第四話 旧家の依頼(堕ちた神を撃て)――出現、元土地神、いや、邪神
私は攻撃の手を止め、目の前の光景に息を呑んだ。
甲冑サムライが触手に貫かれ身動きが取れなくなっている。鎧の隙間から負の念が噴き出し、触手がそれを貪るように吸い取っていく。
「グ……ォ…!」
甲冑サムライが苦悶の声を上げる。
そして次の瞬間、その巨体は蔵の方へと引きずり込まれていった。地面に深い溝を刻みながら甲冑サムライは蔵の中へと消えていく。
「これは……驚いたな」
いつの間にか甲冑サムライから脱出していたディザスターが黒い霧の姿のまま空中に浮かび、驚愕の表情を浮かべていた。
その濁った瞳が蔵を鋭く睨みつける。
「まさかあの神がここまで力を取り戻しているとは……」
彼の言葉に、私は蔵へと視線を移した。
蔵全体が脈打つように震えている。
壁に貼られた札が次々と剥がれ落ち白壁が内側から黒く染まっていき、そして、蔵の扉がゆっくりと開いた。
その瞬間、あたり一帯の空気が一変した。
異様な圧力。
温度が急激に下がり、呼吸をするだけで肺が凍りつくような感覚。
コクピットの中にいてもその存在感は容赦なく私の全身を貫いた。
「出てくる……!」
カナリアが私の肩にしがみつき、金色の翼を震わせる。
蔵の闇の奥から現れたのは――巨大な白い影だった。
いや、白かったのはかつての名残に過ぎない。今はもうその体はどす黒い穢れに覆われている。
かつては神聖だったであろう白い装束は腐り落ち、黒い霧が肌にまとわりついていた。背中からは先ほど甲冑サムライを貫いた無数の触手が生えそれぞれが独立した生き物のように蠢いている。
頭部には、かろうじて神の名残である光の輪が浮かんでいた。しかしその光はひび割れどす黒い負の念がそこからも滴り落ちている。髪は長く、地面を這うほどに伸びているがその一本一本がまるで蛇のようにうごめいていた。
そして、その顔には――仮面があった。能面のように白く美しいしかしどこか悲しげな女の顔の仮面。その仮面の下からは、泣き声とも笑い声ともつかない声が絶えず漏れ続けている。
「ア……アア……」
仮面の目が、ゆっくりとこちらを向いた。
漆黒の闇を湛えたその瞳には五百年前に虐殺された村人たちの無念が渦巻いている。
「これが……堕ちた神……」
私は操縦桿を握りしめた。手のひらに汗が滲む。
「元土地神……いや、最早今の姿は邪神と呼んだ方がしっくりくる」
ディザスターが小さく呟いた。
その声には、これまでの余裕はなかった。
「五百年の間に、これほどの力を蓄えていたとはな。私と交渉した時は、小さな存在だったはずだが……何らかの方法で隠していたな。さすがは元は神様、というべきか」




