第7章 その3 獣と獣
ーーーーAM9:00頃キャンプでは
ヴィンスが1人の男に話しかける。
ヴィンス・ヴァンダインです。特殊部隊の隊長をやっています。
男は静かに視線を上げ、わずかに口角を歪めて笑った。
「アルベルト・ハインリヒだ。……同じく、特殊部隊を率いている」
アルベルト・ハインリヒ(37)。武闘派として成り上がった、ヴィクターとは違ったタイプの少佐である。
ヴィンスは、この男に自分と同じ「何か」を見抜き話しかけた。 「CITYを経由して来てくれたそうだが、向こうはどうなってるかわかるかい?」
アルベルトが答える。 「あぁ、向こうにはここの3倍以上の兵と、当然カノン砲120の部隊もびっしりと警護しているから大丈夫だろう」
ヴィンスがニカっと笑い、流石だ。 「では一般の市民の皆さんは、安心だな。ところで、アルベルト。君は、相当スゲーな! 雰囲気がずば抜けている」
と、図々しくも一歩距離を詰める。 アルベルトは、フッと笑った。 「ヴィンス、昨夜の君には圧倒されたよ。思わずYes, sir!叫んじまったよ」
「あはははは!」 「なんかな、うちのボス達がやりたい様にしてやりたいと思ったら、ああなったよ」
同世代くらいかなー?ってなんとなく思うくらいで、同じ獣の匂いを感じあってお互い意気投合していった。周りでそれを見る兵士や作業員達も、その光景に言葉には表せぬ頼もしさを感じていた。
ヴィンスが続ける。 「アルベルト、君達の部隊は何故World's End Line遠征に参加したんだ?」
アルベルトが返す。 「何故?上に言われたら命令は絶対だからな。俺達に選択肢なんてねーよ」
ヴィンスが言う。 「本当か?君達程の部隊なら、選択権もあるだろう?」
アルベルトが声を上げて笑う。 「ははははっ。誤魔化し切れそうもないな。『World's End Line』の向こうに、恐竜とか言うバカでかいモンスターがいるフィルムを見せられたんだぜ? 命令をかき消すくらいの好奇心が勝つだろうよ」
ヴィンスが大きく頷く。 「だろーー!?だよなー!! こんな面白そうなミッションは無いよな!? 俺もだ!」
2人共歴戦のプロフェッショナル、ミッションなど当たり前に200%で遂行する。その上で、溢れる好奇心でここへ来たと笑い合う。
ーーーその時。 「来たぞーーー!!大型の恐竜だー!!構えーー!!」
ヴィンスが焦る。 「……いっ!!やべっ、ビゲストホーンだ」 「武器を下ろせー!!待機ー!!」
ビゲストホーン(トリケラトプスのこと)は、草食と推定され、こちらに危害を加えて来たことがない。それどころか、1度デビル来襲時に助けられているんだ、とアルベルトに説明する。
とは言え、攻撃されたら人間などひとたまりもない。最警戒を解かぬまま、息を飲んで見守った。
そして、今回も彼は人間に興味も示さずに居なくなった。
あの巨体がいつの間にか気配を消すように去っていく背中を見送りながら、ヴィンスは小さく息をつき、隣に立つアルベルトへと視線を向けた。
アルベルトもまた、凄まじい威圧感を放っていたビゲストホーンが消えたジャングルの向こうに目を凝らしたまま、ふっと面白そうに片方の口角を上げる。
「……おいおい。あんなバカでかいのが裏庭を散歩するような感覚でフラッと現れるってのか? 面白すぎるだろ、この世界は」
「だろ? だから言ったろ。退屈する暇なんて一秒もないぜ」
ヴィンスはニカッと不敵な笑みを浮かべると、ポケットから取り出した太い葉巻にくわえ、手慣れた手つきで火を点けた。そして、くすぶるその一本をスッとアルベルトに手渡す。
アルベルトは片方の眉を上げてから面白そうに笑い、その葉巻を受け取って深くくゆらせた。
煙の向こうで交わされた、歴戦の猛者同士の不敵な笑み。それは、この未開の地で生きる者たちにとって、何よりも心強い推進力となっていた。
キャンプ地に再び静けさが戻り、それぞれの任務へと動き出す兵士たちの足取りには、先ほどまでの緊張とは違う、確かな熱気が宿り始めていた。




