと見せ場がなくて、このまま「いつの間にかいるだけのモブ」で終わりそうだったガントが、ここに来て現場監督としてのプロの目を大発揮したのだ。 「さすがガントさん、目がいいな!」 ルーシーがパッと笑顔を咲かせ、カサヴェテスも深く頷く。 「ああ。流石総責任者だ!」 このまま空気になりかけていたガントのまさかの大活躍に、内心「良かった〜」と胸を撫で下ろすのだった。
しかし、日没のタイムリミットがあるのでゆっくりしていられない。 エドワードが告げる。 「今回は時間が足りないが、ここは詳しく研究してみたいな。次回来れるならこの辺で時間を使おう」 リアムが力強く返す。 「日を改めて、また来ましょう!ここは場所もわかりやすいので来れます」
ここで、ルーシーがまた突拍子も無いことを言い始める。 「ねぇ、あそこの一番広い所なら着陸出来るんじゃないの?」
皆、ハッとして可能かもと想像するが、襲われるリスクを考えただけで身がすくむ思いをする。 バトラーが険しい顔で言った。 「無事に着陸出来たとして、彼等の逆鱗に触れたらひとたまりもないぞ」 だが、ルーシーはケロリとした顔で提案する。 「ヴィンスとレオン連れてきたら、良いんじゃないの??ンフフ」
エドワードが即座に否定する。 「バカな!ヤツらは、そんな次元じゃないぞ。あの二人とて、相手になどなるものか」
その時、リアムがホースをクイクイと引っ張る。 「ルーシー、俺ももしかしたらあの人達ならどうにかしてくれる気がしてならないんだよ! 戦闘だけじゃなく、あの圧倒的存在感でコミュニケーションが取れる気がする」
ルーシーが、ホースをクイクイし返す。 「でしょーー?アイツらの凄いところは戦闘もそうだけど、むしろそういう所なのよ」
ホース電話で話しているので周りには全容は聞こえないまでも、皆がおよその内容を理解する。
(ホントだ。あいつらならイケるかも……)
全員が、同じ様な思いと希望を持って何故か高揚した瞬間となった。
【分類学記録:天空の民】
和名: ドラゴノイド(竜人)
学名: Dragonoid
亜種名: draco sapiens (ドラコ・サピエンス)
目: 霊長目
科: ヒト科
属: 竜属
身体的・生態的特徴の補足
皮膚・腕の構造: 人間の柔軟な肉体と、恐竜を凌駕する強靭な爬虫類様の皮膚および腕部を併せ持ち、北側の猛獣を単体で捕食するほどの戦闘力を誇る。
エピソード
1910年 アイアンクラウンEXP初期型の部隊が人類史上初のWorld's End Line突破に成功し遭遇。
ルーシャ・デトア隊員と言う女性が、ドラゴノイドって呼ぼうよ!と、呼び始めたのが最初とされている。




