第6章その6 動き出すExplorer
ーー翌朝。
陽も昇る前、5時集合。
早朝の集合だと言うのに、皆意気揚々としていた。
そこへ、ふぁ〜〜とアクビをしながら「おはよーー皆ーー」とルーシーが歩いてきた。
昨夜、リアムは置き場に残って作業員数名とする事があると言っていたのだ。
カサヴェテスが尋ねる。
「リアム、昨日居残ってしていた点検は大丈夫だったのか?」
リアムはニヤリと笑って答えた。
「あはっ、いいえ点検ではありません」
全員を連れて機体の前に集まり、照明を点けると、そこにはこう書かれていた。
IRON CROWN EXP
無骨ながらも、男心をくすぐるその名前に、一同から「お、おぉぉ……!」と感嘆の声が漏れる。
バトラーが関心したように聞いた。
「リアム、このEXPっていうのは何の略だ?」
リアムが胸を張る。
「Explorer、探検家です!」
ヴィンスがニヤッと笑い、肩を叩いた。
「エクスプローラー!! 最高にかっこいいな!」
リアムは照れくさそうに笑い、「ありがとうございます!」と頭を下げた。
全員が各分野のエキスパートだが、少年がそのまま大人になったような叩き上げのBOYばかり。夢のマシンのネーミングに、誰もが心躍らせている。
「あ、一つだけ調整しました」と、リアムが続ける。
「ガント用のワイドシートを俺のすぐ後ろに移動しました。ロングフライトになるので、いざと言う時に交代します」
すると、エドワードが真剣な表情で周囲を見回した。
「今日は皆、朝飯を抜いてくれ。World's End Lineの向こうでは着陸出来ないから、トイレに行く事も出来ないんだ。……そこに瓶が準備してある。それが各自のトイレだ」
それを聞いたバトラーが、少し心配そうに眉をひそめる。
「となると、やはりルーシーは厳しいのでは?」
しかし、ルーシーはケラケラと笑った。
「え? なんで? 全然大丈夫よ」
10年以上部隊で男たちと共に行動している彼女にとっては、そんなことはごく普通の事だった。
「あ、でも今のうちオシッコしてきまーーす!」
そう言って、彼女はパタパタと駆けていった。
バトラーやヴィクターは少し呆気に取られたが、他のメンバーは葉巻に火を点けたり機体を眺めたりして気にも留めていない。
12時間のフライト。
現代では珍しくも無いが、空調もなくトイレもない熱帯地方でのフライトは、高揚感と比例して過酷なものなのだ。
リアムが大きく息を吸い込む。
「それじゃあ、外に出しますね」
重々しい両開きの大扉を開けると、冷たい朝の空気が流れ込んだ。
――ギイィィーーーーーーー
ドゥルーーーーーン
ドドドドドドドドド……
ドゥルーーーーーン
ドドドドドドドドドドドド……
2つのエンジンが力強く息を吹き返す。
既に圧巻の迫力だった。腹部に響く重低音に、皆の心が完全に奪われる。
暖気をしてエンジンが十分に温まると、遂にブゥーーンと高音の回転が上がり、アイアンクラウンEXPはゆっくりと外へと進んで行く。
地平線の彼方から微かに顔を出した太陽の光に照らされ、その機体はまばゆく、美しく輝いていた。
荒々しくも平らに押し固められた、乾いた赤土と砂利の滑走路。そこにアイアンクラウンEXPを移動する。
それだけでも圧巻の迫力に、周囲に残った警備の兵士達は言葉を失い、ただ圧倒されてどよめいていた。
鉄路ではなく、地表をそのまま均した広大なグラウンドに、その巨体が鎮座する。
胴体側面には無数の窓が並び、まるで空飛ぶバスのような威容を誇っている。
「おい……あれが、噂の9人乗りか……?」
「あんな巨大な鉄の塊が、本当に空を飛ぶのか……? 」
息を飲み、ざわめく兵士たちの視線を背に、乗組員たちが次々と機体へと乗り込んでいく。
戻ってきたルーシーが、革製の飛行帽を被り直しながら軽やかにタラップを登った。
「ふーー、スッキリした! 出発準備はオッケーよ!」
彼女のサバサバとした笑顔に、これから地獄へ向かうかのような閉鎖的な機内の緊張が少しだけ和らぐ。
リアムから昨夜、EXPの存在と飛べる事を聞いたばかりなのに南を見つめ、飛び立つ彼らは、クリスマスプレゼントを貰ってすぐに遊びたい子供の様に高揚していた。




