第四話 旧家の依頼(堕ちた神を撃て)――堕ちた神の一撃
堕ちた神が一歩足を踏み出した。地面が腐敗し、その足跡から黒い花が咲いては枯れていく。
「オマエタチ……ミンナ……コロス……」
仮面の下から漏れる声は、五百年前に奪われた命たちの怨嗟の声そのものだった。
私はご神木の方角に意識を向けた。
土地神が完全に顕現したことでご神木が張っていた結界が粉々に砕け散ったのだ。あれほど強力だった結界が、まるでガラス細工のように脆く崩れ去る。
「ご神木は無事なのか……⁉」
私の焦りに、ディストレイが即座に応えた。
『気配を感じる。ご神木は無事だ。結界は破壊されたが本体はまだ生きている。我の『浄化の炎』を彼女に浴びせていたおかげだろう。あれがなければ、確実に命を落としているぞ』
「よかった」
ホッと息を吐く間もなく、土地神が動き出した。
「ア……アア……」
堕ちた神が両手を天に掲げる。
周囲に漂っていた負の念が、その手のひらに吸い寄せられていく。渦を巻きながら圧縮されやがて巨大な黒い球体が形成された。それは先ほどディザスターが放ったものとは比べ物にならないほどの規模だ。直径は優にディストレイの身長を超えている。
「な、何よ、あの大きさは……!」
カナリアが息を呑む。
土地神はその巨大な球体を両手で掴むと、ためらいもなく押しつぶした。
パァンッ!!
破裂音とともに圧縮されていた負の念が一気に解放された。それはまるでダムが決壊したかのような濁流となって、私たちに向かって押し寄せてくる。
「これは⁉」
『避けきれない!』
ディストレイの巨体が負の念の濁流に飲み込まれた。コクピット全体が激しく揺れ、ホログラムの画面がノイズに覆われる。機体のあちこちから警告音が鳴り響き装甲が負の念に侵食されていくのがわかった。
「くっ……! これは……中々まずいぞ!」
私は操縦桿を握りしめながら機体の状態を確認する。装甲のあちこちが黒く変色し、負の念が内部にまで浸透しようとしていた。
「き、緊急モード『浄化の炎』!」
真っ赤なボタンを押すと、ディストレイの装甲の隙間から、『浄化の炎』が噴き出す。
原初の炎はディストレイの全身を包み込み、侵食していた負の念を焼き尽くしていく。警告音が次第に収まりホログラムの画面も正常に戻っていった
「はあ……はあ……危なかった……」
「あはは……すごいな……これが神の力か……」
隣から聞こえた声に私は思わず目を向けた。
そこには、なぜか一緒に流されてきたディザスターが苦しそうにしながらも驚嘆の表情を浮かべていた。




