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外伝 密林サバイバル 出逢い

――1890年。

うっそうと生い茂る熱帯の密林。その過酷なサバイバル演習のキャンプ地に、ジメジメとした熱気と緊張感が立ち込めていた。

一週間におよぶ極限の演習。部隊の若手兵士たちが飢えと疲労で次々と脱落していく中、一人の男がキャンプへと戻ってきた。

当時24歳の歴戦の若手であり、のちに屈強な巨漢となるガントだった。彼は肩に、ぬめりと光る体長数メートルの巨大な大蛇をグロテスクに巻きつけて引きずってきたのだ。

支給された装備は、生き残るためのナイフ1本のみ。その極限環境下で大蛇を仕留めたガントに、周囲の兵士たちは「すげえぞガント!」「これなら数日は飢えずに済む!」と感嘆の声をあげた。

ガントは鼻を高くし、得意げに大蛇をドサリと地面に下ろした。

その時だった。

「……おい、道を開けろ」

鬱蒼とした草木をかき分け、ボロボロの迷彩服を血と泥に染めた一人の少年が帰ってきた。

まだ幼さの残る、しかしその瞳には猛獣のような飢えた光を宿した――新入りの18歳、ヴィンス・ヴァンダイン。

彼もまた、持っていたのは支給されたナイフ1本のみだった。

ガントを含む周囲の兵士たちがふとそちらを見て、次の瞬間、全員が絶句して言葉を失った。

ヴィンスの肩にかかっていたのは、大蛇どころの騒ぎではなかった。

ずっしりと重い巨体を誇る、凶暴なジャガーの死骸だった。頭部にはナイフで一撃で急所を貫いた痕があり、ヴィンスはその巨大な猛獣の足を無造作に掴み、まるでただの荷物のように一人で担いで歩いてきたのだ。

キャンプのど真ん中に、ジャガーの巨体がドサリと投げ出される。地響きのような重い音が響いた。

「……っは……!? おい、ウソだろ……? ナイフ1本で、ジャガーを……?」

ガントは自分の足元にある大蛇と、ヴィンスが担ぐジャガーを交互に見比べ、盛大に顎を外して冷や汗を流した。

ざわめく訓練生たちの中心を割って、隻眼の男がゆっくりと歩いてきた。

当時31歳、鬼軍曹として部隊でその名を轟かせていたカサヴェテス軍曹だった。

カサヴェテスは地面に転がるジャガーの致命傷を鋭い目つきで検分し、それから泥まみれのヴィンスの顔をじっと見据えた。

――1890年、この過酷な密林。

無謀にも素手同然のナイフ1本でジャガーに挑みかかったその無鉄砲さと、狂気じみた眼光。

カサヴェテスはふと、遠い昔、自分自身がまだ若造だった頃の無茶苦茶だった記憶を重ね合わせていた。

(まったく……懐かしいな。昔の俺も、あんな目をしていたっけか)

厳格な軍曹の顔からふっと力が抜け、彼の口元に悪戯っぽくも豪快な笑みが浮かんだ。カサヴェテスは低く野太い声で笑い、ガツンとヴィンスの肩を叩いた。

「おもしれぇヤツが入ってきたもんだ! ナイフ1本でジャガーの喉をブチ抜くとはな、気に入ったぞ、ヴィンス!」

カサベテスが目を細めて豪快に笑ったその時、まだ場数を踏んでおらず、純粋に疑問を抱いた18歳のヴィンスが、真面目な顔で首をかしげた。

「……あの、軍曹殿! すみません!!……ジャガーって、喰えるんですかね?」

――その一言に、張り詰めていたキャンプ場の空気が一瞬で崩れた。

「「「ぶっ……ははははっ!!!」」」

周囲の兵士たちはもちろん、ガントも、そしてカサヴェテス軍曹自身も、たまらず腹を抱えてドッと爆笑した。命懸けのサバイバルを勝ち抜いてきたというのに、最初の感想が「食えるのか」という天然の物言いだったのだ。

「バカヤロウ、食えるに決まってらぁ! 今夜は極上のバーベキューだ!」

カサベテスが笑い声を上げながら再びヴィンスの背中を叩く。

1890年の熱帯のジャングルで、伝説の怪物の原点となる夜が、盛大な笑い声とともに幕を開けたのだった。


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