第5章 その7 再開 絆
そして、夕方になり、地平線の彼方から大地を揺らすような重低音が響き渡り、見たこともない重厚な大型トラックが数十台、車列をなして次々と前線基地へと到着した。その圧倒的な光景に、ルーシーが目を輝かせて歓声を上げる。
「うわー! すげぇ沢山来たよ!!」
その声に引き寄せられるように、基地にいた全員がぞろぞろと外へ出迎えに集まってきた。
先頭のトラックがブレーキの音とともに停車し、重々しいドアが開く。降り立ってきたのは、貫禄と戦場をくぐり抜けてきた凄みを纏う男――バトラー・クロフォード大佐だった。
カサヴェテスは力強い足取りで前へ進み出ると、右手を差し出した。バトラーもまた笑みを浮かべてその手をしっかりと握り返す。
「……お互い、随分と老けたな」
カサヴェテスがしみじみと言うと、バトラーは肩をすくめて応えた。
「お互い様さ。……それにしても、あの時お前に分けたひときれのビーフジャーキーが、まさか他国の軍隊を動かすほどのとんでもない物に化けるとはな」
ふたりが顔を見合わせて豪快に笑い合っていると、会話を聞いていたルーシーが興味津々といった様子でトコトコと駆け寄ってきた。そして、自分のポケットをごそごそと探ると、あのチョコレートを取り出してバトラーへ差し出した。
「どうぞ! えへへ」
ルーシーなりの感謝の表れなのだろう。
「ん……? これはこれは、可愛らしいお嬢さんからプレゼントか。ありがたく貰っておくよ」
バトラーが目元を和ませてチョコレートを受け取ったその時、後ろから整然とした歩調でヴィンスが歩み寄ってきた。普段の軽薄な態度は完全に影をひそめ、背筋をピンと伸ばして深々とお辞儀をした後、寸分の狂いもない見事な敬礼を捧げる。
「特殊部隊所属、ヴィンス・ヴァンダイン少佐です! この度は遠路遥々お越しいただき、誠にありがとうございます!!」
珍しくガチガチに緊張した面持ちのヴィンスを見て、バトラーはフッと口元を緩めた。
「あぁ、よろしく。バトラー・クロフォードだ。……アーサー、随分と凄みのある男を従えているじゃないか。立ち振る舞いだけでタダ者じゃないと分かるぞ」
「まあな。こいつは本当に凄い男だよ」
カサヴェテスが誇らしくうなずくと、バトラーは表情を引き締め、基地の奥へと視線を向けた。
「それで? 現在の戦況はどうなっている?」
「あぁ……それがな。我々が『デビル』と呼んでいる、体長10メートル以上ある獰猛な肉食恐竜がいるんだが……あいつには、こちらの重マシンガンすらまるで通じないんだ」
「そうか、そいつは凄まじいな。……だが安心しろ、とっておきを持ってきたぞ」
バトラーは自信に満ちた笑みを浮かべ、後ろに控えるトラックの荷台を示した。
「カノン砲120(ワンツーオー)だ」
「なんだそれは……!?」
「120ミリの鉄球――ちょうど競技用の砲丸くらいのサイズだな。そこにぎっしりと火薬が詰まっていて、音速で飛び出す。一撃で家サイズの巨岩すら粉々に打ち砕く代物さ」
「!! それは凄いな……! それほどの威力を秘めているなら、あのデビルにも間違いなく通用するはずだ!」
「そうか。俺もそう思うよ」
バトラーはニヤリと不敵に笑ってみせた。カサヴェテスはその笑みを見つめ、あきれたように、しかしたのもしそうに笑いを漏らす。
「……って、お前達、そんな物ぶっ放して俺たちを吹き飛ばそうとしてたんだな?」
「ハハハ、過ぎたことさ!」
バトラーもまた声をあげて笑い、二人の戦友はしっかりと肩を並べたのだった。
バトラーは腕を組み、ふと気になったように問いかけた。
「それで? これだけの猛獣が相手だ、犠牲者も相当な数が出ているんだろう?」
その質問に、ヴィンスは「え?」と間抜けな声を漏らし、頭をポリポリとかきながら「んーーー、あの……0です」と答えた。
「何!? こんなヤツらを相手にして……ゼロなのか!?」
バトラーは思わず声を裏返させ、地面に横たわる無残なデビルの死骸を指さした。
「重マシンガンも通用しないんだろ? それでどうやって――」
「はい。言われてみれば、確かにそうですね」
ヴィンスは涼しい顔でそう返し、周囲の兵士たちも「言われてみれば確かに」と首をかしげている。
当然、カサヴェテス達自身には全くその自覚がない。しかし、彼らはいつの間にか、設計士、学者、技術者、兵士、武器、助っ人、そして7年前の冬のあの兄弟、ビーフジャーキーに至るまで全て揃わないと結成しなかった人類史上最強チームに、なっていた。




