第4章 その3 作戦とリトルボム
ヴィンスは、カサヴェテス大佐の隣で腕を組みながら、改めて詳細を聞き直した。
「……恐竜がダイナマイトの箱を噛み破って爆発させたとは聞きましたが……」
ヴィンスはわずかに眉をひそめ、冷ややかな驚きを声に乗せた。
「あぁ、20kg入りの手付かずの木箱を暴発させやがったよ」
「に、に、に、ににに20kg!!? そいつを1発で爆発させたんですか!?!!」
あまりの数値の大きさにヴィンスは目を見開き、言葉を失って絶句した。
「そんな頑丈な鉄筋コンクリートの塊だって粉々になるような爆発を受けて、ほとんど体が残ってるってのが信じられねえよ」
「そうだ」
「20kg全部で……? あの規模でそれは嘘だろ……」
信じられないといった様子で首を振った後、ヴィンスはぐっと息を呑み、不敵に冷ややかな笑みを浮かべた。
「……くっ、とんでもねえ化け物だ。冗談にもほどがある」
一通り状況を飲み込むと、ヴィンスは話題を切り替えた。
「で、アイアンクラウン号のテスト飛行の進行具合はどうなんですか、大佐?」
「ナンバー2もナンバー3もテストは成功した。いつでも飛び立てる状態にある」
カサヴェテスがそう答えた、まさにその時だった。
一台の車が、砂埃を巻き上げながら宿舎の前に到着する。
車から降りてきたのは、小柄な若い女性だった。身長は5フィート(およそ152cm)にも満たない。
近くにいた作業員が、面白半分といった様子でヘラヘラと声をかけた。
「おや、おもちゃの兵隊さんかな? こんなとこに何しに来たの、お嬢ちゃん。危ないからママの待つおうちに帰りな」
そのバカにしたような言葉を聞いた瞬間、彼女の表情が凍りついた。怒気を含んだ冷たい視線を一瞬で作業員に向ける。
だが、言葉が終わるより早く、彼女は作業員の腕を鮮やかに掴んで容赦なくひねり上げ、地面に這いつくばらせた。
「「うげ……ルーシーかよ……っ!」」
ただならぬ気配を察して室外へと飛び出してきたヴィンスと周囲の隊員たちが、その顔を見て思わず声を揃えて頭を抱えた。
ヴィンスはげんなりとした顔で大きく息を吐き出す。本名ルーシャ・デトア(Lusha Detour)。ヴィンスとは同郷であり、彼女は一方的にヴィンスを「自分の喧嘩相手」と思い込んでいた。ヴィンスが部隊に入ったきり地元になかなか帰ってこないため、彼に喧嘩を売るためだけに、わざわざ遠回りをしてこの軍に入隊してきたのだ。
実年齢は31歳。彼女が8歳くらいの頃から「自分の喧嘩相手だ」と突っかかってきており、当時ヴィンスがハイスクールに入学したばかりだった頃の思い出話などを延々と聞かされてきたため、周囲の者たちも「どう計算しても31歳だろ」と完璧に把握していた。が、本人は新入隊員が入る度に「私、24歳だから!」と『毎年』言って自己紹介しており、その圧倒的な武闘派っぷりと凶暴さを知っている部隊の面々は、分かっていながらも怖すぎて誰も口に出して突っ込めずにいた。
ルーシーは作業員の手をパッと離すと、カサヴェテスには目もくれず、まっすぐ同郷の仇敵――ヴィンスの元へと駆け寄った。そして、勢いそのままにヴィンスの顔面目掛けて鋭いハイキックを放つ。
ヴィンスは飄々とした笑みを崩さず、片手でパシっとガードして「わかったわかった、相変わらずだな……挨拶代わりは今度にしろ」と涼しく受け流した。
脚を下ろさぬまま、ルーシーは涼しい顔で言い放った。
「給仕班だよ。30人の部隊で来て、まともに食べ物も持ってきてないだろ」
「ハッ、痛いところを突きやがる……」
ヴィンスは呆れたように鼻を鳴らすと、すぐさま周囲の兵士たちに向けて声を張り上げた。
「よーし。バーベキューの準備だ! 次のローテーションに入ってないやつ、5人くらいこっちに来い! それから作業員の皆さん、デカめの鉄板を準備してくれ!」
その指示に周囲がざわつく中、ルーシーはふと遠くの敷地を指さし、そこに転がっているリトル・ボーイの亡骸の方へ視線を向けながらカサヴェテスに向かって尋ねた。
「大佐、あっちのほうに転がってるリトル・ボーイ、もらってもいいですか?」
「構わんが……あんなの食うのか?」
怪訝な顔をする大佐に、ヴィンスはケラケラと笑いながら首を振った。
「まさか! 流石のサバイバーの俺たちも、ほかに食べ物があるならあんなゲテモノ食いませんよ」
そこでルーシーが、不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
「――ダイナソー・ベイト(Dinosaur Bait/いわゆる恐竜ホイホイ)ってやつでしょ?」
「そうだ」ヴィンスがニヤリと笑う。
「あの化け物の隣で、今日の日が落ちる前にリトル・ボーイの丸焼きを弱火で始める。日が落ちてアイツらが行動し始めたら、絶対この匂いに釣られるだろ」
「寄ってきたら、目の前にどデカい肉があるんだから、そこで足を止めてくれるはずさ。……多分な」
カサヴェテスは腕を組み、深くうなずいた。
「今夜のところは、それでうまくやり過ごせそうだな。……よし、明日だな」
ヴィンスはニィッと歯を見せ、力強く敬礼した。
Yes, sir! ――フッ、面白くなってきたぜ。
ウィンズは、声を張り上げた。
全隊員聞こえるか!!
明日の朝イチ、作戦決行だ!!
良いか!それまでここの人間、1人も傷付かないように守り抜け!!
Yes, sir!
男達の声+女性1人の声が鳴り響いた。




