第四話 旧家の依頼(堕ちた神を撃て)――甲冑サムライ
ディザスターが優雅に指を鳴らした。
パチン、という軽やかな音が異様な静寂の中でやけに大きく響く。
その瞬間、彼の背後にある地面が盛り上がった。土が裂け石畳が砕け、まるで地中から何かがせり上がってくるかのように地面が隆起していく。
「なんだ……⁉」
私はコクピットの中で身構えた。
スクリーンに映る映像が、その異様な光景を克明に捉えている。
盛り上がった地面はやがて破裂し、中から現れたのは――巨大な甲冑を着たサムライだった。
その身長はディストレイとほぼ同じ二十メートル前後。全身を包む甲冑は、かつては真紅や黄金に輝いていたのかもしれない。しかし今はどす黒い負の念に侵食され表面全体がドロドロに腐敗したかのような色をしている。兜の下にある顔は見えないが、目の部分だけは虚ろな空洞がぽっかりと開いていた。
そして、その全身からはまるで滝のように負の念が溢れ出し、周囲の地面を黒く染め上げている。
「あれは……あの村を襲った兵たちの怨念か……それとも、土地神が取り込んだ犠牲者の霊か」
私の呟きに、ディザスターの笑い声が答える。
「どちらでもある。五百年の間にあの蔵に溜め込まれた負の念の一部と我の力を、この甲冑に注ぎ込んだ。この世のものとは思えぬほどの怨念をまとったいわば呪いの鎧武者だ」
ディザスターの体がゆっくりと黒い霧へと変貌していく。
その霧は意志を持っているかのように宙を漂い、甲冑サムライの方へと流れていった。
「さぁ、楽しい戦いにしようじゃないか」
霧が甲冑サムライの兜の隙間から、鎧の継ぎ目から全身に染み込むように吸い込まれていく。
そして――甲冑サムライの虚ろだった両目が真っ赤に輝き、ギギギ……と音を立ててその巨体が動き始めた。
「グォォォォ……!!」
咆哮が空間を震わせる。
それは人間の声でも獣の声でもない。
五百年前に無惨に殺された者たちの無念と土地神が取り込んだ怨念が混ざり合った、この世ならざる叫びだった。
「さぁて、これから戦いになるが、相棒。あいつと戦った経験があるんだろう? 私はどう動かせばいいんだ?」
私はコクピットの中で操縦桿を握りしめ、脳裏に直接ディストレイに問いかけた。甲冑サムライはまだ完全には動き出していない。しかしその体から溢れ出る負の念は刻一刻と濃度を増していた。
『すまない。記憶にないので分からない』
「えっ⁉ 嘘だろう!」
あまりにもあっさりとした返答に私は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。戦闘開始直前に、相手の情報を得られないとは予想外だったのだ。




