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第6章 その2 集結 これから

ガーーーーーーガチャン ガーーーーーーガチャン…… 遠くから何か近付いて来る音がする。次第にその音が大きくなり、やがてそれはトロッコであることが分かった。 レオンのチームが戻ってきたのだ。 蒸気機関車で行っていたはずだが、ルーシーが途中でやることがなくなったため、作業員に頼んでルーシーがトロッコを置いてきて、蒸気機関車に乗って帰ってきていたのだった。 キーーーーーーーーッ……と甲高いブレーキ音を立ててトロッコが止まると、ルーシーが悪びれもせずヒョコっと顔を出す。 「よっ、レオンお帰り!!」 レオンは呆れたように息を吐く。 「……ルーシー、お前飽きたんだろ。ただいま」 ルーシーの自分勝手な行動にはもう慣れすぎていて、レオンの心には怒りも湧かず、ただ脱力感しかなかった。だが、それどころではない光景が目の前に広がっている。 「ってか、ナニコレ……?」 見渡せば、見たこともない大量の異国の大型車両が並び、敵国っぽい大勢の兵士たちが自分たちの仲間と楽しそうに談笑している。流石のレオンも、この急展開を脳がまったく消化しきれずにいた。 ルーシーがケラケラと笑いながら言う。 「あ,これ? なんかね、手伝ってくれるみたい」 レオンは数秒間フリーズした。 「ーーーーーー。???」 もういいや、とレオンは思考を放棄した。現実逃避するように、彼は足早にその場を駆け出す。 タタタタ……ッ! 「ヴァンダイン少佐! レオン・フォックス以下4名、ただいま戻りました!」 レオンの上官であるヴィンスは、きびきびとした報告を受け止めると、落ち着いた声で尋ねた。 「ご苦労だったな。状況と進行状況は?」 「バリケードは、高さ7mで完成しました。それにより、北から南に流れる風が止まりました。完成後、夕刻まで警戒、監視を行っていました」 ヴィンスはうなずく。 「その効果は?」 「……と言うか。まず、」 「んー? ん?」 「んーーーー? じゃなくて!! この状況教えてくれよ!!」 ヴィンスは「あ」と間の抜けた声を漏らし、それからふッと肩を揺らして笑った。 「あぁ、そうだった」 レオン、こっちだ、とヴィンスに手招きされ、レオンが歩み寄る。そこには見慣れない精悍な男が立っていた。 「バトラー・クロフォード大佐! 紹介させていただきます。レオン・フォックス、私の右腕。役に立つ男です。よろしくお願いします」 ヴィンスにそう紹介されたバトラーは、レオンの姿を見るなり眉をひそめた。 「ん?? え……? なんだ彼は!?」 レオンは困惑しつつも礼儀正しく頭を下げる。 「どうかされましたか?」 バトラーは額に手を当て、やれやれといったふうに吹き出した。 「なんなんだ、このチームは! 化け物が揃い過ぎてるだろ」 レオンはようやくこの男がただ者ではないこと、そして自分たちが「敵国」の兵士と対峙していることを把握する。レオンは背筋を伸ばし、最上級の敬意を込めて言葉を紡いだ。 「特殊部隊所属、レオン・フォックスです! この度は遠路はるばる――」 堅苦しい挨拶を始めたレオンを見て、バトラーとヴィンスが同時に吹き出して笑った。 バトラーは豪快に笑いながら手を振る。 「それヴィンスに聞いたよ。バトラー・クロフォードだ。君たちの『敵国』の兵士だ。よろしく頼むな」 その一部始終を少し離れた場所から眺めていたカサヴェテスが、ニヤニヤと笑いながら歩み寄ってきた。 「バトラー、コイツも凄い男だよ。何か感じたか?」 バトラーは腕を組み、鋭い眼光でレオンを上から下へと値踏みするように見つめ直す。そして、ふっと口の端を持ち上げた。 「レオン・フォックスって言ったな。キツネと言うより狼だな。Wolfだ。フィジカルもメンタルもスタミナが凄そうだな」 その一言を聞いた瞬間、ヴィンスは改めてバトラーの凄さに気付かされる。 「クロフォード大佐、レオンは同僚達のニックネームが、『Wolf』です。一見されただけで、見抜かれる眼力、カサヴェテス大佐と同じく現場叩き上げな事が突き刺さります!」 バトラーが、そんな大したことでは無いよ。適当だよ、適当、と謙遜して笑った。 すっかり日が沈み、時計の針が20時を指した頃。 夜のとばりが下りた基地の一角では、交代で厳戒態勢を敷いたまま、緊迫した作戦会議が開かれることとなった。 周囲の警戒や監視の目を一切緩めることなく、持ち場を守る者たちと連携しながら、両国の精鋭たちが一つのテーブルを囲む。かつては銃口を向け合った者同士が、今は同じ地図を覗き込み、目の前に迫る脅威を見据えている。 バトラーは腕を組みながらテーブルの端を見やり、ふと声を張り上げた。 「おい、ヴィクター。どこにいる」

