第四話 旧家の依頼(堕ちた神を撃て)――逃走
彼の体からは煙が立ち上り、黒い霧の輪郭が不安定に揺らいでいる。
「いやいや、どうしてあんたまで流されているんだよ」
私の呆れた声に、ディザスターは苦しげに笑った。
「実はあの負の念を吸収しようとしたんだが……堕ちたとしても神だ。あの負の念の中には神の因子があってな。それらは我らを拒んだ結果、深刻なダメージを受けたのだ。邪神の放つ負の念は我らにとって毒でしかないな」
「自業自得だな」
「違いない」
ディザスターはゆっくりと体を起こし、土地神の方へと視線を向けた。その濁った瞳には初めて明確な警戒の色が浮かんでいた。
「はぁはぁ、これは想定外だ。汚染されているから使えるかと思ったが、残念ながら我らにとっては害悪でしかない。やはり、神々は我らを拒むのだな」
『当然だ! 神々がお前たちと協力するはずがないだろう!』
「……耳が痛いね。これでは俺の計画は破綻したも同然だ」
ディザスターは苦々しく答える。彼の予想を超えた土地神の力は、いかに人外の者であっても制御できない。それはつまり、彼の計画が根本から崩れ去ったのだ。
「で、どうする? まさか、ここで共闘なんて言い出すんじゃないだろうな」
「ふ……それは素晴らしい提案だ」
ディザスターの濁った瞳が一瞬輝いたがすぐにその光は消えた。
「残念ながら、力の半分を注いで創った甲冑サムライは吸収され負の念で逆にダメージを受けた私では、君の力にはなれないな。となれば私が取る行動は一つだ!」
「それは?」
その瞬間ディザスターは私たちの方を向いて、心底気持ち悪い笑みを浮かべた。
「逃げさせてもらう」
次の瞬間、ディザスターの体が霧のように拡散し音もなくその場から消え失せた。
「……はぁ⁉」
『ふははは。さぁ、この地域の人々を救って見せるがいい、紅翔太。もし、君があの邪神を倒せたのなら、今度相まみえた時には、全力で君と戦おう。その時まで、君たちも本来の力を取り戻しておきたまえ。では、さらばだ」
「あ、あの野郎! 一人で逃げやがった! こんちくしょう!」
私はディザスターが消えた空間に向かって悪態をついた。
あれだけ偉そうに戦いを挑んできたくせに、自分の想定を超えた事態が起きた途端にこれだ。
「まあ、パラサイトグリードなんてそんなものだよ。自分の命が一番大事なんだから」
カナリアが呆れたようにため息をつく。
私は気持ちを切り替え土地神を正面から睨みつけた。
巨大な堕ちた神はゆっくりと私たちに向かって歩み寄ってくる。その一歩一歩が地面を腐敗させ、周囲の空気をさらに重く淀ませていった。




