第5章 その6 勇士帰還 ビーフジャーキー長者
滑走路の方向に、複葉機の唸るようなエンジン音と空を切る風切音が響き渡る。
ビューーーーーーーー
ガーーーーーーー……
ザァ……
リアムを乗せた機体が無事に着陸を果たすと、待ち構えていた者たちが一斉に駆け寄った。機体から降り立ったリアムに、カサヴェテスが真っ先に声をかける。
「リアム、どうだった? 標的は見つけられたか?」
「はい! デビル2頭と、リトルボーイの様な恐竜の群れを殲滅しました! リトルボーイはマシンガンで通用しましたが……デビル殲滅には、対地用のロケット弾を4発、すべて使い切ってしまいました」
リアムは申し訳なさそうにうなだれた。しかし、そばに控えていたヴィンスはからからと笑い声を上げる。
「ははっ、リアム、お前あのアイアンクラウン号をまともな訓練も無しで、しかもロケット弾4発だけでデビル2頭を仕留めてきたんだろ? 天才じゃないか」
「でも、あの弾……」
(※ちなみに、そのロケット弾は現代の価値換算で1本1万ドル以上する代物だった)
「予算はいくらでもあるし、むしろ効率的だよ。まずは中に入って休め」
「はい……!」
安堵したリアムが宿舎の方へ歩き出そうとした瞬間、足元を見て思わず声を上げた。
「うわっ! なんですかこれ……!?」
そこに横たわっていたのは、一頭の無残な「デビル」の死骸だった。リアムはそれが何であるかまだ知らない。
「実はな……」
「えーーっ!? あの『ビゲストホーン』が来て……デビルを!?」
「ああ。おかげでその場は助かったが……問題はそれだ。如何せん、地上の護衛力が弱すぎる。デビルに対抗出来る術がない」
「そうですよね……」
二人が話していると、本部から慌てた様子で通信士が声をかけてきた。
「大佐! カサヴェテス大佐ー! 本部にお電話です!」
「なんだ? 今それどころじゃないんだがな……」
カサヴェテスはため息をつきながら本部の建物へと足を踏み入れ、机の上の受話器を取った。
「もしもし、カサヴェテスだ」
《大佐。お客様だ。今、電話を代わる》
中央委員会の関係者から電話が回され、ガサリと受話器が別の手に渡る音がした。直後、低くしゃがれた、しかし懐かしい声が耳に飛び込んでくる。
「よぉ、アーサー。久しぶりだな。バトラー・クロフォードだ」
「!!! ……バトラー!? バトラー・クロフォードなのか!?」
「ああ、そうだ。お互い老けたか? ……あれから30年ぶりになるか。大西洋を渡って、お前の応援に駆けつけたぞ」
バトラー・クロフォード大佐(51)。
それは敵国の軍人であり、若き日、とある戦場でカサヴェテスと拳を交えた男だった。
当時は互いに銃を失い、丸腰の状態で死闘を繰り広げたが、ふと周囲に誰もいないことに気づき、あまりの馬鹿馬鹿しさにその場で笑い合って戦いをやめた。そして一晩中語り合い、「お互い生きていたら、またやろうな」と別れたきり、二度と会うことなどないと思っていた宿敵であり、唯一無二の戦友だった。
「バトラー……! それで、どうしてキミがそこにいるんだ!?」
「アーサー、お前、恐竜のフィルムを送ってきただろう? 手紙を添えて」
「あ、あぁ……それを見てくれたのか!?」
「正直言うとな、手紙の内容やフィルムよりも、もっと衝撃的なことがあってな」
「!!?? なんだ!? 恐竜よりもか?」
「ああ。その手紙の最後、『Arthur Cassavetes』と署名があった。あれを見た瞬間、全身に稲妻が突き抜けたような衝撃だったよ……生きてやがったのか、ってな」
「……なんと。だが、待ってくれ。今、俺たちは敵同士だ。キミが手伝いに来てくれたって、いったいどういうことだ!?」
受話器の向こうで、バトラーはふっと鼻を鳴らして笑った。
「フィルムが届いたとき、上層部に掛け合ったのさ。『人類の脅威となるあの化け物を倒すため、軍を出すべきだ』ってな」
少し間を置いて、バトラーは低く笑いを含んだ声で続けた。
「……ま、一番の理由は別にある。あの時、戦場で食い分けた……あの時のビーフジャーキーの礼をさせてくれよ、アーサー」
その言葉を聞いた瞬間、カサヴェテスは目を丸くした。そして声を上げて豪快に笑った。
「ははははっ! おいおい、まだそんな昔の恨み言……いや、恩返しってか? お前らしいぜ!」
笑い声のあと、バトラーは少し真面目なトーンに戻って告げた。
「それでな。もう君の国のプレジデントにも、正式に休戦宣言の通知を通している。……心配するな、正真正銘の助太刀だ。行くぞ、相棒」
電話を切り、外に出るとガントも戻って来ていた。
「ガント! 無事で何より。成果の程は?」
ガントはフライトキャップを脱ぎながら、真剣な表情で答えた。
「リトルボーイの群れを発見して、そっちは片付けたが……途中でデビルを見つけてな、アイアンクラウン号のロケット弾をぶち込んでやろうと思ったんだが、あいつらが意外と素早くてねぇ、なかなか当たらねぇのよ。まぁ、ここから20kmほど離れた場所だから、すぐに脅威になるわけじゃないがな」
「そうか、ご苦労だったな。まずは一旦休んでくれ。……おい、手の空いている作業員はいないか! アイアンクラウン号2機に燃料を満タンに入れておいてくれ!」
カサヴェテスが声を張り上げると、近くに控えていたヴィンスは、ふっと面白そうに笑いながらリアムに視線を送り、小さく目配せをした。
(な?)
その無言のメッセージに、リアムは先ほどの緊張が嘘のように、自信に満ちた表情で力強く頷き返した。
そして――夕方になり、見たこともないタイプの重厚なトラックが数十台、次々と前線基地へと到着した。