声をかけられた黒革の手帳を抱えた参謀――レックス・ヴィクター少佐(所属:バトラー・クロフォード大佐直属 参謀本部・作戦主任参謀 / 年齢:34歳)が、群れの中から静かに一歩前へ進み出る。

「ここに。納品データから人員配置まで、呼ばずとも最初から控えております」 「はは、そうか。まぁいい、そろそろ時間だ。皆の意識をこちらに向けさせてくれ」 バトラーが軽く手を挙げると、レックスはわずかに眉をひそめつつも、手帳を開いてきびきびと場を仕切り始める。 「……承知しました。では、これより合同作戦の協議を始めます。まず本題に入る前に、今次作戦の主軸となる『カノン砲120』の弾道演算およびエネルギー収支について共有します。 基本方程式として、マッハ数を M、断熱指数を \gamma とし、衝撃波の弛み角 \theta に対する斜め衝撃波関係式

\tan \theta = 2 \cot \beta \frac{M^2 \sin^2 \beta - 1}{M^2(\gamma + \cos 2\beta) + 2}

これをナビ・ストークス方程式のレイノルズ応力項 \tau_{ij} と連成させ、運動量フラックス \rho u_i u_j の積分平均から導出される爆風減衰係数 \alpha は

\alpha = \lim_{t \to \infty} \int_{\Omega} \nabla \cdot \left( P \mathbf{v} + \rho \left( e + \frac{\vert{}\mathbf{v}\vert{}^2}{2} \right) \mathbf{v} - \kappa \nabla T \right) dV

となり、この非線形偏微分方程式系をルンゲ・クッタ・フェールベルク法で解くことで、初速マッハ7.8における空力加熱とエントロピー生成率 \sigma の極限値が算出されます。すなわち、

\sigma = \int \left( \frac{k}{T^2} (\nabla T)^2 + \frac{\mu}{T} \Phi \right) dV \ge 0

この熱力学第二法則に基づく散逸構造を維持しつつ、装薬量 w に対するガスの膨張仕事 W = \int P dV は……」

流れるような早口で繰り出される超高難度の計算式と難解な理屈の羅列に、室内の空気が一瞬で凍りついた。レオン、ルーシー、ヴィンスをはじめ、屈強な男たちが全員一斉に目を点にし、言葉を失ってポカーンと口を開けたまま固まっている。

見かねたバトラーが、こめかみを押さえながら苦笑交じりに手を振った。 「おい、ヴィクター、その辺は良い。120の特性の説明だけしてくれ」

レックスは一瞬きょとんとしたが、すぐに眼鏡を掛け直して真面目な顔でうなずいた。 「――承知しました。カノン砲120は、直撃すれば物理的に壊せない物など一切思いつきません。圧倒的な破壊力です。 そして、2人1組のバディを組んで運用すれば、わずか3秒に一発の圧倒的な高頻度で掃射可能です。 ただし、完全な『待ち一辺倒』の陣地防衛兵器です。こちらから積極的に捜索を行い、移動する敵を発見した後に照準・砲撃の準備をするのは、機動性の観点から非常に困難を極めます」

一同がその性能の尖り方に静まり返る中、珍しく、リアムが自らスッと口を開いた。

「それでいい。それで良いとおもいます」

その一言に、テント内にいた全員が一斉にリアムへと視線を送った。


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