第4章 その4 招かれざる客 火を吹く弾幕
ーーーその日の16時頃。
マシンガンの反動を受け止めた全身には心地よい筋肉疲労が残っていたものの、リアムの目覚めはすこぶる良好だった。冷たい水をコップ一杯飲み干すと、彼は機体が置かれている場所へと足を運んだ。
しかし、機体のそばに近づいたリアムは思わず足を止める。
「……ん?」
なんと、アイアンクラウンNo.2のコックピットには、すでにひとりの人物が座っていたのだ。
皆が恐縮して誰も触れようとしない機体に臆することなく乗り込んでいること、そして何よりこんな危険な前線基地に女性がいることにリアムは驚きを隠せなかった。だが、彼女が身にまとっているのは紛れもないアーミー服だったため、部隊のメンバーなのだと納得し、自然体で声をかけた。
「ハロー。飛行機が気になるかい?」
その声に、コックピットから顔を覗かせた彼女――ルーシーがパッと明るい笑みを浮かべた。
「ハロー! うん、これ最高にイカすな! ……ん? 君がリアムか? 設計士兼パイロットの」
「あぁ、リアム・ドレイクです。よろしく」
「ルーシャ・デトア、24歳! 今回は部隊の給仕で参加しにきたのよ。みんなからはルーシーって呼ばれてる」
「そっか。明日本番だから、明日見に来てよ、ルーシー」
リアムは、ルーシーが放った恒例の“24歳”というサバ読み発言に対して、微塵の疑いも持たずに爽やかに笑った。
「あ、そうだ。ちょうどエンジンチェックで2台ともかけるところだったんだ」
「本当か!!? やった!!」
目を輝かせるルーシーを一度コックピットから降ろし、リアムは機体の脇へと回ると、手動の大きなレバーを力強く引き下ろしてエンジンに火を入れた。
――ドゥルーゥン……ドドドドドドドド……!
無骨で大迫力のエキゾーストノートが荒野に轟く。
「かっけーーーーっ!」
ルーシーはたまらないといった様子で、さらに目を爛々と輝かせた。
リアムは的確かつスピーディーに計器類を確認し、ほぼ体感のみで機関の好調を見極めると、手際よくエンジンを停止させた。静寂が戻った空間で、彼はルーシーに向き直る。
「よし、チェックは完璧だ。俺は宿舎に戻るけど、ルーシーはどうする?」
「私は鉄路とか、この辺りを少し見てから戻るよ!」
さすがは好奇心旺盛なルーシーらしい返事だった。リアムは軽く手を振り、その場を後にした。
宿舎に戻ったリアムは、作戦を詰めていたカサヴェテス大佐とヴィンスのもとへまっすぐ歩み寄り、「二機ともエンジンの調子は絶好調です。いつでもいけます」と頼もしく報告した。
その報告のその時だった。
「――キャーーーーーーー!!!!」
突如として、静寂を引き裂く女性の悲鳴が基地に響き渡った。
慌てて外に出ると、ルーシーがものすごい勢いで宿舎に向かって全力疾走してくる。
そして、その彼女のすぐ背後には、昨日どうにか撃退したばかりの「リトル・ボーイ」と同型の恐竜が、狂気的な執念で猛追していた。
「……っく! 仕方ねぇ!」
ヴィンスが舌打ちをし、前へと躍り出る。
彼は新手のリトル・ボーイに向かって走りながら、声を張り上げた。んと……なんだっけな?
「――Hey Boy!!」
マシンガン部隊! 1番! 2番! 共に自分から10時の方向に構えろ!!
ヴィンスはそのまま恐竜めがけて真っ直ぐに突進し、こちらへ視線を向けた巨体の隙を突いて、鮮やかな飛び回し蹴りを叩き込んだ。
「いでっ……! 硬てぇ!」
かつて、リトル・ボーイよりさらに巨大なグリズリーと対峙した際、この得意の回し蹴りでようやく相手をよろめかせて逃げおおせたことがあった。それほどの猛撃だ。
だが、まるで太い大木を真っ向から蹴り飛ばしたかのような凄まじい衝撃が、ヴィンスの脛を直撃する。恐竜はビクともしない。
ヴィンスの挑発に乗るように、恐竜はゆらりと身体を完全にヴィンスの方へと向けた。
あぁ、そうだ。俺が敵だ。そんなちっちぇえの食っても腹いっぱいにならねぇだろ? ……俺と勝負しようぜ。
さぁ、来い。
……なんてな。
「――2番、Fire!!」(撃て)
ダダダダダダダダダダダダッ……!!
(※コイツがふらつくか否かでどちらの銃座から狙いやすいかが異なるため、あらかじめ1番と2番の両方に構えさせておいたが、ふらつかなかったため2番を選んで撃たせたのだった)
昨日の小型マシンガンとは比較にならない、据え置き式の50kgをも超える重機関銃の猛火が唸りを上げる。
その圧倒的な弾幕と威力は、確実にリトル・ボーイの装甲を捉え――ついに、恐竜は勢いを失ってその場に崩れ落ちた。
辺りに立ち込める火薬の匂いの中、近くにいた隊員が倒れたリトル・ボーイへと油断した足取りで近づき、ぽつりと呟いた。
「コイツに追われたんじゃ、あのルーシーでもあんな悲鳴もあげるよな……」
しかし、その隊員の背後で、ルーシーの瞳が鋭く光った。
彼女は一気に駆け寄ると、隊員の腹部めがけて強烈なタックルを放ち、その場から文字通り吹き飛ばした。
「いでっ……!」
突然地面に転がされた隊員が、「なにすんだよ、そんなキレるとこかよ」と頭にクエスチョンマークを浮かべながら、腑に落ちない顔で不満を漏らした。
ルーシーはそんな隊員に対し、無言のままパッと自分の手のひらを見せつけた。
何を見せられているのかと隊員がますます不思議そうに眉をひそめた、その直後――。
「――No.5、Fire!!」
少し離れた位置から――
ガガガガガガガガガガガガッ……!!
まだ絶命しておらず、死んだふりをして油断した隊員に襲いかかろうとしていたリトル・ボーイを、No.5の重機関銃が容赦なく蜂の巣へと変えた。
(※掌を開いて見せたその手は、5本指=「No.5の銃座へ合図を送る」ためのルーシーなりのサインだった)
静まり返った現場を見渡し、カサヴェテス大佐は腕を組みながら険しい顔で吐き捨てるように呟いた。
「……大型の動物は暑さが苦手なはずだが……コイツは、そんな理屈が通じるほど大きくもないか」
その後、カサヴェテスはすぐさま周囲の兵士たちに指示を飛ばした。
「おい、トラック2台を出せ! 1台にはマシンガンを積んで警戒用にあてがえ。もう1台には、今仕留めたばかりの『今回の』リトル・ボーイを乗せて、夕暮れ前のバーベキューの準備をしに行くぞ!」




