第6章 決意と覚悟
リアムは、目をこすりながら宿舎から這い出てくる。 !!! 「なんだこれ……!?」 目の前に並ぶ、見たこともない重厚な異国の大型トラックの数々に、リアムは度肝を抜かれて固まった。 そんな彼に気づき、カサヴェテスが手招きをする。 「リアム、こっちに来てくれ」 「は、はい!」 タタタタと、リアムは慌てて駆け寄った。 「彼はバトラー・クロフォード――『敵国』の大佐で、この隊のトップだ」 カサヴェテスがそう紹介すると、バトラーは声を上げて笑った。 「おい、アーサー! 『敵国』なんて言うなよ!」 突然のジョークに、リアムは完全に気圧され、目を白黒させながら頭を下げる。 「あ、リアム・ドレイクです。よ、よろしくお願いします……!」 すると、カサヴェテスは誇らしげに胸を張り、バトラーの肩を叩いた。 「バトラー,こいつは凄いヤツでな。この隊の『アイアンクラウン号』の設計士にしてパイロットだ。飛行機が大好きで、肌身離さず持っていたオリジナルの設計図面からこいつを形にしたんだぜ」 「ほう……?」 バトラーが眉をひそめ、興味深そうな視線を向ける。 「飛行機マニアが作った機体か。……おい、見せてくれ」 「あぁ、こっちだ。リアムも一緒に来てくれ」 カサヴェテスに促され、一同は基地の滑走路へと向かう。 夕焼けの茜色に照らし出されてそこに佇んでいたのは、無造作に停められた『No.3』、そして作業員たちがすでにカタパルトへと装着し終えていた『No.2』だった。 バトラーは、その機体をひと目見るなり息を呑む。 「―――っ! 複葉機か!?」 驚愕の色を浮かべ、まじまじと機体を舐め回すように見つめる。 「これ飛ぶのか? 飛ぶんだな……!?」 「あぁ、もちろんだ」 カサヴェテスは不敵に笑い、機体の武装を指さした。 「マシンガンと、デビル用のロケット弾が搭載してある」 それを聞いた瞬間、バトラーは大笑いした。 「あっははははは! お前達も人のこと言えないじゃないか! こんな物で我が軍を狙う気だったんだな! ここ数年、各国がこぞって軍用機の開発に取り組んでいるからな、まさかお前達がここまで……!」 しかし、カサヴェテスは苦笑しながら首を横に振る。 「いや、俺たちは違う。恐竜が現れてから、その対抗用に作ったんだ」 バトラーの笑みがピタリと止まる。 「バカを言うな! 偵察機のフィルム発送日から逆算したって、せいぜい3ヶ月だぞ!?」 「あぁ。だから、リアムは凄いと言っただろう」 カサヴェテスは隣で緊張しているリアムの背中にポンと手を置いた。 「幸い、この基地には材料にも作業員にも困らない最高の環境が揃っている。……何より、リアムが持っていた完璧な設計図があったおかげで、構想からわずか数日で形になったよ」 数日のうちに、恐竜対抗用の軍用機を設計・形にしたという信じられない事実。 バトラーは言葉を失い、やがて呆れたようにため息をつきながら、再び豪快に笑った。 「なんと言うチームだ……。ヴィンスといい、この設計士といい……。これじゃあ、これだけの猛獣を相手に犠牲者が出ていないというのも、少しは頷けるな」 バトラーが、滑走路から視線を戻し、ふと地面に横たわる巨大な影に気づいて目を留めた。 「ってことは、正面に転がってるデビルも、こいつで仕留めたのか?」 カサヴェテスは少し気まずそうに目を泳がせる。 「いや……あれはだな」 事の経緯を聞いたバトラーは、目を丸くして絶句した。 「なんだそれは……!? 絶体絶命のピンチに、そのサイの化け物みたいなヤツが突然突っ込んできて、お前たちを助けてくれただと!?」 「あーー、うん……まあ、そんな感じだな」 バトラーは額に手を当て、やれやれといったふうに肩を落とした。 「なんか、もう良いや。アーサー、お前は相変わらずというか……生き残る才能だけは凄まじいってことだけはよく分かったよ」 そう言って、バトラーは腹を抱えて笑ったのだった。 宿舎へと戻ると、両国のアーミーや作業員たちが入り乱れ、あちこちで熱を帯びた談笑が交わされていた。 「あんなデカい化け物がいる中で、一体どうやって生き延びてたんだ?」 「いやあ、こっちにはとんでもない設計士がいてね……飛行機の図面を描かせたら右に出る者はいないんだ」 「それにしても、よくこんな『World's End Line』を越えて、無事にここまで来られたな!」 「あぁ、道中も色々あってな……」 互いの健闘を称え合い、ここでの信じられないような出来事や、道中の過酷な道のりを語り合う。かつては敵国同士だったとは思えないほど、そこには確かな絆と温かい空気が流れていた。 しかし凄い事に、この場にいる全員が気を抜いているわけではなかった。 特殊部隊のマシンガン担当の5名は、和やかな輪には加わらず、冷たい銃座に張り付いたまま一歩も動かない。彼らは銃を構え、周囲の暗闇に目を光らせて、一切の厳戒態勢を解いていなかった。 そしてそれとは別に、ヴィンスの姿があった。 彼は異国からの助っ人――重砲支援部隊の担当者から、カノン砲120の詳しい射程、装填速度、弾道の特徴などを真剣な眼差しで聞き出していた。 「なるほど、音速で飛び出す分、反動も凄まじいってわけですね。なら、地盤が硬い南東の岩場に固定しましょう」 ヴィンスは得た情報から即座に最適な配置を割り出し、助っ人部隊へ次々と的確な指示を出していく。 和やかな交流の裏で、一切の隙を見せずに「次」の死地に備える男たち。その洗練された動きが、この部隊が犠牲者ゼロである最大の理由を物語っていた。
「なぁ、バトラー――」 「おい、アーサー――」
偶然にも、全く同じタイミングで2人の男の声が重なった。
ふと顔を見合わせたカサヴェテスとバトラーは、小さく苦笑いを浮かべ、そしてすぐに視線を宿舎の中心へと戻す。そこでは、国境の壁もかつての憎しみも超え、満面の笑みで肩を叩き合う若者たちの姿があった。出会ったばかりだというのに、まるで長年の戦友であるかのように熱く語り合っている。
その楽しげで、あまりにもまばゆい光景を眺めながら、ベテランである2人の胸中には全く同じ感情が去来していた。
(……この若者たちを、二度とあんな「敵同士」の泥沼に戻してはならない)
戦火に身を焼き、数々の修羅場をくぐり抜けてきたからこそ分かる。彼らが今掴みかけている絆の尊さと、それを守り抜くことの重みを。
バトラーは葉巻に火をつけると静かに目を細め、カサヴェテスは力強くうなずく。言葉にはせずとも、腹の底では完全に意思が通じ合っていた。
世界の運命がどう転ぼうとも、World's End Lineの向こう側で芽生えた絆だけは、何があっても絶対に断ち切らせはしない。熟戦を潜り抜けた男たちの背中が、静かなる決意を物語っていた。




