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第7章 World's End Lineの向う側

リアムは操縦席に乗り込み、エドワードと滑走の方向や、およその離陸のタイミングを打ち合わせする。 普段なら自分の持ち場の時間でない者は眠っている時間なのだが、皆気配に誘われ一目見ようと集まって来た。

エドワードが言う。 「よし、OKだ。みんな乗り込んでくれ」 東の空から、ようやく陽が昇り、南の空はまだ薄暗い時間に出発の準備が整う。

ルーシーが周りを見渡し声を弾ませた。 「すげー! 乗ってみると意外と高いし広いね!」

リアムが振り返って答える。 「うん、ロングフライトを目的としているから、あまり窮屈にならないギリギリの配置なんだ」

カサヴェテスとバトラーが目を合わせて、「すげーな? ホントにな?」と何故か小声でニヤッとする。 ヴィクターは無表情で一点を見つめている(実は一番緊張して心臓バクバクだった)。

下からヴィンスが声を張った。 「リアムーー! 聞こえるかー?」

リアムが窓から顔を出す。 「はい! ヴァンダイン少佐!」

ヴィンスが手を振る。 「土産話を待ってるぞ!! 絶対に無事に帰って来いよ!!」

ドドドドドドドドドドドド…… ババババババババババ…… エンジン音、プロペラ音が激しく鳴り響く。

リアムは力強く答えた。 「はい!! 楽しみにしていてください!」

ヴィンスが最後に問いかける。 「最後の質問だ! お前今、楽しいか!!?」

リアムの目が輝いた。 「最高に楽しいです!! 興奮が止まりません! それでは!! 行ってきます!!」

ブォン! ドドドドド ガーーーーー ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ…… ギュンギュンギュンギュン ブォーーーーーーーーーーー ガッ、フワッ——

機体が重力から解放された。 基地内から割れんばかりの歓声が鳴り響く。 しかし、高度が上がると、あっという間にその歓声もエンジン音にかき消されて聞こえなくなった。

ルーシーが後ろを振り向き、窓に貼り付く。 「うぅわーーー、基地や皆がもうあんなに小さくなったよ」

ヴィクターも胸の高鳴りを抑えながら振り返り、スタート地点の特徴を出来うる限りノートにメモを取る。 見渡す限りの、永遠に続きそうなジャングルが薄暗く広がっているのを、全員が息を呑んで見つめていた。

すると、エドワードがゴソゴソとカバンから何かを取り出した。 木製のコップの底にホースを取り付けた、言わば糸電話の様な物だ。 轟音の響く機内では通常の会話が困難になることを見越し、エドワードが自作してきたものだった。

エドワードが叫ぶように言った。 「リアム! 例の電話、試せる時教えてくれ!」

リアムが計器類を確認して返す。 「はい! もう安定しているので大丈夫ですよ!!」

と、まずは大声で会話する。 そして、すぐ後ろのワイドシートに座るガントにコップを持ってもらい、ルーシーとの通信を中継してもらうことにした。

ルーシーが皆に聞こえないくらいの通常のボリュームで話し始める。 「リアムっ、聞こえるかな? 君はすげー奴だよ。私は特殊部隊ですげー奴らに囲まれて生きてるのに、君の凄さはヴィンスやレオンにも負けないと思う。……いつか街に戻れたら、バーで一杯奢ってあげるよ!!」

最後にはつい声が大きくなってしまい、リアムが驚いてコップを耳から離した。 そのコップを見て、ルーシーはクスッと笑った。 リアムは言葉を返さず、コップをガントに持ってもらったまま、力強く親指を立ててルーシーにアピールした。

ルーシーもそれを見て、リアムには見えていないがふんぞり返って力強く親指を立てて前に出したのだった。

エドワードは、シンプルな仕掛けだが二人の「親指」を見て効果がある事にご満悦だった。 ほんの数分も飛行すると、我々が開拓していた鉄路を超えて360°どこを見てもジャングルや、それを分断する模様の様な川が広がっていた。 上空から目を凝らして見ていると、リトルボーイの群れやデビル、ビゲストホーンなどがチラホラ確認出来る。

彼らは非常に大型な生物だが、それらを埋もれさせる程ジャングルは広大だった。

すっかり陽も昇り、視界も開けた頃。 リアムが頭の中で (んーーー?。あの辺の木々の色、独特だなーー) などと考えながら飛行していた。

「な、な、な? なななーー!?」

言葉にもならない声でリアムが叫んだ。 その声につられるように、全員が前のめりになって前方のフロントウィンドウへと目をやる。

ジャングルの木々に負けないサイズの恐竜の群れが、豪快に葉をむさぼっていた。

あのデビルが小型に見えてしまう程の、途方もない首長竜だった。 全員が目を奪われ、声にもならない驚きの言葉を漏らす。

ルーシーが叫んだ。 「でっけーー! 教会くらいあるかな!?」

(※全長25m、高さ15m。ブラキオサウルスの仲間だった。現代の建物で例えるなら、マンションの5〜6階からエサを与えられるほどの巨大な大きさだ)

リアムが後ろを振り返り、大声で提案する。 「一度旋回して、もう一度見ますか!?」

そう言ってコップ電話を持ち上げ、ホース를クイッと引いて合図を送る。 それを感じ取ったルーシーが力強く引っ張りかえすと、糸電話の向こうから声が返ってきた。

「旋回して、もう1回見るよー!」

ルーシーがさらにホースを引っ張りかえし、それを受け取ったリアムが耳を当てると、彼女は機嫌よく続けた。 「おっけー! もう1回見れるんだね!」

いつの間にか、とくに打ち合わせをしたわけでもないのに、「引いた方が話す」という絶妙なコミュニケーションの流れができあがっていた。

グオォーーーーーーーン!

アイアンクラウンEXPが大きく傾き、優雅に旋回を始める。 しかし、その瞬間――。

すぐ後ろのシートからガントが叫んだ。 「ちょちょちょちょっと待て!! レバーを緩めろ!」

なんと、旋回軌道のちょうどその先に、空を飛ぶヤツら――プテラノドンの群れが滑り込んできていた。

普通に前方を見ながら飛行していれば余裕で視界に入ったはずの群れだったが、全員が地上の超デカイヤツらに目を奪われていたせいで、全く気づかずに遅れてしまったのだ。

「――ぐっっ!」 「やべぇ!」

機内が一気に騒然とする。 (間に合わない……っ、上か!)

リアムはっとして瞬時に判断し、レバーをぐっと引いて機首を上げる。危機一髪、群れの頭上をかすめるようにしてやり過ごした。

隣同士の席に座るカサヴェテスとバトラーは、冷や汗を拭いながら顔を見合わせる。 「ある程度の想像はしていたつもりだが……全く、俺たちの期待を簡単に上を行ってくれるな……」 ドキドキドキドキ

どうにか無事に旋回を終え、約束通りもう一度あの首長竜の上空を通過したが――先ほどのニアミスで全員の肝がすっかり冷えてしまっており、今度はただ通り過ぎるだけで精一杯の通過となってしまった。


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