第5章 大空の咆哮 地上の封鎖線
「プシュー、プシュー……」
基地の朝の静寂を切り裂くように、カタパルトの各部から細やかな蒸気が激しく噴き出す。その傍らでは、作業員たちとレオンのチームが慌ただしく動き回っていた。機関車には道具一式と、万が一に備えた大量の武器や弾薬の木箱が手際よく積み上げられていく。
そんな中、カサヴェテス、ガント、エドワードの3人が集まり、これからの封鎖現場での手順について指示を確認し合っている。
「おい、そこらじゅうにある生木を使って、後で密集させた簡易ゲートを作るんだ。隙間をなくして風の抜け道を塞げば、恐竜たちが北上する意味を失うからな」
まだ基地の一角での打ち合わせの時、ヴィンスがトコトコと歩み寄ってきた。彼は指示を出していたレオンの腹を、ガツンと重い拳で殴りつける。
「頼むぞ、レオン」
ドゴォ…
すげー音が周囲に響き渡るほどの強烈なボディブロー。しかしレオンは苦悶の表情を浮かべるどころか、腹を押さえてからりと笑い飛ばした。
「――Yes, sir!」
ニッと白い歯を見せ、頼もしく親指を立ててみせる。屈強な男たちの間に、確かな信頼関係の絆が結ばれていた。
基地の一角では、いよいよ迫ったアイアンクラウンのフライトの時を前に、主要メンバーたちが続々と集まってきた。
その一角では、ルーシーが謎の干し肉をかじりながら、これから飛び立つアイアンクラウン号をワクワクした目でじっと見上げている。
数歩離れた場所では、分厚いフライトジャケットに身を包んだリアムが、「アイアンクラウンNo.2」のコックピットに乗り込もうとしていた。機体の周囲では、整備士たちが手動でプロペラやエンジンの最終チェックを行っている。
カタパルトの唸るような蒸気機関の音と、航空エンジンの低く重苦しい咆哮が入り交じり、その場にいた全員の胸を少年のようにときめかせた。
いよいよ出発の時。
ガントが巨体を揺らしながらリアムの機体へと歩み寄り、窓越しに声をかけた。
「無理すんなよ、スキニー」
リアムはヘルメットのバイザーを押し上げ、不敵な笑みを浮かべながら言い返す。
「You too, Fat-beard(アンタもな、デブヒゲ)」
二人はふっと笑い合い、力強く視線を交わした。言葉はなくとも、互いの実力を認め合う戦友同士の無言のメッセージがそこにあった。
カタパルトの圧力計は限界値を振り切れんばかりに上昇し、今にも吹き出したくて我慢できないほどに熱量を溜め込んでいる。
「よし……!」
現場の空気が極限まで張り詰めたその瞬間、誰からともなくカウントダウンが始まった。
「10……9……8……7……!」
隊員たちの声が低く響く。
「……3……2……1……0ッ!!」
「ガァーーーッ!!」
「プシュードドドドドドドドドド――ッ!! プシュードドドドドドドドドド――ッ!!」
爆発的な蒸気の噴射とともに、カタパルトが凄まじい勢いで前方に射出される。
リアムはタイミングを計り、ガチャンと手動で機体とカタパルトの接続を切り離した。
――フワっ
重力から解放された機体が、一瞬の浮遊感ののち、大空へとその翼を広げる。
ブォーーーーーーーンッ!!
爆音を轟かせながら、アイアンクラウンNo.2は朝の青空へ――皆の歓声を置き去りにして、見事に飛び立っていった。
遠ざかる機体の爆音が頭上で小さくなっていく中、基地の面々がそれぞれに息をつく。
その横でルーシーは、ふと支給物資の木箱から取り出したおしゃれな包みを開き、「パキッ」と小気味よい音を立ててリッチなチョコレートを割り、そのまま口へと放り込んだ。
「おい、ルーシー……。お前、それ……」
すぐ傍にいたカサヴェテスが、ピクッとこめかみを引きつらせながら目を丸くする。
「何よ大佐、美味しいわよこれ」
「それ、俺が個人的に補給物資に紛れ込ませて取り寄せておいた特製の高級チョコレートだぞ……! 勝手に人の私物持ち出すな!」
カサヴェテスの必死のツッコミを聞き流すように、ルーシーは平然とした顔で甘いチョコを味わい、涼しい顔で背中を向けて、小さくベロを出した。




